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「一条VS東雲」

「早乙女、昨日の暴動は面白かったですねぇ」


「あぁ、そうだな」


 この男はもう気づいているのだろう。担任はプライドが高いだけの教師、ということに。


「ちゃんと……私たちの部下に出来ましたか?」


「あぁ、もう僕の手足同然だ」


「 ()()()()()()()()


「……これからが正念場だよ」


「ウフフ……わかってますよっ♪」


 その男は黒いコートに袖を通した。


「もう、行くのか?」


「これから任務があるので」


「そんなに……急がなくてもいいんだぞ?」


「大丈夫ですよ、私は怪物ですからねぇ」


 そう言うと、その男は立ち去って行った。



 翌日、僕はいつものように登校した。40人いたクラスメイトは無慈悲にも20人にまで減らされている。

 あの試験で二分の一も脱落者が出るとは思ってもいなかっただろうな。


「お、おう……早乙女」


 脱落者の中には溝内の友達がいたようで、随分とショックを受けている。理不尽、とも言えるやり方で脱落されては腑に落ちないだろう。本当にこれが実力によるものなのか、疑問に思う生徒もいる。


「俺さ……脱落した生徒はどこに行くんだろうって考えてたんだよ」


「確かに気になるな」


「もしかしてさぁ、退学だけではなく肉体的な罰でも与えられるんじゃね?」


「さぁ、どうだろう……?」


 僕は知っている。この世の中がどれだけ腐ってるか。今はまだ溝内が知ることではないだろう。


「溝内。いつまでも暗い顔すんなって」


 無邪気に声をかけたのは毒舌イケメン、東雲朱雀(しののめすさく)。毒舌のせいで全く女子からモテない、残念なイケメンだ。


「お前はさぁ……いいよなぁ」


「あぁ、この面か? がっはははは、お前にゃあ無理だ溝内。俺のようなイケてる面にはなれねぇよ。だって、お前の親はブサイクだもんな」


 平気で暴言を口にする東雲。一切、罪悪感を感じることなく罵る胆力は尊敬に値する。


「おい……俺の親を馬鹿にした、な?」


「あ? そのまま事実を述べただけだぜ?」


 溝内は般若のような顔つきに変貌し、無言のまま東雲に殴りかかった。


「───ッッ!!」


 東雲はその拳を受け流したあと、カウンターを溝内の鳩尾に迷わずぶち込んだ。溝内は一瞬、呼吸ができなくなったのか地面にうずくまる。普通の生徒ならここで喧嘩を止めるはずだ。だが、目の前の肉食獣は普通ではない。力一杯、握り拳を作ってそれを再び鳩尾に打ち付ける。


「や、ヤベェよ……あいつ、死ぬんじゃないか?」


 クラスメイトは溝内のことをとても不憫に思っていることだろう。だが、その闘いに口を挟む者や止める者は一向に現れない。


 否、福田と五十嵐のみ行動に移そうとしていた。


「この喧嘩、これ以上やっても意味はないよ!!」


 凶暴な肉食獣らの喧嘩に割って入ったのは、男子を束ねる五十嵐ではなく福田。東雲の身長は186.5センチで福田の身長は158センチ。かなりの差があるのも関わらず、福田は目の前の巨躯に全く怯まない。


「あ? テメェも殺すぞ」


 東雲の眼には危うさが映っている。本当に実行してしまいそうな危うさだ。その時は福田自身に犠牲になって貰うしか、ないだろう。

 今の僕が割って入ったところで……


「溝内くん、死んじゃうよ!! だから、だからね? もうやめてよ……」


 福田の大きな瞳からは大粒の涙がポロポロと流れ出た。


「桃華ちゃん……」


 福田に同情する者は多いだろう。明るく元気で、誰にでも心優しい福田が涙を流せば多くの人は心を動かす。何故ならば、福田に対して恩を感じているからだ。顔がいいから、と言う理由も少なからずあるが。


