「皇色一族のイケメン王子」
「早く、お家に帰りたいですよ。こんな話、私にとっては無意味ですし」
少々、怒気の混じった口調でわがままを言い振る。僕も右京に賛成だが、こればかりは仕方がない。零組の情報も気になるし、時間の散財にはならないだろう。
「右京〜、俺も早く家に帰ってゲームしてぇわ。俺ら同じだな」
「いやいや、一条くん。あなたと私を一緒にしないでください」
「そんなこと言わずにさぁ〜」
いつからこんなに仲よかったんだ? この二人。男と男の馴れ合いはどこか不思議な感覚がする。
「拓哉、20日空いてる?」
「20日は空いてないね……。21日なら暫定的だけど一応空いてるよ」
「じゃあ、21日デートねっ!!」
「うん、そうしようか」
僕の隣で騒々しくも、イチャイチャしている奴らは校内きっての美人カップルの五十嵐&桃原だ。五十嵐は彼女持ちなのにも関わらず、今でも人気がある。それは桃原も同様だ。僕の知らない闇世界ではカップル争奪戦が何度も繰り広げられて来たらしい(影道情報)。
「よしっ、もうみんな集まっ……あれ? 早乙女くん、どこ行くの?」
「……もう、分かっている」
僕は急いで教室から出て行き、あるところへ向かう。
まだ間に合う。まだ一人も……犠牲者を出すわけには行かないんだ。
45%の力で走り抜ける。一定の速度を維持しつつ、周囲を観察した。
こっちにはいないな……。次はあそこを探すか。
「君、ここで何をやってるの?」
「……ッッ!?」
一瞬、全身の鳥肌が立った。この世のものとは思えないほどの憎悪が溢れ、人格が食い裂けそうになる。
「あれ? 獅音”様”ですか?」
「お前……かッッ!!」
「普段、感情を表に出さない獅音様が一体、何に喜んでるのか私は気になります」
「お前らの仕業なのだな。皇色一族……」
「何のことでしょうか? いや、惚けてもしかたありませんね、獅音様にはアレがありますから……それにしても一瞬で人格制御する獅音様はさすがです。私の……目に狂いはなかった……!!」
「”黙れ”」
「……っ」
(何と言う”狂気”……体が硬直して動かない)
「言っておくが、僕の能力は最強だ。僕の運命を易々と変えられると思うなよ?」
僕は彼女の元まで、闊歩して射程距離まで近づくと片手で首を絞める。
「う……っ」
(知能も腕力もバケモンじゃん……)
「僕は強くないが、君如きに負けない。今、僕はここで君を絞殺できる。ここで死ぬか後で死ぬかどっちがいい?」
「あっ……ああ……ッッ」
選択肢を与えるも、首を握る手を緩めない。僕が首を緩めると即座、ゲームオーバーになるから。
「ふっふっふ……憎き奴を苦しめても、僕は愉悦を感じないなぁ」
「”それは、知ってるからでは?”」
その男が話すと場は変わる。その言葉は荒ぶる魔族をも沈め、ありとあらゆる軍人を支配する領域。間違いない……この男は、この国のトップを約束されている”皇色一族筆頭・”赤城旬”だ。
「”俺は怒ってるよ、獅音君”」
「……!?」
震えが止まらない……。
何なんだこの感覚は。増幅した憎悪の感情が、最も容易く鎮められ、僕はこの男に屈服しかけている。
「”駄目だよ、獅音君。俺の駒を離さないと”」
その男がこちらへ闊歩してくる。距離が近づくほど、死期が早まる感覚。
駄目だ。出てくるな。
僕は家族を守るんだ、それは僕しかできない。
”だから、絶対にこの手を離すな”僕。
「あっ……あぁ……ぁぁ」
目の前の女は、死にかけている。でも、何で赤城は歩を速めない……?
「ふっ……君は、本当に手間を掛けさせるね」
赤城は口角を上げて、余裕の笑みを浮かべる。姿勢、身なり、口調から”絶対的な自信”を匂わせた。
「”黄道くん”」
「……っ」
瀕死寸前だった、黄道の体にわずかだが力が蘇る。
だが、次第にその力は増長していき気づけば僕の拘束を破っていた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「何だよ君。死にかけてた奴の目じゃないだろ」
彼女の目は死んではいない。寧ろ、生を受けた赤ん坊のように輝かせていた。
「”殺せ”」
僕と赤城は対立関係にある。なので、命を狙われることも不思議ではない。この場で殺しにかかるとは思ってもいなかった。
「───ご命令のままに」
そして、黄道は犬のように命令に従い僕に攻撃を仕掛けてきた。
「遅ぇよ……」
だが、その攻撃が僕に当たることはなかった。
「……あなたが怒ると手が付けられなくなりますからね♪」
こいつが僕を庇ってくれたからだ。
「早乙女、殺しますか? 私たちの創る未来には邪魔でしょう」
「やめとけ。お前が暴れたら必要以上に死人が増える」
「私たちは長い付き合いです……まだ、その時ではないと言いたいのですね?」
「そうだ。今はまだその時ではない」
「あなたがそう言うのであれば事実なんでしょう。赤い髪の坊や、一時休戦です」
「……こっちは命拾いしたね。ありがとう、二人とも」
「またまた、ご冗談を……♪」
僕の右腕は”天下無欠の男”。負けるところを想像できない。
「”二人とも、今度また会おう”」
そう言い残し、黄道と赤城はその場から去っていった。次に会う日はいつになるだろうか……?