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海鳴の町綴り  作者: あんこ猫
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ガタガタと窓を鳴らす風が吹きつける。


でも、海はちょっとのざわめきだけしか見せない。


アミモトさんなら、この波をこう見立てただろう。


うねりが起きた、と。



あの素手喧嘩(ステゴロ)が起きた一戦から数日。

組織は目立った変貌など無く、平常運転で動いている。


あれから詳しく聞いたところ、負けて組織を追い出されていた“タヌキ”は小浜地区の後ろ盾に保護され、そこで傷を癒やしながら、小浜地区組織の面倒や交渉を請け負っていたらしい。

小浜地区の組織も実働部隊が高齢化や亡くなったりしていたのもあって、ごっそり抜けてしまったために、若い衆の教育の為にも“タヌキ”の存在は丁度良かったようだ。


今回の侵入騒ぎに関しても、元ボスを追い込む為と他組織の牽制と撹乱に上手く使ったカタチになった模様。


作戦としてはこれ以上無く上手く進んだのだろうが、おかげでアタシの胃はヤバかったがな。


まぁ、その胃を少し犠牲にはしたけども、小浜地区の組織と協定を結べた事はかなり大きい。

あっちの後ろ盾は、アミモトさんの知り合いでもあるようでこちらにとって何ら問題は無いし、寧ろ歓迎する要素のほうが大きい。

ついでに通り向こうにある上浪戸のシマにいる組織とも、オバチャンを通じて友好関係を結べたのは嬉しい誤算だった。


見えない所で、動いてくれていた“タヌキ”には感謝しかない。


元ボスの支配下だった数日前から、この組織は以前“タヌキ”が支配していた頃よりもっと良くなる。

いや、良くなっている。


あちこちにあった「うねり」が波を生み出し、其々が打ちあがったり打ち消しあって海は次第に凪いでいくように。


ようやく。


ようやく、平穏を手にするという実感がじわり、じわりと湧き上がりつつある。


やる事は今迄と変わらないけれど。

それでも拠り所が出来て、子と触れ合う時間が増えて、暮らしを楽しめる日々を過ごせるならば、アタシは汚れ仕事を甘んじて受けよう。

犠牲無しに成し遂げられる平穏は無いように。


あれから“タヌキ”は忙しいながらも、アタシの部屋へ来て子と一緒に過ごす事が増えた。

オバチャンの所で一緒にご飯を食べる事も増えた。

子もすぐに懐き、テコテコと後ろをついていったり真似したりする事が楽しいようだ。

アタシ等をニコニコしながら見守るオバチャンに、辰っつあんが「お嬢、だから自分の事を気にしろって…」と言いかけて、オバチャンの蹴りか裏拳が飛んでくるまでがセットになりつつある、このやりとりだがアタシ等家族にとっても仲間達にとってもいつもの風景に追加されている。


そして“タヌキ”のとりなしで、“ミスタ”にもイイ(ひと)が出来たらしい。“ミスタ”が初心過ぎて意外だったけど、何か頑張れ。


信じられないくらい穏やかで、満ち足りて、幸せな日々。


まだ細かい処理は残っているけれど、アタシはようやく訪れたこの日常を、思いの外享受している。



でも、うねりはまだ、消えて無かったようでーーー


ある日、オバチャンが用事があるとかで夜ご飯を届けてくれる事になった。

丁度その日はアタシも見回りがあり、夜に出なくちゃならなかったので、ご飯の心配が無くなってラッキー!なんて事を考えながら路地を歩いていた。


裏路地から明るい表通りへ抜ける。

街灯やクルマの明かりが眩しくて、暗がりから出てきたばかりのアタシは思わず目を眇める。

中心から外れている場所とは言え、暑くなってきているこの時期は夜でも人出がある。


人波をするすると、すり抜けながら歩く。


たまに声を掛けられるので、愛想を振りまきながら返事をする。運が良ければ、差し入れをもらったり。


そんなやり取りをしながら目線だけをあちこち向けながら歩き、見回る。


そうして数時間、何事も無く、対象も見つからなかったが交代の時間が近付いてきたので待ちあわせ場所へ向かおうと踵を返すと


ー“ビジン”!このババァ!アンタのせいでアタシと“ワカガシラ”はっ!


