ひと夏のこゐのつもりが図らずも三十一文字(みそひともじ)の輪廻転生
※ほぼ全文が七五調もしくは七音か五音で区切られるように書いています。
文法や文章のルールに則しているとは言い難いかもしれませんが、読み上げると心地よいかもしれないので、ぜひ頭の中でもいいので音を意識して読んでみてください。
ひゅ〜〜〜〜〜っ……ぱあああああん
昔からそびえ立ち居る神社から
小さい金魚 見上げた花火
大きい金魚 見下ろす花火
背中の尾ひれは年に一度
赤くて明るい少女のまま
成長中の背丈と髪は「子どもっぽい」ね、と隣の僕
食べさせられた飴甘すぎる
白黒つかぬ変わらぬ気持ち
姿格好だけは大人っぽいけど(子どもか)君に比べ
隣にいてもすれ違う
手と手、唇と唇
種がまかれているだろう頃
君と僕行く眩しい小道
油の匂い、汗ばむドレスコードの人の流れに任せ
しゃらら、しゃららと簪飾り
カランコロンと下駄、石畳
リズム刻んで金魚の群れへ
どこかしこからやや高い音
老若男女、皆子に帰る
そこかしこの5円跳ね上がる
一切合切、手と手結ぶ
丸められたままだったかいこ
いつかは鱗粉振りまいては
大きな花に向かい舞い飛ぶ
君はどうだい、楽しんでいる?
野暮ったい寂れた公園も今日は賑やか
人待ちしていた自動販売機も張り切る
右手には重そうなフランクフルト
左手には胃もたれしそうなりんご飴
夢の詰まった綿飴は袋全体抱えられてる
美少女戦隊の面被り、君は一体何歳なんだ
心はずっと小学生か、それとも心が女性だから
大人を隠す為の防具か
戦うヒロイン装っても僕にとってはただの美少女
美少女であり、その先の奥に居る女神も見えている
僕は君が持ちきれないだろう沢山の貢物を
両手に抱いて口にも含む
鼻腔くすぐる焼きそばソース
イカ焼き、焼き鳥ははずせない
濃い味ばかり僕には同じ
やぐらの上にどっしりと
腹に轟く大太鼓
狐の精が手のひらをひらりひらりと泳がせる
今日と同じような昨日
今日と同じような明日
赤い提灯誘って、今日が明けゆく時を待つ
君は踊りを知っている
子どもの頃の追憶か
狐に混じり縫い泳ぐ
黒い瞳を隠すよう、長いまつ毛が憂うよう
寂寥の円弧を舞い踊る
僕は踊りを忘れたか
知らないような気もするが
廻り続ける皆々を、狐と君を見守った
砂埃舞うざわめきを少し遠くに目を細め
白狐と金魚に陶酔する
えんやえんやと繰り返す
祭囃子と盆踊り
今夜が最後となるのか
狐もシラを切るだけか
赤い金魚は知ってるか
今夜を最後にする方法
喧騒の中、朧気な灯りの中も
一際眩しいプリンセスは
赤い装束身に纏う
大きいリボンが揺れて、くらり
うなじに伝う匂いが、ふわり
大人子どもは皆白狐
同じ顔して高らかに鳴く
特別な君、柔らかい声
慌ただしい夏の空気を通って僕の鼓膜へと届く
ずっとこのままでいられたなら
ずっとこのままでいられたなら
願わずにはいられないが
遠くに行ってしまうのか、君
何処かに行ってしまうのか、君
女性になってしまうのか、君
手に入れたくて何度でも
手を伸ばすのにかわされる
それとも僕に掴まえる
愛と勇気がないだけなのか
愛がないとは心外だ
どうか神様、破れないポイを僕にはくれないか
丸い半紙の向こう側透けて見えなくてもいいからさ
手に入れるなど傲慢か
生け捕りにしたいわけじゃないし
一緒に手を取り居たいだけさ
肩寄せあってお互いのぬるい体温感じたいのさ
君が僕に向ける微笑みは
ほんのりでも色づいているか
僕は狐とひとくくりに君の瞳に映っているだろうか
蕾になる頃、僕らはとうとう社へと突き進む
小さな君の5本指
僕の小指を包み込む
頼りなさげな足元の前を真摯にエスコート
長い階段途方なく、灯りは下界に点在して
2人で神様になったよう
汗ばむ身体、高鳴るハート
薄闇の中、飛び去るバード
クライマックスに間に合うようにと急ぐ
焦る、逸る、止まらず、駆け抜く
そんな必死な僕の横顔
横目にちらり、君は余裕か
熱気の籠った呼吸の瞬間
いきなり甘い小粒がころり
乾いた舌を行ったり来たり
走れないから頬に匿う
「このタイミングで飴くれるの?」
驚き隠せず君に問うと
こくんと悪戯に笑み零す
もうすぐだよと目配せをするように君は大きく踏み出す
最後の一段に足をかけながら君の手を全部握り
男になって引っ張り上げる
一段後についてきていた
君は女の顔で見上げる
甘ったるい右頬を舌で
ひと舐めしてから向き直ると
刹那、大輪の花が咲いた
背伸びした君
うつむき加減の僕はそっと唇寄せる
やっと輪廻が解き放たれて
手も唇も2人繋がる。
「三十一回目にして、ようやくか。待ちくたびれたよ」
君は何度も夏を過ごしたらしい。
(ずっと少女のままで)
それは僕がどこか望んだことなのかもしれない。
三十一回目でループが止まる。
結びの印を手に入れたから。
新たな季節へ2人は羽ばたく。