「独裁者を支える右腕」
「早乙女、東雲の件ですが……」
「分かってるよ」
「ウフフ♪ 本当に何でも見えてますね……右腕の私ですら恐ろしいですよ」
僕には視えている。その後、誰が最終的に勝ち残るのか。僕の人生は他の人とは変わらず、波あり谷ありの人生だろう。そして、僕より優れた人間はいる。赤城旬がまさにそうだ。だが、僕の部下の強さは常軌を逸してる。彼らがいる限り僕が負けることはない。
「EWで、お前は皇色一族をやれるか?」
皇色一族。
訳あって僕と敵対している一族だ。将来、国の重要ポストに着く約束がされている。
世襲制だが、子はどいつもこいつも異存なく優秀らしい。
「何を言ってるんですか、早乙女。私の実力はあなたが一番知っているはずですよ?」
「ふふふっ、愚問だったな」
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「あっ、早乙女くん遅いよ〜」
「悪い、福田。用事があって遅れた」
福田が可愛らしい頬を膨らませながら、指でツンツンしてくる。
「もう、いいけどさ。それで……話って何かな?」
「五十嵐らに伝えてほしいんだが、零組の皇色一族」を中心に攻め落としたい、と伝えてくれ」
「……早乙女くんは自分から言えない事情でも、あるのかな?」
見込み通りの女だ。勘が鋭い。
「さすが福田だな。まさにその通りだ」
「……う、うん!! 分かった。拓哉くんには私の口から言っとくねっ」
福田は、柔らかそうな手を振り逆方向に走っていく。背中が見えなくなったことを確認すると、僕は誰もいない閑散とした教室に足を運んだ。
「ふふふっ……EWが楽しみだな。皇色一族だけは殺しておかないと」
僕は知っている。これから、皇色一族が始める悲劇を。いや、僕が始めることの方が悲劇かもしれない。
皇色一族と僕の間には相応われない関係性があるから、どのみち殺し合いをすることになるだろう。それは早いか遅いかの違い。
一方、壱組では───
「五十嵐、右京、一条、福田、東雲……以上が弍組の中心人物かと」
「……右京以外は弱い」
「は? 弍組のスパイは右京を五十嵐が倒した、と報告してたんだが?」
「五十嵐、右京強い。それ以外、カス」
彼は五十嵐と右京に固執している、高山サラブレッドだ。俊敏性は誰にも負けないことで有名なあの男のひ孫である。
「そう言えば、ジークさんが言ってたな〜『五十嵐拓哉には気をつけた方がいい』て」
零組への所属が有望である“猿楽獅堂”。彼の父はこの国の最終兵器と言われている”十二神将”猿楽碧人”だ。そしてその男は、ブリザード帝国の”英雄”ジーク・フリーゲルの親友でもある。
「ジークさんがそう言うなら、五十嵐は危険人物確定だな。危険人物をどうするかはお前に任せる”神宮寺”」
「……殺しは駄目だ。正面から堂々と撃ち勝つ」
「さっすが桜史郎!!」
「お前がそう言うと、説得力あるわ〜」
「それな〜」
「「てか、お前誰!?」」
二人は僕を見て、目を見張らせている。
「弍組の”早乙女獅音”だ。お山の大将に用がある」
淡々と自己紹介を済まして、用件を手短に伝えた。
「誰だよ、お前。偵察か?」
「よせ。ボン吉。こやつはオレに用があるだけだ。責める筋合いは全くない」
「……分かった」
神宮寺桜史郎。随分と話の分かるやつで助かる。
◯ ◯ ◯ ◯
「早乙女……。お前の苗字に聞き覚えがある」
「早乙女の性は世の中には唸るほどいる。一人や二人、著名人が居ても可笑しくは無いだろう。俺もお前の性には聞き覚えがあるがな」
神宮寺は不敵な笑みを浮かべた。
「思い出した、早乙女王龍だ」
早乙女王龍。僕も聞いたことがある。
元・十二神将で、先の大戦では”無双の龍将”と言われる程の金星を挙げたらしい。
その功績のお陰で、引退した今も“特権”の使用が認められている。
「本当に、お前の父では無いのか?」
「さぁな」
王龍は本当の父だが、僕は認めては居ない。何故なら彼は多くのエルフ族を残滅するどころか、必要以上に彼らを傷つけたらしい。
噂によると、投降したエルフの死体をバラバラに分解させて、エルフの里へ輸送するほど。
噂なので事実ではないが、王龍の残酷さを物語っている。
「それよりも、僕は君にある事について話したく、ここに呼んだんだ」
「何だ? 言ってみろ」
「君は……」
僕らが話し終わる頃には、壱組の作戦会議は終わっていた。僕らはとても長く話していたようだ。話した時間は一瞬。とても短く感じた。
もうやるべきことは殆ど終えた。後は、EWの対抗戦に備えて実践を積むだけだ。実践の訓練は明日に行われるだろう。
