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「今日は集会なのよね?何時に帰って来る?早めに帰って来て欲しいな」
そう言うと、公一は苦笑いしたような声で『集会じゃなくて同窓会だよ』と呟いた。
「同窓会?こんな時期に珍しいのね。とにかく、早めに帰って来てね。晩御飯はどうする?」
『飲むだけだろうから、一応食べようかな。軽く夜食程度に残しておいて』
「わかったわ」
もう話すことがなくなってしまった。
公一もそれを察したのか、切ろうとしている雰囲気が伝わってきた。
『──じゃあそろそろ切るよ。これから出なきゃならないんだ』
「あ、待って」
新婚じゃあるまいし、普段はこんな事は言わない。
だが、からかって遊んでみたくなった。
見えない公一に向かい、にっこりと微笑み、出来る限りの可愛らしい声を使って囁いた。
「愛してるわ」
『なんだよ、急に』
クスリと小さな笑い声とともに、恥ずかしそうな声が返ってきた。
「ねぇ、あなたも言ってよ」
『俺もだよ』
「違う。ちゃんと」
『嫌だよ。なんだよ急に……』
きっと頬を赤くして、困ったような顔をしているだろう。
それを想像するだけで楽しくなる。
公一は今どこにいるのだろうか。
社長室で一人きりだろうか。
それとも周りに部下などがいるだろうか。
悲し気な表情を浮かべ、声を少し抑える。
「嫌だなんて。昔はよく言ってくれたじゃない。もう愛してないの?」
『そんな事あるわけないだろ?』
とたんに慌てた声になった。
本当にからかい甲斐があって楽しい。
「じゃあちゃんと言って。公一、愛してる」
再び可愛らしい声を使って言うと、僅かな咳払いが聞こえた。
少し間があって、落ち着いたトーンの声が返ってきた。
『俺も愛してるよ。今日は早めに帰るから』
自分から仕掛けた悪戯のはずなのに、なんだかとても嬉しくなった。
「わかった、待ってるわね。頑張って」
『じゃあね』
切れた電話を見つめつつ、深く息を吐く。
結婚する前は不安でたまらなかった筈なのに、いざしてみると、もう3年になろうとしているのにこの有り様だ。
自分が『愛してる』なんて言葉を使うなんて思ってもみなかった。
余韻に浸ってうっとりしていると、不意に玄関のチャイムが鳴った。
しかも部屋の。