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「ご馳走様でした。私、そろそろ帰るね」
時刻はもう22時を回っていた。
連休とはいえ、さすがにこれ以上邪魔するわけにもいかず、お暇する事にした。
「あぁ、もうこんな時間なのね。瑞穂さん、また遊びに来てくださいね」
帰ろうとする瑞穂を、深雪は本当に悲しそうに見ている。
深雪はハッとした様に、公一を見る。
「お酒飲んでないわよね?もう遅いし、瑞穂さんを送って上げて」
そう言われ、公一は「あぁ」と呟いて立ち上がる。
「え!?大丈夫です!まだまだ電車もありますから」
社長に送って貰うなんて恐ろしい。
慌てて拒否するが、深雪は笑顔で首を振った。
「遠慮しないでください。車の方が早いですから。お願いね公一」
「はいはい。行きますか」
公一は車のキーを持ち、ネクタイを緩めながら立ち上がる。
ここまできたら、瑞穂に拒否権はない。
「あの……それじゃあ、お願いします」
社長に送られるなんて違和感ありすぎだ。
だが、せっかくの好意だし、甘える事にした。
「よ──瑞穂さんは、いつからあんなに深雪と仲良くなったんだ?」
車を運転しながら『公一さん』として瑞穂に話しかけた。
「明確にはわからないですが──でも、会社にいる時も、よく一緒にランチをしたりしましたよ」
すれ違う車の光を見ながら言う。
深雪が仕事をしている時は、近藤社長も心配している暇はなかったんだろう。
「そっか。深雪には友達が少ないんだ。同性の友達は、きっと瑞穂さんが初めてだと思うよ。だから、これからもよろしくね」
そう言うと、社長──公一は穏やかに微笑んだ。
「は、はい………勿論です」
瑞穂は不覚にも、普段は一番結婚したくないと文句を言っていた人の夫婦関係を見て、早く結婚したいなと思ってしまった。