あちこちケガをし薄汚い姿で裏路地の暗がりから現れたのは、姿を消した“ミナコ”だった。


自分等がやらかした事をアタシに逆恨みして、今、ノコノコと姿を現したんだろう。

筋違いも甚だしい。

アタシをババア呼わばりしているが、お前も同い年だろうが。

いや、そもそもコイツは底抜けの馬鹿だった。

自分の思ったようにしか解釈しない、クソガキ。


組織を危険に晒して制裁を食らったお前等の、当然の罰だった事を忘れるとはね。

呆れてモノも言えない。

もうアンタ等の帰る場所は無いのに。


しかしアタシは、突き抜けた馬鹿の、馬鹿たる愚かさを判っていなかった。


ーああぁあぁぁぁあぁ!死ねえぇぇぇぇぇぇぇ!!


ドンッ


“ミナコ”のタックルを受け、避け損なったアタシは車道に飛ばされる。


あの貧素な身体の、どこにこんな力があったのか驚く。

アタシに対する殺意で生み出されたとするなら、一周回って感心すらするが、やはり馬鹿は手に負えない。


「キャアァ!」と歩道から悲鳴が聞こえるが、アタシの目には突き飛ばし、目脂やら膿、傷で汚くなった鬼の形相でニタリ、と嗤う“ミナコ”のムカつく(ツラ)と、視界に迫る、刺すような眩しい光



ギュキキキィィィィーーーーー!!


ー“タヌキ”、ごめん。


 そしてアタシの、可愛い、子…ごめん。





**************************

〈オバチャンside〉


私はその日、仕事の打ち合わせと食事会に出掛けていた。


クライアントが少しヤバい業種の人だった為に付き合わざるを得なかったが、面倒だった食事会も早めに切り上げ、何とか帰宅する事が出来た。フリーランスはまるっと一人でやらなきゃならないので、上手く立ち回る事も必要なんだよなぁ。好きな仕事だけど、ダル過ぎる。


艶々と磨き上げた愛車を飛ばし、もうすぐ家に到着する、と言う所へ差し掛かると、対向車からけたたましく発せられたタイヤのスキール音がギィン、と耳をつんざく。


打ち合わせと食事会でイラついていた私は「チッ。五月蝿えな。ドコの馬鹿だ。」とボヤき、急停車した対向車のライトに照らされたソレを見てーーーーーーーー私はザアッと血の気が引いた。

本革を巻いた、ハンドルを握る指先が温度を失う。



あれ、は    “ビジン”じゃないか!




急ブレーキで愛車を止め、“ビジン”の元へ駆け寄った。

出血し、手足を折ったのか歪な方へ曲がっている。


「“ビジン”、“ビジン”!しっかりしな!」


意識を失わないよう叫ぶように呼びかける私に、弱々しく耳をピクリと動かし、すんすんと弱々しく私の香りを嗅いだ彼女は絞り出すように



「…なぁお…ぅ…」



と、ひと言だけ、鳴いた。


この子はいつも小声で鳴く。

けれど、いつもよりか細く鳴く声は、まるでーーーーー。


泣きそうになりながら私は血まみれになるのも厭わず“ビジン”を抱えて愛車へ戻り、シートに機材保護用の毛布を敷いてそっと横たえる。

愛車を起動させ、ハンズフリーでいつもの獣医を叩き起すよう電話しながらクラッチを蹴っ飛ばし、6速までギアを上げて更にアクセルを踏み込んで加速させる。

エンジンが、そのスペックを遺憾無く発揮するように唸り、有り余る力を生み出して駆動系機関に伝達する。

ギアをアップし、流れるようにアクセルを踏み込むたびに車体前部がクンッと沈み、インチアップしたスポーツタイヤがアスファルトを噛んで力強い加速を生む。

手塩に掛け、あらゆるカスタムを施しメンテナンスしている機体は、レースでも峠でも負け無しの相棒だ。

今はただ、ひたすらに“ビジン”を救う為だけに、愛車はその凶悪なまでの性能を解放し、私はそれを制御しつつ駆る。



ー頼む!生きててくれ!

