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彼の友人は彼女の敵  作者: 石月 ひさか
彼のこれから
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5

しかし、まだ美姫は公一と遊んでいた。


時計を見ると、すでに20時を過ぎている。


やっぱりなと思いながら、溜め息を吐く。


「公一。美姫を寝かせてって言ったじゃない」


「え?もうそんな時間か?ごめん、お絵かきを始めちゃったからさ」


お人形遊びには飽きたらしく、画用紙の上でクレヨンを滑らせている美姫を見ながら答える。


「このままじゃ夜型になっちゃうわ。無理矢理寝かせなきゃ」


呟き、まだ絵を描いている途中の美姫を抱き上げる。


「やーっ!」


「ダメよ美姫。もう寝る時間。お絵かきは明日にしましょうね」


「やだぁー!」


美姫は悲鳴を上げ、泣き出す。公一はそれを、何か言いた気に見ていたが、敢えて無視した。


「クレヨンは置いて。また明日、パパが遊んでくれるからね。夜なんだから、そんな声出さないのよ」


泣きわめく娘の背中を撫でながら、寝室に向かう。


美姫はまるで囚われた姫のように、公一に向かって「パパーっ!」と泣き叫んだ。


「み、深雪。まだもう少しなら」


「ダメよ。あなたはそこを片付けておいて。後で話があるから」


「……」


横目で睨むと、嫌がる娘を連れて寝室のドアを閉めた。


「ちょっとそこに座って」


美姫を眠らせた深雪は、ダイニングテーブルに座り、 向かい側の椅子を指差す。


おもちゃの片付けを終えた公一は、恐る恐る椅子に座った。


「美姫のこと、寝かせてって頼んだわよね?ダメよ。節度なしに遊びに付き合っちゃ」


「それは、わかってるんだけどさ。夜しか相手ができないから、どうしても断れなくて」


公一は気まずそうに目を反らしながらぼやく。


「断れないじゃなくて、断らなきゃダメなのよ。ただでさえ1人っ子でみんなが可愛がるの。私達まで甘やかしたらどうなると思うの?あなたは父親なのよ」


「……」


「美姫の事、可愛がってくれてることも、仕事で疲れてるのに面倒を見てくれていることも、とても感謝してる。お友だちにも言われるわ。旦那さんは優しくて子煩悩で素敵な人ねって。私もそう思ってる。だけどもう少しだけ厳しくなって。美姫の将来の為なのよ」


「あぁ……わかってるよ」



昔仕事をしていた時に、こんな風に社長モードの公一に説教をされた事がある。


まさか今になって、その逆をやる羽目になるなんて。


恐らく公一もわかっているのだろう。だが実際に泣かれたり嫌がられたりすると、ついつい甘やかしてしまうのだ。


深雪もそれはわかる。だが心を鬼にしないとならない事もあるのだ。


「お願いね。あと、できればもうおもちゃは買ってこないで欲しいわ。このままじゃ飽き性になっちゃう。なんでも飽きたら使い捨てする様な子になってほしくはないの。それに──」


呟き、リビングの角に山積みになったおもちゃを見る。


今やこの部屋は、美姫のおもちゃやぬいぐるみが大半を閉めている。


しかも公一の実家からくるものは大型のものばかりだ。


その為、美姫のおもちゃ部屋として、3LDKのうち1部屋が丸々潰れてしまっているのだ。


「このままじゃ1室じゃ足りなくなるわ。客室を潰して美姫の部屋になりかねないの。美姫はおもちゃが欲しいんじゃなくて、あなたに早く会いたいのよ。だから、デパートに寄る時間があるなら、早く帰ってきてね」


手を握ると、公一も納得したらしく、笑みを浮かべて頷いた。


「そう、だよな。わかった。これからは仕事が終わったら、すぐに帰るよ。土産ももう買わない」


「ありがとう。そうしてね」


立ち上がると、後片付けの為にキッチンへ向かう。


「あなたもお風呂に入ってきたら?あとは私がやっておくから」


「あぁ、わかった」


風呂に入ったのを見届けると、洗い物をやめ、浴室と寝室から一番遠い部屋に入り、ドアを閉める。


「あー!イライラする!なんであそこまで言わなきゃわからないのよ!」


部屋のすみにおいてある柔らかい寝具を殴ると、スマホを出してママ友とのグループメッセージを開く。


『皆さんにアドバイスいただいた通り、言ってみました。お陰で喧嘩にもならず、わかってくれたみたいです』


今日伝えた事は、言いたくても言えなかった不満だ。


今まで何度もキレて怒鳴り付けたくなることがあった。


だが自分と公一の性格上、そうなると普通の夫婦喧嘩ではすまなくなる。


必ずどちらかが負傷するだろう。


それに、慣れた喧嘩とはいえ、子供の前で喧嘩をしたくはなかった。


その為、どんな風に伝えれば良いか相談していたのだ。


『よかったわね。穏便に済ませて』


『娘は大変よね。うちの旦那も躾なんてそっちのけでもう、猫っ可愛がりで困っちゃうわ』


『そのくせ、私が厳しく言うと「そんなに怒るなよ」なんて言っちゃって。私を悪者にしないで欲しいわ』


『あとは旦那の実家からのプレゼント攻撃ね。頑張って!』


メッセージを見ると、ここまで侵食してきている義実家からのプレゼントを見下ろす。


中身はまだ開けていないが、伝票には【雛人形】と書かれている。


そしてその横の箱には【自転車】そのさらに横には【ドレス】


ドレスに関しては一体何が入っているのかと箱を開けてみた。そして中に入っていたものを見て唖然とした。


「雛人形はまだしも……ウェディングドレスって。どんだけ気が早いのよ全く」


まだ1才になりたての娘にウェディングドレスは気が早すぎる。


きっと公一ならこれを見て「美姫を嫁にやるわけねぇだろうが!」と怒り出すことはわかっていた。だから隠したのだ。


しかし今、これの出番がやって来た。


自分の実家からのプレゼント攻撃は、自分で止めてもらう。


きっといい起爆剤になるだろう。


ドアを開けてリビングに戻ると、そのまま寝室に向かう。


ダブルベッドの横に並べた子供用ベッドでは、美姫がすやすやと眠っている。


「あなたは本当に幸せな子ね。でも、パパもお爺ちゃん達もちょっとは考えてもらわなきゃね」


小さく笑うと、そっと布団をかけ直し、優しく頭を撫でた。


終わり


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