「おい、ほっといていいのかよ……福田を傷つけていいのかよ……福田は女神だ!! 俺たち男子はその女神様を傷つけていいのかよ……!!!!」


 一条が咆哮し、自分より遥かに体格の良い東雲に立ち向かった。それに続いて取り巻きも東雲に襲いかかる。


「チッ……雑魚は引っ込んでろや!!」


 東雲のパワーは凄まじく、リーチの長い腕を斧のように振るうだけで2、3人が後方に飛ぶ。体型はすらっとしているもののパワーは桁違い。

 東雲と同程度の身長がある、溝内が大敗したのにも納得がいくな。


「うらああぁぁぁ!!」


 一条は強大なパワーに何度打ちのめされようが立ち向かった。みんなを守るため、傷つけさせないために。


「鬱陶しいんだよ、カス!!」


 五十嵐のすらりと伸びた足が一条の首に直撃。一条は当然、地面に倒れ伏せる。


「がっ……あああぁぁぁ、ぐっぐぐぐ……」


 床の上で何回も何回も転がり、痛みに悶絶していた。


「がっはははは、この俺に逆らうのが悪りぃんだ!!」


 制服に返り血を浴びて、真っ赤に染まった東雲が一条の頭を踏みつける。残酷にも先ほど痛めつけた首を踏みつけていた。


「あああぁぁぁぁぁ……!!!!」


 一部始終を見ていた他のクラスメイトたちは全く動こうとしない。動けば殺される。そんな空気を肌で感じ取ったからだ。東雲は普段、ムードメーカー的な存在だ。だが、怒らせたら殺人鬼にもなりうる危うさをもっている。僕はそんな脆さを結構、気に入っている。


「や、やめてよぉ……なんでそんなことするの」


 目の前で見ておきながら唯一、被害を被っていない福田。今、空気にならなければターゲットは君になるのに……


「あぁ?」


 全然答えようとはしない東雲。軽く福田を目で威嚇すると再び強く、一条の頭を踏む。


「もう、やめて!!!!」


 もうこれで一条は……と思ったその時、福田が一条を庇い東雲を押し倒した。


「───ッッ!? また、テメェかああぁぁ!!」


 逆上した東雲は福田の眼前まで拳を振り上げた。その拳はぷるぷると震えており、怒りを制御出来ていないことを匂わせる。


 その拳は止まることを知らない。女子は殴らない、と言った淡い期待は打ち破られ福田の頬にパンチが入った。


「きゃあ!!」


 苦悶の表情を浮かべ、黒板まで吹き飛んだ福田。僕は気になり、覗いてみたところ彼女の目に光は消えていなかった。だが、ダメージが大きかったのか体は動かないらしい。


 僕は、これからこんな生徒を()()()()() こんなにも勇敢で、心優しい人間を殺してもいいのだろうか? 

 息つぐ間もないほど、疑問が頭をよぎっていく。


 だが、現実の時間は止まりはしない。東雲の暴走は一向に衰えることを知らず、暴行を止めようと行動した一条らクラスメイトを完膚なきまで叩きのめす。


「先生は、まだ来ないの……?」

「うん、もう少しで来るだろうけど……」


 離れたところで暴行を心配そうに傍観している女子二人組。この前、僕にちょっかいを出してきた渡辺と浜本だ。彼女らには一定の恐怖を植え付けてある。その恐怖は記憶をも改ざんしてしまうほど。僕のことはあまり覚えていないだろうが、再度恐怖を見せたら記憶は戻るだろう。


 だが、僕が東雲を止めてもいいのか? 止める資格はあるのか? 僕はこれから大量殺人者になりうる人間だ。王になる以上、その運命は避けようがない。自分に関係のない奴らは迷わず見捨てる。そんな冷酷な判断ができなければ王になんて、なれやしない。

 だから僕は憐憫の感情を押し殺しここまでやってきた。今さら救って、何が変わるんだよ……。


「一条……!! 弱ぇ癖に何度もたちあがってくんじゃねぇ!!」


 一条はまだ立ち上がる。


「俺は、”俺は負けねぇ!!”」


 ボロボロの体を奮い立たせて拳を突き上げる。そして宙に舞い、足を旋回させて蹴りを放った。


「!?」


 まだ、奴は倒れない。何故ならばこれが初めて受けた攻撃だから。


「”俺は諦めねぇ!! クラスメイトを、友達を、女を泣かせる奴は大っ嫌いだああぁぁ!!!!”」


 まだ、諦めないのか一条。お前はどれだけの修羅場を潜ってきたんだ……。

 僕の心の、何かが少しずつ動き始めてる気がした。


「うおおおぉぉりゃあああぁぁ……ッッ!!」


 盛大に体を捻り、その拳に全てを賭ける。


 驚異的なスピードで加速する拳は東雲を目の前に捉えた。


 東雲はその瞬間、ニヤリと笑った。

 まるで()()()()()かのように。


「雑魚に負けるようじゃ……ッッ!?」


 避けたかのように思われていた東雲は遥か上に吹き飛んだ。勢いよく、血潮を噴き上げて。


 東雲は確かに避けた。だが、一条はそれを予見してもう片方の拳で東雲にアッパーを食らわせたのだ。







 


 




 





 








 


 

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