◯ ◯ ◯ ◯
二日後、EWでクラス対抗戦が始まった。生徒たちは今、零組4人がどこに配属されるか発表を待っている。
壱組の担任、八神銀二郎が前に出た。白銀の長髪が特徴的で、さらに恐ろしいほど整った顔立ちをしている。国内で五本指に入るルックスの持ち主、と言う噂は伊達ではないらしい。
壇上に立つと、女子からは黄色い声援が鳴り響く。男子たちの表情は嫉妬と怒りに燃えており、エネルギッシュだ。八神は類を見ないほど淡々としており、常時無表情。やがて、発表の時がやって来るとその柔らかい唇を開き、甘い声で発表する。
「では、発表します───」
彼が声を発しただけで、現場は混乱。女子たちは君の悪いほど黄色い声援を飛ばし続けた。もはや教師らでは手に負えないほどの団結力。どこぞバスケット選手のように親衛隊でも出来そうだ。
「壱組は赤城旬」
講堂内にどよめきが走る。赤城と言えば三大一族の一つ”皇色一族”だからだ。さらに赤城旬は神童と呼ばれている存在、知らないはずがなかった。
だが、そのどよめきも小さい。それは赤城旬の顔がどこにもないからだろうな。
「そして、黄道琴音」
彼女の顔も見当たらない。生徒らはこの学校に、皇色一族の人間が2人も居て、驚いている。それもそのはず、零組の生徒は試験以外で他の生徒と接触は好まないからだ。
「次に弍組は───」
隣の生徒は固唾を飲んで、先生の言葉を心待ちにしている。周りを見渡しても大体そんな感じだ。三大一族が相手では分が悪い。だからそれ相応の相手を求めているのだろう。僕らは上の階級の士官を目指している。そのためには、この学校で功績を挙げなければならない。だが、EWで死んでは洒落にならないため生徒らは貪欲に強い奴を求めている。
「ミシェル=モーレット」
弍組の生徒の頭には疑問符が浮かんでいる。その名前を聞いただけでは、優秀なのか劣等なのかわからなのだろう。まぁ、彼女はあまり有名ではないからな。
「二階堂文康」
これは僕も知らないぞ?
周りからは「終わった」「リタイアしよう」とかそんな悲観的な声が聞こえてきた。無理もない。あちらは皇色一族でこちらは無名の特務大将。こちら側が負けることは誰の目から見ても明らかだろう。
「これから10分間作戦会議タイムをとった後、EWを起動してもらい君たちには早速、戦ってもらう」
10分間。この間に零組と弍組に顕著に表れている、亀裂を取り除かないといけないわけだが……
「二階堂くん、明日の17時空いてる?」
「ずるいよ、美奈子ちゃん」
「二階堂くんと約束してるのはアタシなの!!」
女子による二階堂争奪戦が始まっていた。これが僕の知らない闇社会の実情、か。
零組の赤城と黄道は顔を合わせることも嫌がり、顔を出さなかったがミシェルと二階堂は現れた。
裏で動いているのか?
「北沢さんも成田さんも瀬南さんも少し落ち着こう。僕らはこれから、死ぬかも知れないんだよ? 僕は死にたくない。とても怖い」
本音なのか怪しいが、リーダーとしての立ち回りはお手のものだ。
「わたし……」
「僕らはとても怖いと思っている。大胆不敵な右京くんだってそうだ。内心、ビクビクしているだろう。それは壱組だって同じこと。だが、そんな時こそ、僕らは一致団結して勝利を掴み取り、次のEWの試験まで身がきを掛ける必要がある筈だ」
声色、表情、仕草には文字以上に情報が記されている。美奈子、特に君は顔に出しすぎだ。もっと二階堂を見習ってもらわないとな。
「じゃ〜あ、まず二階堂くんとミシェルさんの自己紹介から」
後ろに控えていたミシェルが、前に躍り出る。姿は騎士服でとても凛々しい。そして、美人な顔つきには似合わず大層な剣を持ち歩いてるようだ。
「わぁ〜、かわぇぇ」
一条の頬が綻んだ。さっきまで死ぬそうだとか言ってた奴がこの変わり様である。
「私のことはミシェルと呼んでくれ。そして、私たち零組はこの話し合いには参加できない。お助けは1回まで。よく話し合って決めるように」
「一回!? 頼りっきりは駄目なのか……」
「そう言う事になる。そもそもこれは君たちの育成のため、人材の取捨選抜のために行われている試験だ。覚悟はしておいた方がいいだろう。……二階堂何をしている。自己紹介をしろ」
「……」
「おい、聞いているのか?」
二階堂の両隣にいる女子らも「どうしたの?」と心配そうに二階堂を見る。二階堂は何も答えない。ずっと、晴天の青空を眺めたまま、ぼーっとしていた。
次の段階に進もうとした時、二階堂は初めて口を開いた。




