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翌日、血溜まりを残して“ワカガシラ”と“ミナコ”が消えた。
恐らく飛んだんだと思う。
リベンジするにも“ワカガシラ”はそこそこ強いとは言え、ボスには全く敵わないし負わされた傷はかなり深いので、完治するまではかなりの時間を必要とするだろう。
逃げた先のグループも壊滅しているし、何も残っちゃいないから行動を起こすにしてもイチからになる。
アタシとしては、組織内の問題が半分片付いたので物凄くサッパリした。
尚、“ミナコ”の子である双子のチビ達については、オバチャンが
「この子等は私が暫く面倒見ておくよ。感染症にかかってるし、“マキコ”も息抜きは必要だべしな。」
と、暴れる双子をシーツでぐるぐる巻いて預かっていった。手持ちの薬では対処出来ないみたいで病院へ連れて行くらしい。
あの厳つい犬達がいる家かぁ…まあ、オバチャンん家はアミモトさんを筆頭におっかない顔が多いしな。
チビ達、頑張って慣れろ。
オバチャンの後ろで辰っつあんがデカいため息つきながら「お嬢、嫁き遅れなのに子供預かるって…マジ嫁行けよ」って呟いてたのは見なかったし聞かなかった事にしておこう。
辰っつあんも頑張れ。
バッチリ聞こえてたオバチャンに、尻を蹴っぱぐられたのは仕方無いと思うよ?バカだな。
平和な日々が続いて、組織の中にも少しずつのんびりした空気が漂っている。
アタシはいつものようにオバチャンの所へ行って、日替わりご飯をご満悦で堪能していた。
うん、今日もご飯が美味しい。
米はアミモトさんが作ったほぼ無農薬の自家製米。甘いけど、さっぱりした味。
そしておかずは漬けにした、辰っつあんが獲ったぷりっぷりで甘いヒラメ。
途中で出汁を入れて、出汁茶漬けにしてシメる。
美味しくない訳がない、旨味たっぷりの海鮮飯だ。
口元をちょいちょいと拭きながら、ご飯の余韻を楽しんでいたら、
ーあー、腹減ったぁ!ご飯まだある?
なんて言いながら“ジュニア”が入ってきた。
うわ、またあちこち軽いけどケガしてるじゃんコイツ。何してんのさ。
オバチャンは救急箱持ってきて手早く“ジュニア”のケガの手当てをしながら、あちこち身体を調べながら
「骨折とかはないけど、アンタ最近どうしたんよ?毎日どっかしらケガしてっけどさ。」
と事情を聞いている。
うん、それはアタシも思う。
辰っつあんが盛り付けしたヒラメ漬け丼をかっ食らいながら“ジュニア”は
ーん?いや、俺も頑張んなきゃなって思ってんだよ。俺のオヤジって強かったんだろ?
口元に行儀悪く米粒やゴマを付けたまま答える。
口の中を片付けてから喋ろ。汚いな。
コイツの父親は確かに強かった。
ある日、小さかった“ジュニア”を連れてふらりとここへ居着いた。
とても愛嬌があり、人懐っこく、ここの組織の連中とは違い顔つきも丸っこくて、この世界に生きるモノっぽくない、雰囲気も顔付きも憎めない、気さくで力を誇示しない男だった。
それが見た目や性質とは裏腹に、あっと言う間に組織の天辺へと上り詰めた。
アミモトさんや修さんですら、人たらしでちゃんと筋を通すこの男には特別に目をかけていた程には好感を持たれていた。
ーあぁ。アンタのオヤジは強かったねぇ。見た目に騙されてどれだけの馬鹿が沈められたか。
思い出してアタシは苦笑する。
オバチャンは
「本当に“ジュニア”はまんまそっくりになってきたねぇ。“タヌキ”はさ、秀吉みたいな奴だったよね。抜け目無いけども憎めない奴ってのはああいうのを言うんだな。元気かなぁ?」
なんて言ってる。
辰っつあんも「んだんだ。アイツは特別可愛い奴だったなぁ。」とニコニコしながら相槌打っている。
そうだ、アイツは“タヌキ”って呼び名だったな。
強かった“タヌキ”の血と見た目を息子である“ジュニア”は継いでいる。経験が足りないから補うようにあちこちで喧嘩を売り歩いているが、化ければ当代ボスすら危ういだろう。
“タヌキ”は…あの男は、当代ボスに不意打ちを食らって大ケガを負い、ある日突然ここを去った。
衝撃的だった。
オバチャンだけでなく、アミモトさんやその部下達すらも騒いだのを覚えている。
組織の掟として、ボスは負けたら去らねばならない。
率いるモノとして相応しくないから。
完全なる実力至上主義。
代替わりした当代ボスは、腕っぷしは強いがワンマン気まぐれ気質なので“タヌキ”贔屓だったアミモトさんはかな〜り苦々しい顔をしていたっけ。
多分だけど“タヌキ”が組織の長としては異質な男だっただけだと思う。アタシ的に。
この場にいる皆が“タヌキ”の思い出にほっこりしながら会話をし、それを意外そうに聞いている“ジュニア”。
親の評価なんか聞く事なんて無いからなぁ。
でも、これで“ジュニア”の方向性が定まるのかも知れないし、定まっているならもっと強まるのかも知れない。
悪い事ではないはず。
元に“ジュニア”も“タヌキ”のようにアミモトさんや修さん、部下達には可愛がられているし、片鱗はもう既に芽を出し伸び始めている。
コイツが次代のボスになれば、“タヌキ”の頃のような組織になるのかも知れない。
アタシは“タヌキ”がボスになるちょっと前から在籍してるけど、“タヌキ”の時代が一番好きだったんだなと今更ながら自覚した。
皆が伸び伸びとしていた。
この組織にあるまじき雰囲気だったけど、そんな事はお構いなしにのんびりとした空気が心地よかった。
理不尽が無かった。
アミモトさんとの緊張感もほとんど無かった。
そう思うと“タヌキ”は良いボスだった。
突如、がたり、と空になった丼が鳴った。
ーごちそうさん!ちょっと行ってくらぁ。
“ジュニア”はそう言って立ち上がる。
アタシは慌てて
ーちょ、どこ行くのさ?ケガしてんだよアンタ!
と引き止めようとしたが、“ジュニア”は事も無げに
ーオヤジの話聞いたら、俺、改めて頑張んなきゃって思ってさ。あと2人シメたら戻ってくるから!
ニカッと笑って、止める間もなく走り去っていった。
「あれも親譲りかねぇ。」
苦笑しながらオバチャンが丼を片付け、辰っつあんに投げる。
“ジュニア”の無鉄砲はいつもの事。
若いとは言え、程々にしてほしい所だが自分の親が組織の外の人にも評判が良かった話を聞いて奮起したのなら、それを止めてやるのは野暮ってもんか。
走り去ってった方向を暫し見つめてから、アタシは仕事の続きに戻った。
みやじさんのコンサート、行って来ました!
コロナが起きてから初参戦でしたが、声出しちゃいけないのはかなりの苦行でした…( •̀ㅁ•́;)
でも、隣席のガチ勢お姉さん(知らない人)と手を繋いで踊ったりとめちゃくちゃ楽しかった&感動して号泣したコンサートでした♪
みやじさん、皆さん、ありがとうございました!!