「僕は新世界の王になる」
僕はあの日、間違いを犯した。
「な、何なんだよ!! おまえ!!」
「ば、怪物だあ!!」
僕に恐怖を見せつけられ、怖気付き、泣いて、逃亡する者100名。僕は歯向かうものには容赦しない。
でも……強がってはいるけど僕は孤独だった。3歳の頃に母親に捨てられて親、兄弟、友達……何もかも失った。
これ以上、失う物がない僕にとって人の命など奪うことは造作もない。まるで盗み食いをする様に、人の命や当時、恐れられていた魔族たちの命を奪っていく。
「つまらねぇ……」
世界がモノクロに見える。白と黒しかない世界。僕にとって世界とは単純明快、生きるか死ぬかの世界だった。
「おい!! いたぞ、あのガキだ!!」
僕を追いましてくる大人もいた。その名を軍人という。5歳の頃、初めて人を殺してから3年間、僕は軍人追われていた。
「かっ……ああぁ……っ」
なんて脆いんだろう。なんて醜いのだろう。僕は軍人を憐れんでいた。毎日、毎日地獄のような訓練を受けて肉体や精神、技を鍛え上げても、僕のような悪者に殺られてしまう。楽にしてあげたい……いつかそう、思うようになった。
「君が、早乙女獅音くんですねぇ?」
「大丈夫。この僕に向かってくる勇気を称えて、君たちも楽にしてあげる」
「面白こと言う餓鬼ですねぇ」
いつの日か、最年少で軍階級”中将”まで登りつめた男とも戦った。
「くっ……」
「どうしましたかぁ? 最近、軍を騒がせている”死神”はこんな者なんですかねぇ」
この男の戦闘力は今まで戦って来た軍人の比ではない。中将は指揮力がより重視されるのだが、こいつは戦闘力も桁違い。だが、不思議とその男は僕を殺そうとせず武器は一切使用しなかった。
「さぁ、今がチャンスですよ。この先にこれから貴方の親となる人が待っています。」
それどころか、僕に逃亡する隙まで与えようとする。そう、僕はこの日負けたんだ。だけど何も感じなかった。悔しくもないし嬉しくもなかった。だからとりあえず言われたとおりに逃げる。
「君が獅音くんかい?」
そこには僕の里親がいた。里親はエルフ族だ。勿論、すぐに反抗した。しかし、それでも僕に愛情を持って接してくれた。突き放しても、里親は僕と関わることをやめない。
時間が経つにつれて、僕は彼らに心を開き始めた。
多くの時間を費やして、『無償の愛』というものがどういうものなのか、分かってきたからだ。
しかし、幸せの時間も長くはなかった。狂乱大戦が勃発したことにより、魔族の末端であるエルフ族も参加することになったのだ。
やがて、大戦は終結を迎えて家族と再会した。奇跡的に皆、無事。大怪我を負っていないので後遺症もなかった。
でも、もし家族が亡くなったら……
正気の沙汰ではない。
全てを憎み、全てを壊し、殺戮の人生にまた逆戻りするだろう。
『だから僕は、どれだけの人間を殺し、憎まれ、蔑まれようとも、家族のために平和な未来を創る。何億、何兆もの人間を犠牲にしても僕は必ずやってみせる。たとえ僕が世界の敵になろうとも───』
あれから4年後。
僕は高校生になった。
高校はどこにしたのか?
まず、普通の高校は入らない。どうせ退屈だからだ。それに……僕には夢がある。
僕は”新世界を創る”という夢が。
そのためには仲間を集めておくことも必要だろう。
そんな訳で、”特殊士官学校”に入学したのだ。
今日は入学式の日なのだが……
僕がぼーっとしている間に入学式は終わった。
講堂の両端に陳列していた先生たちは、個性豊かで中々面白そうだ。中には先の大戦で大金星を上げた人もいたし、[この国が誇る最終兵器]元・十二神将もいた。流石、特殊士官学校だけある。
ちなみに、僕の教室での席順は横一列目の縦三列だ。丁度、目の前には教卓がある。教卓の周りには生徒が輪をつくって集まっているため、非常に気まずい。目の前の光景を見ないように、机にうつ伏せになって寝ることにした。
「おい、起きろ」
「……」
「おい……」
「……」
「おい!!!!」
「……何?」
担任が襟元を掴み、自分の元に引き寄せる。
どうやら担任はもう来てしまったらしい。
「お前なぁ、舐めてんのか?」
舐めてる?
何を言ってるんだ、このおっさんは。
脳内に出てきたワードをそのまま言うわけにもいかず、微笑んだ。
「……」
担任は気に入らなかったのか「チッ」と舌打ちを鳴らし、その場に僕を放り投げる。
「大人を舐めてちゃ偉い目に遭うぞ?」とありきたりな捨て台詞を吐き、教卓に戻っていった。
付属の引き出しから、何やら大きい箱を取り出すと力技で箱を解体する。
その中から出てきたものは『スマホ』だ。
「これから、特殊なスマホを配る。後ろに回せ」
そういえば聞いたことがある。
この学校では特別なアプリを扱っており、そのアプリの中で様々な訓練が施されると。
担任からスマホ四台分を渡されたので、それを後ろに回した。
後ろを振り向くと絶世の美女、ではなく影が薄そうなオタク系男子。
顔を凝視するわけにもいかないので、すぐにスマホに向き合った。
見た目は普通のスマホだが、中身のアプリは見たことのないものばかりだ。
「これらのアプリは特殊士官学校内でしか使用できない。貴様ら、一番左上のアプリを見てみろ。これはEWと呼ばれているアプリだ」
押したらどうなるのかな?
