背景、あなたへ。
最後の挨拶の時、皆が笑顔で未来の話をしていた時、あなただけがただ真顔で皆の話を聞いていた。
頷くでもなく話に入るでもなく、ただまっすぐ前を見て話を聞いていた。
少し前、あなたはライブをしていた。
1年ぶりのワンマンライブ。
あなたは生きていてくれてありがとうと言った。
勇気を持って会いに来てくれてありがとうと言った。
また元気で会いましょうと言った。
だからまた会える日を楽しみに毎日を過ごした。
死にたいなって思った時も、あなたがまた元気で会いに来てと言ったから、元気でいようと思った。
あなたが生きていてくれてありがとうと言ったから、まだ生きていようと思った。
次のライブはいつだろうかと、毎日そわそわしながら過ごしていた。
ライブの日早く来い!と思っていた。
またライブがあることを当たり前に思っていた。
唐突に発表されたグループからの脱退、引退。
もう声も聴けない。
嫌だ。
何も見たくない。
何も聴きたくない。
笑えない。
また元気で会おうって言ったじゃん。
予行練習はしてた。
もしも、もしも万が一あなたが活動を辞めることになったらその時は笑顔で送り出そうって。
あなたが幸せならそれでいいよって。
あなたが選んだ道ならそれが正解なんだって。
私たちはただその決断を尊重するんだって。
いきっていた。
いい人ぶっていた。
本心を奥底にしまい込んで運命に従うふりをしていた。
あなたがいなくなっても大丈夫だって。
私たちはあなたの音楽を聴き続けるから、思い出は消えないから、あなたを想い続けるからって。
だから安心して好きなことしていいよって。
今まであなたが幸せをくれた分、今度は私たちが誰かを幸せにするから。
だからもう自分のことだけ考えていいんだよって。
もしあなたがいなくなる時が来たら、そう言おうと思っていた。
でも一方でそんな時は来ないと高を括っていた。
来るなって思ってた。
あなたの優しさに漬け込んで、いつまでもいつまでも活動してくれると信じようとしていた。
でも、まぁ、そうだよね。
あなたは優しいから。
これからはもっと自由に生きていいよ。
なんて上から目線でしか見送ってあげられなくてごめんね。
でも耐えられないんだ、今の私じゃ。
ごめんね。
あなたは沢山の幸せをくれたのに何も恩返しできてなくて。
もっと時間があると思ってたんだ。
だってまだ出会ったばっかりじゃん。
もっと早く知ってれば、もっと早くライブに言ってれば、もっと早くお礼を言えてれば!!!
まだ何にも伝えられてないよ。
ありがとうも言えてないよ。
ありがとうくらい言わせてよ。
何も言わないでいなくなっちゃうなんてだめだよ。
だめなんだよ!
あれからもう10年。
私ももういい歳になったなぁ。
今度は私が皆にお別れを言う番。
これを言うって決めてたんだ。
「今までありがとーーーーーーーーーう!」
拝啓、あなたへ。
一期一会とは言いますがお別れはちゃんとさせて欲しいなと。