 アンタはまだ死ねないだろう?



願うは、ただそれだけ。


ゴアッ!ドンッ!ガゴオォォォアァァーーーッ!!


デカいタイコ(マフラー)から感情を吐き出すようなエグゾーストの爆音を残し、私は生命を零さないよう、夜を駆ける。



ウチの護り神、龍神に祈る。




****************************


ざざぁーーん ざん ざざぁーーーん

ざあぁぁ…っ ざざっ ざざぁーーーん


いつものように、聞こえる海鳴りの音に意識がゆらり、ゆらりと覚醒してくる。


夏も終わりかけ、台風が来る度に日ごと涼しさが増すこの時期だが日差しはまだまだチリリと焼いてくるように照らしてくる。


暑い…


くるり、と寝返りを打ったアタシの胸元に、もふっと埋まる少し成長した体。

あぁ、お日様の匂いが心地良いな。


ーまま、おはよう!おからだ、いたくない?


ーおはよう。ふふっ、大丈夫よ。お腹空いてない?オバチャンとこ行こっか。


アタシは愛しい子をギュッと抱きしめ、「生」を実感する。


幸いにも、アタシは生き延びた。

そして、この部屋に帰ってこれた。


運び込まれた病院で集中治療を受け、何とか命を繋げられた。獣医の腕も良かったのが幸いだった。

五体満足、とはいかず足に少し麻痺が残ったが、歩き回るには支障無い。


治るまで帰ってこれなかったけど、オバチャンを始め辰っつあんや“ミスタ”、“ジュニア”、“シマコ”、“おふく”達等に支えられ、子の面倒も見てくれていたようだ。

仲間達やオバチャンには感謝しかない。

同時期にあの双子のチビ達も治療を終えたらしく、一緒に戻ってきた時は組織だけじゃなく、アミモトさんや町の人も大騒ぎになったのは想定してなかったが。


帰ってきてから“ミスタ”に知らされたが、“タヌキ”が“ミナコ”の所業に激怒し、組織と友好関係を築いている組織も総動員し、ノコノコと戻ってきたアイツ等に追い込みをかけ、きっちり制裁を加えた。

二度とあんな真似が出来ないよう、処理したって言ってたからあの馬鹿たちは生きてはいないだろう。


オバチャン曰く、ミナコはタチの悪い感染症にもかかっていたから、どのみち命の残りは無かったようだ。

けど、それで許せるか?と言われたら答えは「否」だ。


アタシも許す気はこれっぽっちも無いから、それはそれで構わないし“タヌキ”はそこら辺ちゃんと筋の通った事をするので、信用している。

例え、それが血を分けた実の子であろうとも。



生きている、今はそれだけでいい。


また日常を過ごせるのだ。


それ以上、何があるのか。


アタシの最愛達と仲間、のんびりした日常、ゆっくり眠れる場所に美味しいご飯。それだけあれば幸せだ。



ーまま、はやく〜!


身支度を終えた子がアタシを呼ぶ。


オバチャンの作るご飯の香りが、潮風に混じって漂う。

さあ、今日は何が食べられるだろうか。


“タヌキ”や仲間達があの場所で待っている。


海鳴りの音を聞きながら、アタシはココで、生きて行く。





これにて終わりになります。


初めてのライトノベル執筆?と投稿でしたが、拙いながらも読んでいただきましてありがとうございましたm(_ _)m


感謝しかありません(T_T)

もし、よろしければ今後の参考といたしますのでご感想等いただけましたら嬉しく思います。


そして猫は人間の言葉を理解している!とマジで思います。


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