つい、好奇心に駆られて押してしまった。
だが、何も起こらない。
「このアプリを起動するためには学校の許可を貰わなければならない。起動しようとしても無駄だ」
生徒を満遍なく見渡してるつもりだろうが、俺だけに視線が向く。
40人も生徒がいるのによく観察してるものだな、と感心する。
「EWでは貴様らが士官だ。BPで様々な兵科や武具を購入することができ、それらの采配は貴様らに任せる。だが、気をつけるべき点がある。それは、仮想現実と現実が連動していることだ」
クラス中にどよめきが走った。
生徒たちはは一応、安全が保障されているものだと思っていたからだろう。
そう言った思い込みが、自分の足元を掬うことになる。
「……どういうことですか?」
まだ、状況をうまく飲み込めていない生徒が質問した。
「そのままの意味だ。例えば仮想現実で怪我を負ったとしよう。そうなれば現実でも等しく怪我を負う。勿論、仮想現実で死ねば現実世界でも死ぬ」
まだどよめきは収まらないようだ。
しかし担任が教卓に強く拳を打ち付けると、静寂の時間が訪れた。
再び担任は説明し始めた。
「総合評価によって、ゲーム内で使えるポイント”BP”は決まる。総合評価は主に武力、知力、胆力、伝達力、統率力、権力、カリスマ性の5つの能力の平均で決定され、それぞれS〜Dの5段階評価だ。これらの能力は一学期終了後に測定される」
武力は個人の武の力。
知力は頭の良さ。
胆力は度胸。
伝達力は意志を疎通する力。他の学生とうまくやっていけるか、コミュニケーション能力が試される。
統率力は指揮力のこと。
権力は学校内での権力に限る。容姿や地位など。
カリスマ性は多くの人を魅了する力。
と、言ったところだろう。
どのような基準で決定されるかは随時連絡があるそうだ。
「さて、質問のある者はいるか?」
「先生」
クラスの男子リーダー格(多分)である五十嵐拓哉が挙手した。
「なんだ?」
「僕たちは誰と戦うのでしょうか」
「同クラスで戦うこともあれば、他クラスとも戦うだろう。AIと戦うことだってあるかもしれないな」
この学校には三クラスの教室が存在している。零組、壱組、弍組だ。零組は去年、各7つの能力(武力、知力、胆力、伝達力、統率力、権力、カリスマ性)でトップの成績を収めた生徒らが在籍しているらしい。クラス対抗戦にはたまに参加するが、義務的にではない。それは、彼らが臨時で戦争に参加する将官“特異将軍”だからである。
「ほかに質問はあるか?」
ナイフのように鋭い視線が、生徒一人ひとりに向けられる。
ビクッとする生徒もいれば、全く動じず本を読んでる生徒もいた。
「ないみたいだな。では、別の説明をさせてもらおうか」
担任はいつもより増して真面目な顔をする。一体、何の説明が始まるのやら……
「突然だが、この特殊士官学校は一年で卒業できる」
「一年!?」
クラスのムードメーカー(多分)・一条が教室外に漏れる程の大きな声を上げた。
一条を起点に教室内が騒めく。担任の怖い面など目に入っていない模様だ。
「落ちついて、まず担任さんの話を聞こう!!」
鶴の一声で、あっという間に騒音は収まった。そして生徒らは何人かを除いて真剣な顔つきで担任の話しに耳を傾けようとしている。五十嵐という生徒は入学式から数分で、リーダーとしての器を魅せてくれる、面白い人材。
担任はそんな様子を見て鼻で笑い、再び説明を始めた。
「他の士官学校は四年。だが、この学校は一年。何故だかわかるか?」
「それだけカリキュラムの質が高い、ということか……」
五十嵐が独り言のように呟いた。それに対し、担任は満足気に頷く。
「その通りだ。この学校は王が直属に管理しておられる学校。予算も通常の士官学校とは比べものにならないほど多く、カリキュラムの質が高い。だから、この学校の出身者からは毎年、十二神将が現れるのだ」
十二神将。それは大将の中でも最強格である”十二人の将”のこと。去年は卒業早々、十二神将に抜擢された天才がいたとか。この学校には逸材が何人いるだろう? 僕は胸の内から高鳴る鼓動を抑えられずにいた。
「貴様らも励め。先輩に負けないように精進しろ。我々が戦争に勝ち、平和を創るのだ」
教室内からは大歓声が湧き上がった。教室にいるほとんどの生徒は国の士官になる為に集まってるもんな。僕は王になるけど。
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これから話しが進むにつれて、早乙女獅音の葛藤や早乙女獅音の残酷さを目にするかと思いますがどうぞよろしくお願い致します。
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