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数日過ぎ、今日は晴れてはいるが強風が吹き付けて身体が砂っぽい。
海も白波が少し立っている。
そんな風を受けながらアタシはじっくりと身体をほぐす。
今日はネズミ共を狩る日だ。
肥え太ったネズミ共はアミモトさん達の仕事にダメージを与える厄介者なので、アタシ等組織のモノはアミモトさんに協力し、奴等を狩る。
文字通り「邪魔しないように姿を消してもらう」のだ。
アミモトさんが対処してもいいのだが、どうにも漁師の時間と違う時間に行動しているので手が回らないとか。
聞けば、漁師もあちこち面倒な問題を抱えているようで、悩みの種は片付けるたびに沸いてくるらしい。
それ以前にオバチャンがランニング中にぶつかってブッ飛ばした挙げ句、更に勢いあまって蹴っぱぐったのがネズミの一味だったようで、面倒が広がる前に「潰せ」とゴーサインが出たのだが。
いや、それよりもオバチャンの体当たりに蹴りくらって無事なのか、ソイツ。骨の一本は持ってかれてそうだが。
小物から大物まで数だけは多いので、男共だけでなく女達でも狩れる力があるやつは参加する。
幸い今日は巻き上がった砂混じりの強風が吹き付けている。
如何な生き物でも砂混じりの強風の中にいれば警戒心が削がれるので、狩るには良い日だ。
先発隊を出し、狩りながら進捗状況を確認。
ーおい、“ビジン”。今いいか?
物陰から血の匂いを振りまいてのっそりと出てきたこの男は組織のナンバー3にいる“ミスタ”。
オバチャン曰く「ミスったタトゥーだからお前“ミスタ”ね。」で呼び名が決まった。
オバチャンから見ると、どうやら“ミスタ”の紋々はそうらしい。よくわかんないけど。
うわぁ、あちこち血が付いてんじゃんコイツ。
何で上手くヤれないかなぁ?ってか拭いてこい。ヤツ等にバレるだろうが。
若干顔を顰めつつ報告を聞く。
ーネズミ共が利用していた鳥共な、アイツ等もやったわ。
鳥もヤッたのか。
アイツ等も厄介だったし丁度良いか。
ネズミ共に情報が伝わらずに済むから、リスクが減る。
ーでも、よく狩れたね?アイツ等逃げ足だけは早いし騒いで注目集めるの上手いから大変だったっしょ?
小首を傾げながら問うてみると“ミスタ”はあっさりと
ーあぁ、だから囲んで見せしめに一匹だけ仕留めた。
自分に付いた返り血を拭きながら事も無げに言う。
なるほど、それなら鳥共はしばらく近寄らない。
仲間がやられたら、一目散に逃げる連中だ。
アイツ等は他人の犠牲の上に自分が立ってる事を知ってるからなぁ。アイツ等を全滅させるならそれこそアミモトさん一派とオバチャンがいないと無理だ。
それにしても囲んでボコったのか。
ま、いっか。
鳥共がいないなら、狩るには好都合過ぎる。
ふんふんと頷きながら思わぬところで好転した事態に、これからどうしようかと脳内を整理していると
ー中浜地区、殲滅完了
ー浪戸地区、終わったぞ
ー新浜地区も同じく
あちらこちらから進捗報告が入る。
ネズミ共はこちらの思惑通り、どんどんと追いやられ、追い詰められている。
報告通り、慌てふためいて喚き散らし、命乞いをしているだろう姿が浮かぶ。
残党がいると面倒だ。女達に指示を出し、シラミ潰しに狩るよう指示。
そろそろ飽き性の“ボス”の気が散る頃合いだろう。そうさせないよう、ネズミ共の頭を仕留めてもらうためにもアイツの所へ行くか。
ネズミ共の頭は身体だけはゴリッゴリに大きいので、何があるかわからない。特攻を仕掛けられたら女達や若い衆はヤバい状態になる。
ナンバー2の“ワカガシラ”も傍にはいるだろうけども、もしもの時の為の保険だ。
何よりアミモトさんの条件と信用を裏切ってはならない。
トップをすげ替えるのは簡単だが、迷惑するのはそれより下にいるモノ達なのだ。
アタシは組織と女達を守る為、現場に向かって走り出す。
慌てふためいてみっともなく逃げ回るネズミ共を見つけ、にいっと口を歪めて犬歯を剥き出しにし、襲いかかる。
刹那
暗闇に相応しい静寂と、むせ返る潮の匂いとそれに似た血の匂いが辺りを支配した。