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「遅い」
時計の針が23時を指してから、30分以上が経った。
「早めに帰るって言ったくせに」
この時間では終電も間に合わないかもしれない。
だとしたら、タクシーだろうか。
バルコニーに出て外を眺める。
だが、ここは地上40階建てマンションの最上階だ。
当然、路上に止まるタクシーなんて確認できるはずもない。
先から何度かスマートフォンに連絡を入れているが、いっこうに返事もない。
きっと、また飲み過ぎて潰れているんだろう。
「全くもう」
眉を寄せ、溜め息を漏らした。
同級生とはそんなに楽しい場所なのだろうか。
深雪はそんな場所に誘われた事がない為、よくわからない。
もしかしたら誰かにお持ち帰りされた、なんて事になってはいまいかと不安になる。
同級生とは不倫の率が高いと、昔見たドラマで言っていた。
子供だった同級生が成長して綺麗になって再会するのだ。
公一のスペックならば、愛人でもいいからと関係を持とうとする女もいるかもしれない。
そう考えると、さらに不安が増す。
「もしかしたら、キャバクラとかグラブにでも行ってるのかしら」
小学校の同窓会だと聞いているが、もしかしたら以前会った佐伯がいるのかもしれない。
公一の話では、彼は根っからの夜の店好きで、風俗も通っているらしい。
何が楽しいのか、全くわからないが。
テレビでホストクラブの様子を見るだけで、画面を殴り付けたくなる程苛々するのだから。
冷たい風が吹き、体を震わせてリビングに戻る。
もう一度連絡をしようかとスマートフォンを手にした時、家の固定電話が鳴った。
「こんな夜中に、一体誰よ」
受話器を取る。
「はい、近藤です」
不機嫌な声で言うと、相手は軽く息を飲んだようだった。
『あの、そちら近藤公一さんのご自宅でしょうか』
聞き慣れない控えめな声が聞こえ、首を傾げる。
「そうですけど。どちらさまですか?」
こんな真夜中に電話するなんて、非常識だ。
だけど相手から発せられた言葉に、耳を疑った。
『公一さんの同級生の者です。夜分にすみません。実は彼が酔い潰れてしまい、帰れない状態でして』
「え!?そうなんですか?」
同級生からだったなんでビックリだ。
全く予想していなかった。
『すみません、迎えに来て頂けませんか?今、新宿駅にいますので』
「新宿ですね。わかりました」
どうして帰れなくなるまで飲んだのだろうか。
部屋着に上着を羽織り、マンションを飛び出す。
下で止まっているタクシーに乗り込み、新宿駅へと向かった。
しかし、タクシーの中でふと気付いた。
公一の同級生と言うことは、自分の知り合いもいるかもしれない。
昔、大喧嘩したアイツとか、アイツとかアイツとか──。
眉を寄せ、考え込む。
会うとまずい奴を思い出さなければ。
香ヶ崎、井上、港、佐藤雄平、伊藤春太、後は──。
「着きましたよ」
考えていると、タクシーが駅前に着いた。
降りて、周囲を見回す。
人がたくさんで、どこに公一達がいるのかわからない。
あちこち見ながら歩いていると、少し離れた所に男女の団体が居るのに気付いた。
そこから少し離れた所に公一が眉を寄せて座っていた。
周囲には数人の女が居り、心配そうに何か言っている。
深雪は構わず公一に近付くと、その場にしゃがんで顔を覗き込んだ。