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「担任の演説」

「貴様ら、喧嘩は終わったのか?」


 東雲は担任の尻に敷かれており、身動きは取れない様子。担任はそれを解く気配もないまま授業を始めようとしていた。


「はい。終わりました」


「分かった。では記録に残しておこうか」


 担任はポケットに忍ばせていたメモ帳とペンを取り出した。


「何を、記録に残すんだぁ?」


「この喧嘩の功労者を記録し、一学期の成績に加える」


「え? マジっすか!? なら俺、VIPじゃん!!」


 確かに一条はそれ相応の活躍をした。だが、最終的に事を治めたのは一条ではない。人間は面白いことに、中盤の記憶は曖昧だが序盤と終盤はよく覚えている。終盤に活躍し、全てのことを治めた五十嵐が一番の功労者かもな。

 しかしそれは、VIPを決めるに限ったこと。

 成績は7つの力で決まるので、それぞれ違う面を評価されてるだろう。


「いやいや、俺だろ!!」


「お前は迷惑しか掛けてねぇーし」


「あ? やんのか、ゴラァ!!」


 東雲はいつものままでいい。生徒たちの記憶から軽薄化されていく、その時まで君は───


「皆んな!! 静かにしようよ」


 優等生の福田が周囲に呼びかけた。女子を中心に騒動は沈下していき、やがて男子にも伝播していく。暫くすると、教室内は授業中のような静けさに変貌する。

 

 福田は人望が厚く、ネットワーク網が広い。その上、頭が切れる。

 五十嵐の女版と言った方が、話しは早いだろう。福田に似た人材は所有している。

 今更、福田は要らない。

 

「ほう……貴様らもうかうかしてられんぞ!! これから”緊急”でクラス対抗試験を始める」


「急すぎやしませんかぁ!?」


「だから、緊急なのだ。いいな? この試験は成績に直結し、将来にどのポストに着くか決まる重大なものだ」


 このクラスメイトを見て、心を少しは入れ替えたようだな、担任。


「貴様ら!! 俺は一度しか言わんからよーく聞け」

 

 ぐるりと生徒らを見渡し、いつもよりもゆっくり話す。


「壱組と弍組が”ある場所”を巡り、戦争する。当然、死者も何人かでるだろう。だが、安心しろ。私の見込みでは死者数は限りなく0に近い。何故ならば、魔族も召喚できるからだ」


 ちなみに魔族とは、人間外の知的生物を総括した概念である。


 最近、お隣の山田花子さんと仲良くなった”黒闇影道(こくあんしゃどう)”が質問した。


「魔族は話せるんですか? 危険ではないのですか? コストはいくらですか?」


 一度の質問で、三回も連続で質問をする男。最近、本の面白さに気づき好奇心が高まったらしい。それのお陰か影道(しゃどう)はよく質問をし、吸収するのが早い。


「ごほん……一つ目から順に答えようか。魔族は我々人間と同じように話せる、が知能は魔族によって異なる……次に危険ではないのか、と言う質問だがこれは質問自体が場違いだ」


 ごくりと影道の唾を飲み込む音が聞こえた。

 先生の顔つきが一新する。


「”()()は軍人の過酷さが分からんのか!? 軍人はなぁ、今こうしてる間もみんなの為に命張って生きている!! 軍人になると志した以上、命捨てる覚悟もてやぁ!!“」


 

 まだ、クラスメイトの大部分には軍人の”本当の過酷さ”を知らない。過酷さを与え続けている当事者だからこそ、僕たちはそれをよく知っている。

 これから、君たちは命とはどれだけ脆く価値のないものか、軍人の現実、命の選抜……全て自分の身で体験するはずだ。

 それでも君たちは僕たちと”戦うのか?”

 僕がその勇姿を見届けてやろう。

 

「先生ぇ〜……」


 まばらにパチパチと拍手が鳴る。


 鶴半家凡太。君は死ぬ瞬間でも同じようなことを言ってられるのか……?

 いや、それはないだろう。僕の読みはいつも”絶対に外れなかった”。

 彼は死ぬ瞬間、生徒をも置き去りにして逃げ出す。追いつかれると、次は命を助けてもらう為に家族、友達、学校関係者……関わりある人、全てを売るだろう。


「……拍手なんてするな!!」


「……?」


 担任は続けた。


「俺は、出来た人間なんかじゃない……。辛ければ逃げ出し、悲しければ泣く……ごく普通の人間だ。だが、一つ言えることがある。死んだら何もかもお終いだ……だから、この試験で誰も死ぬなよ!!」


 驚いたな。まさか、こんなお面を持っていたとは。


 クラスメイトは喫驚した顔で担任を見ていた。ここまで悲しそうな顔をする、担任を始めて見たからだろう。拍手の代わりに、生徒たちは決意の証として、強く頷く。


「ちょっと、話がズレたな。あと、三つ目の質問のコストはいくらか、についてだがそれは答えられない。その代わりに、もう一つ情報をくれてやる」


「もう一つの情報……」


「この試験、零組も参加するぞ」


 賑やかな空気は一変、閑静とした空気に包まれた。


「お前らもよく知ってるようだな。零組は”何かの目的”の為に始動した特異大将の集まり。我々が、敵として会えば最後とまで言われているほどの強さを各々、秘めているだろう」


「ひえ……勝てっこないだろ」


「そんなことはないぞ、溝内。特異大将には特異大将をぶつければいい」


「あっ、そうか」


 特異大将は軍の中で、上から二番目の階級。学生生活を送りつつ、大将の仕事をこなす、特異的な大将らしい。


「おっと、メールが来たようだ」


 東雲を捕縛していた、尻を上げて来た通知を丁寧に読み上げた。内容を簡単にまとめると、こうだ。


 ・時間が外部の干渉により、延期に。

 ・日時はおそらく二日後。

 ・零組の3名に緊急任務が入り、試験不参加。


「大将まで出勤する騒動、担任も心中穏やかではないでしょうね」


 右京が不穏な笑みを浮かべて、隣の僕に話しかけて来た。


「……僕もそう思うよ」


 後ろの席の面子収太(めんこしゅうた)は、念仏を唱えて身の安全を心配している。

 クラス内の地位も下の中である面子が心配するのも頷ける。


「面子くん、心配する気持ちも分かるけど二日もあるんだから安全性の高い策が練れるよ!! きっとね」


 五十嵐……影の薄い面子の位置まで把握し、その上会話に耳を澄ませていたのか。

 やはり右京、五十嵐は別格だな。


 そして、僕らは放課後に集って作戦会議を始めた。






 

 






 



 



 



 

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