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<瑞穂side>
深雪の旦那は社長。
話では聞いて知っていたが、職場での2人の印象が強すぎた為か、瑞樹はうっかり忘れていた。
旦那の話を聞く度に、きっと穏やかなイケメンなんだろうなんて勝手な想像をしていた。
だが彼女の旦那は、社内の人間は誰しも恐れている、近藤社長その人だというのを、ついさっき思い出したばかりだった。
「公一が帰って来たんです!」
深雪に切羽詰まった表情で言われ、わずかに疑問を抱いた。
確かに友達の旦那に会いたいかと言われればそうでもない。
だが『公一』という名前を聞いて、徐々に瑞穂の頭には近藤社長の姿が浮かんできた。
瑞穂は事もあろうか、鬼社長の縄張りに入り込んでいたのだ。
深雪に寝室へ隠れる様に言われ、慌てて飛び込む。
寝室はどんな感じだろうと気にはなっていたが、さすがにプライベート空間に入り込むつもりはなかった。
それがこんな形で足を踏み入れることになるなんて。
寝室は、先程深雪が言っていた通り、13畳程だろうか。
瑞穂の住むワンルームと同じくらいだ。
真ん中には大きなダブルベット。
壁側はサイドボードとクローゼット、そしてドレッサー。
サイドボードの上には、幸せそうに写る夫婦の写真がいくつかあった。
海かどこかだろうか。
深雪を抱き寄せ、笑顔を浮かべているのは、紛れもない近藤社長だ。
だが瑞穂の職場の人間は、こんな笑みを浮かべた近藤社長を見た事がない。
あまりにレアなものを見てしまい、リビングから聞こえるやりとりも、あまり耳に入っていなかった。
ふと、海の写真の横に古そうな写真を見つけた。
恐らく若い時なのだろう。
生意気そうな笑みを浮かべているのは、勿論近藤社長。
だけどその横にいるのは──。