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彼の友人は彼女の敵  作者: 石月 ひさか
おしゃれへの目覚め
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翌朝、公一はいつも通り仕事へ出掛けていった。


それを見送ると、ソファに座りテレビをつける。



『将来はお金持ちと結婚して、専業主婦になるのが夢なんです』


テレビを見ていると、若い女の子がニコニコ笑いながら、自分の夢とやらを語っている。


最近の若い女は、働かずに主婦になる事が『夢』だという。


若くして結婚した深雪は、彼女等の望む夢を手にしてから早3年が経っている。


旦那の公一は、代々貿易商社を経営している一家の3男で、都内にある支社の社長をしている。


給料は一般的なサラリーマンの何倍も貰っている為、深雪は働く必要がない。


朝は少し早めに起きて公一を見送り、部屋の掃除や洗濯を済ませると、もうやることがない。


子供がいれば別なのだろうが、夫婦水入らずの家庭では、暇な時間が大半だ。


友人も居らず、外に出る理由もない為、毎日こうやって他愛もないバラエティやニュースを見て時間を潰している。


「趣味や友達がいれば、専業主婦も有意義かもしれないわね」


ついつい、テレビを見ながら独り言を言ってしまう。


そんな深雪も、数ヵ月前までは社会人として働いていた。


勤務先は公一が社長をしている支社で、学歴を詐称し、裏から手を回して入社する事ができた。


公一の会社は、有名な貿易商社だ。


実力主義らしいが、就職するには高校卒は必須。課によっては留学経験や複数の語学力、それに前職での経験やスキルも必要になる。


中卒である深雪がこの会社に合法的に入るには、パートの清掃員くらいしかないだろう。


最初、合格通知に秘書課配属と記載されていた時は驚いた。


ドラマでしか聞かないようなそんな課に、自分の様な人間は相応しくない。


幸い英語だけはできる為、それを生かせる場所か、でなければ力仕事ができる場所にしてほしいと頼んだが却下された。


秘書課は基本的に、各重役につき、彼らのスケジューリングをしたり、会議のセッティングや資料作り、客人の受け入れの手配がメインらしい。


新人のうちは仕事を覚えるために、誰かに配属される事はない。


社会勉強としては、そのくらいで充分だと言われたのだ。


勿論、秘書課の仕事は楽しかった。


何から何まで未経験な事ばかりで、満員電車での出勤すら楽しく感じた。


同僚は皆優しく、今まで男ばかりの環境で生きてきた深雪には新鮮だったのだ。


だがその生活も、身から出た錆びとでもいうのだろうか。


過去の行いが仇となり、辞めざるを得なくなってしまった。


不本意だが短い社会人生活に幕を下ろす事になってしまい、再びただ時間を消費するだけの生活に逆戻りする事になってしまったのだ。


「やっぱり仕事、していかったわ……。自分で働いて給料を貰うって、大切な事よね」


テレビでは、先程とは一変し、キャリアウーマンの特集が流れている。


インタビューに答えている女性は、35歳で大手出版社勤務。女性ファッション誌の編集長で、かなりの高給取りらしい。


明確な金額は伏せられていたが、自宅は分譲マンションで、ブランドのバッグや洋服をたくさんもっているらしい。


深雪は幸いというべきか、そこまでファッションに興味はない。


身の丈にあった洋服を選ぶ事はできるが、有名ブランドでなければ嫌だという拘りもない。


バッグも洋服も、ショッピングモールに入っているブランドで事足りる。


その為、彼女の持ち物を羨ましいとは思わないが、生活には憧れる。


スーツを着て、出勤途中に立ち寄ったカフェでコーヒーをテイクアウトし、デスクに着いてメールをチェックする。


お昼にはお洒落なレストランでランチを食べ「今日もまた残業になりそうね」なんて会話をする。


当の本人は忙しくて大変なのだろうが、そんな生活がとても羨ましい。


秘書課にいるときは、それに近い生活をしていた。実際にとても大変だったが、それよりも新鮮味と楽しさが勝っていたのだ。


「もう一度、公一に頼んでみようかしら……」


ごみ箱に捨てられている求人誌に視線をやる。


以前一度、もう一度仕事をさせてくれないかと頼んだ事がある。


勿論同じ会社ではない。


深雪が自分で見つけてくるとも言った。


しかし公一から返ってきた返事はノーだった。


理由は、深雪の学歴ではどこも雇って貰えない事。そして、金に困っていないのだから、必要性がないというものだった。


確かに、中卒の身分で正社員を目指すつもりはない。


一応は主婦なのだから、パートやバイトとして、コンビニやガソリンスタンド、なんなら交通整備でも良いと言ったが、当然ながら却下されてしまった。


「生き甲斐が欲しいだけなのに」


溜め息を吐き、テレビを消して立ち上がる。


レースのカーテンを開けると、真っ青な空が広がっていた。


今日は天気が良いらしい。


「まだ10時か……。どこかに出掛けて来ようかしら」


せっかくの天気なのに、閉じ籠っていたら勿体ない。


家事は全て終えたし、久しぶりにマツエクか、美容室にでも行ってこよう。


寝室に向かい、クローゼットからグレーの膝丈のスカートと、白いニットを取り出す。


寒くはなさそうなので、アウターは必要ないだろう。


コーディネートを決め、ドレッサーに座って化粧をし、髪を整える。


そうだ。せっかくだからネイルもやってもらおう。


確かいつも行く美容室では、ネイルサロンもやっているはずだ。


着替えを済ませると、バッグに財布とポーチ、スマートフォンを入れ、マンションを後にした。

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