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恙無くその日ものんべんだらりと夕方まで過ごし、いそいそとオバチャンの所へ急ぐ。
あちこちの家々から美味そうな夕餉の香りがふうわりと漂い、鼻腔から味覚を刺激し否が応でも腹の虫を刺激してくる。
ーどうか厄介事が起きませんように。
祈るように願う事は、それのみ。
だって!
オバチャンがクロソイ料理を作ってくれるんだ。食いはぐれたら悔やみきれない。旬の魚はそれだけで美味しいもんだと漁師町に生まれたら誰しもが知ってる。
自然と早まる歩調に気づいて苦笑しながら、暖かな灯りと香りのあの場所へ急ぐ。
「おー、“ビジン”いらっしゃい!ちゃんとクロソイ釣ってきたよ。さ、おいでな。」
良かった!まだあったよ!
うん、と返事を返し、いつもの場所に座る。
組織の男共が先にかっ食らっているのが少し腹立たしいが、騒がしくしている若い衆は「うるせぇ!大人しく食べな!!」とオバチャンにどやしつけられている。ざまぁ、なんて思いながら大人しく待っていると
「お待たせ。釣りたてクロソイの煮付けだよ。」
かたり、と置かれたトレイにはホカホカと湯気を上げる煮付けとすまし汁に箸休めの小鉢。
クロソイの身を解し、少し冷ましながら食べる。
ホクホクで脂の乗った白身は柔らかく煮付けられていて、皮目の塩っぱさと丁度いい塩梅で手が止まらない。
一匹丸ごとの豪華な煮付け。贅沢だ。けど、美味い。キンメの煮付けも美味いけど、これもなかなか。
オバチャンの味付けは身体に優しくて、沁みる気がするのは気の所為じゃないと思う。
半分程食べたあたりで、食堂の入口に誰かが佇んでいるのに気がついた。
「あれ?“マキコ”じゃん?どしたのアンタ。」
申し訳なさそうに少し頭を下げる“マキコ”の足元には双子のチビ達がいた。
あぁ、また|姉"ミナコ"の子供を押し付けられたのか。
思わず舌打ちしたくなるのを堪えているとオバチャンが笑いながら
「“マキコ”、そんなトコにいないで入ってご飯食べな?チビ達も腹減ってんだろ、アンタが食べないと手ぇつけられないじゃん?」
オバチャンは“マキコ”達を招き入れ、さっきどやしつけた若い衆に
「手前等は食ったらさっさとどきな!」
と追っ払い、ささっと片付けて座らせた。
それから“マキコ”達のトレイを作り、チビ達用のトレイをちゃちゃっと仕上げ、持っていく。
知らないヒトにチビ達はビックリして隠れてしまうが、美味しそうな匂いと空腹には勝てなかったのだろう。おずおずと座り直すと匂いを嗅いで恐る恐る口にすると目を輝かせてがっつき始めた。
ー姉ちゃん、おいしいね!
ーこんなお魚、食べたことないね!
ーゆっくり食べなさい、取られたりしないから。
“マキコ”とチビ達の食事風景を遠目から優しい顔で眺めるオバチャン。
お互いにチビ達の母親である“ミナコ”の所業を知るからこそ“マキコ”と罪の無い双子にはどうしても甘くなる。
同じくらい“ミナコ”には苦々しい思いを抱く。
何でこんなに姉妹で違ってしまったのか。
アタシにはわからない。
女達が協力して子供達を見ていても、知らぬ存ぜぬで押し付けるのは道理が通らないし、そんな勝手は許されない。
現に今も苦情はアタシの所にも来ているのだ。
食事を終え、ゆっくり立ち上がるとオバチャンは
「気をつけて帰るんだよ?」
と、アタシの頭をぐしぐしと撫でながら見送ってくれた。
美味しいご飯にオバチャンの励ましでお腹も心も満たされているのに、何故か少し苦い思いがこびりついて消えなかった。
帰り道に見上げた空はさっきまで零れそうなほど星が散ってていたのに半分消えていて、温くて湿った風が吹き付けていた。
初心者あるあるで、続きの書き方どうやんの?!とひとりパニクっておりました(^_^;)
誰しも一回はやらかしているはず!(多分)
クロソイ、旬を迎えますねー。
昨日は何故かタイが釣れました。
鱗パリパリなポワレにしていただきました♪