「王と奴隷」
「貴様ら、ようやく帰って来たようだな……!!」
瞬間移動すると、そこには鬼のような形相を浮かべた担任が貧乏ゆすりをして現れた。
「担任……!?」
「何だと、山崎。俺の名前は鶴半家凡太。入学式の時、貴様らの前で2分も時間をかけて自己紹介したはずだが?」
名前が出て来たのは最初の方だった。実質2秒てとこだろう。僕たちが”担任”と呼ぶには理由がある。それは、苗字も名前も面白おかしく、腹を抱えて笑いそうになるからだ。この世のものとは思えないゴツい顔と名前がギャップを生んでおり、ツボる人にはツボる。
「忘れてはいません!! 一瞬のことで驚いただけです」
「……次からは俺に無駄話をさせるんじゃねぇぞ? 山崎」
「は、はひっ!!」
無駄話してたのはどっちだよ。クラスメイトは笑わないように唇を噛んでいたり、今にも吹き出しそうな表情を浮かべてるやつもいるが、笑ってもいいんじゃないか? 僕は笑うためのエネルギーが残されていないけど。
「チッ……まぁ、いい。貴様ら、よくやった……(ヤベェ、話すことない)これにて解散だ」
「え……解散?」
「二度言わすんじゃねぇ!! 解散だ、解散。今日の授業は終わった」
「まだ、二限目じゃ……」
バンっと無機質な音が教室に鳴り響いた。つるっぱげが教卓を叩き割った様子だ。
「二度、言わすんじゃねぇぇぇぇぇ!!」
「……ぅす」
つるっぱげな言動に戸惑いながらも教室を出て行くクラスメイト達。あちらこちらからつるっぱげの悪口が聞こえてくる。もう、完全に嫌われたなつるっぱげ。そんな中、僕だけは閑散とした教室に身を残した。
「……おい。貴様ァ、舐めたんのか?」
「????」
つるっぱげさん。荒れすぎて若干、語彙がおかしくなってます。
「何を?」
怒りの頂点に達したのか、つるっぱげは僕の襟を掴んで汗臭い体に引き寄せた。
「俺は、解散や言うた筈や!! 聞こえんのか? あ?」
「なんで……」
「あ?」
「なんで僕がつるっぱげに従う必要がある?」
「〜〜〜〜っ」
怒りが限界突破しちゃった感じ? つるっぱげの体はやかんのように熱くなっていき、太い腕は血管が浮き上がっていた。それは当然、演技のようには見えない。普通はね。
「ぶっ……」
「ぶははははっ……!!」
さっきの光景が嘘のように、つるっぱげは笑い始めた。
「やはり試していましたか」
「あぁ、そうだ。まさか、見抜けるやつがいるとは思わなかったぞ!!」
やけに馴れ馴れしい。つるっぱげはこんな事もできるのかな?
「早乙女はどこで分かった?」
口調も優しくなってるな。よく、あそこまで取り繕えたものだ。
「一番初めからですよ」
「……詳しく聞かせてくれ」
「はい。つるっ……いや、鶴半家先生は入学初日から様子が変だった。嘘をつくと普通は不安感を大なり小なり抱えてしまうものです。あなたのような善人は特に。さて、鶴半家先生、その反応はどういうものだと思います?」
「さぁな……」
「動悸が早くなります」
「ほう……」
つるっぱげは顎に手を当てて、感心したように頷いた。
「なんだ? 早乙女。君は俺の動悸を聞き取れるのか?」
「いえ、僕は動悸が早くなったかどうか見た目で分かるんです。これ以上言えないですけどね」
僕の力は、まだ伏せておきたい。
「ゴホン……今日は帰りなさい」
「ふふっ、そうしましょう」
僕は机の横にあるホックに引っ掛けてあった鞄を手に持ち、教室の外へ出た。つるっぱげは遅れて出て来て、つるっぱげの提案で途中まで一緒に帰ることになった。
鶴半家先生は他愛もない話をして、僕を笑わせようとする。周りから見れば仲の良い生徒と先生に見えるかも知れない。でも、実際は違う。
”王と奴隷の関係”だ。
「じゃ、じゃあまたな。早乙女」
職員室の扉に手をかけようとした時
「あっ、つるっぱげ。僕、言い忘れてたよ。お前そのプライド、早いとこ捨てろよ」
つるっぱげの表情は見えなかったが、体が一瞬硬直したことはわかる。
つるっぱげ、お前の失敗は俺の成功を引き立たせるための調味料だ
俺はいずれこの世界に革命をもたらす。
お前は俺の踏み台のために生まれた存在。
こうなるのは”絶対”だ。




