表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼の友人は彼女の敵  作者: 石月 ひさか
最初の友達
16/90

7

話も一段落つき、用意したパスタを食べた。


やはり同性は、旦那と誉める点も興味も違う。


麺はどこのを使っているとか、ソースはどう作ったのかなど、普段聞かれない事ばかりで嬉しかった。


久しぶりに会った為か、色々な話で盛り上がる。


会社のこと、趣味のこと、そして美容のことなど。


本来の目的を思い出したのは、夕方近くになってからだった。


「あ、そうだ!画集。今日はそれがメインでしたよね。今持って来ますね」


慌てて立ち上がり、鍵を持って部屋を出る。


確かあの本は、公一の書斎にあったはずだ。


「えーと……これと、あとはこれかしら」


本棚に並べられた洋書の背を指で撫でる。


読めるが、和訳しても意味がわからない。


中にはフルカラーの絵が印刷されているので、恐らく間違いないだろう。


見た事があるものを数冊持ち、足早に戻る。


「これです。よくわからないんですけど、瑞穂さんの好きなものがあるかしら」


「これって、絶版になっている古書ばかりじゃない」


瑞穂は声を上げると、身を乗り出し、ゆっくりページをめくっていく。


「うわぁ。綺麗……これはフランスかぁ。あ、こっちはドイツ。やっぱりヨーロッパ巡りをしなきゃだめなのねぇ」


夢中になって画集を見る瑞穂を横目に、食べたパスタの食器を洗う。


すると不意に瑞穂が声をあげた。


「あれ、深雪ちゃん。これ、画集じゃなくてアルバムみたいよ」


「え?」


近づき、赤い表紙の本を覗き込む。


そこには新婚旅行の時の写真が貼られていた。


「あ、本当だわ。間違えてしまったみたい」


戻そうと手を出しかけるが、瑞穂は意外にも興味深そうに写真を見ている。


そして、ぽつりと呟いた。


「み、深雪ちゃん」


「はい?」


「今、思い出したんだけどね──深雪ちゃんの旦那さんて、しゃ、社長……なのよね?」


「えぇ」


指を差された写真に目をやる。


そこでは白いタキシードを着た公一が、笑みを浮かべて写っていた。


「今日、社長は?」


「大丈夫ですよ。取引先と外食だって言ってました。夜中まで戻りませんから、鉢合わせする事もないと思いますよ」


その時だった。


僅かにエレベーターが止まった音がし、深雪はピクリと反応した。


「どうしたの?」


瑞穂は気付いていないのか、キョトンとしている。


慌てて時計を見ると、まだ19時だった。


公一は確か、夜中に帰ると言っていたはずだ。


聞き間違いであって欲しい。


そう願いながら、瑞穂に笑顔を向ける。


「何でもないです。ただちょっと、エレベーターが止まった音が聞こえた気がし──」


そう言いかけた瞬間。


「!?」


ドアのチャイムが鳴り、2人は顔を見合わせた。


公一が帰って来たのだ。


深雪は立ち上がると、慌てて瑞穂の手を引く。


「ど、どうしたの!?」


「大変なんです。公一が帰って来たんです!」


「え?公一って」


言いながら、深雪の旦那が誰なのか思い出したらしく、瑞穂の顔色がみるみる変わっていく。


「しゃ、社長が帰って来たの!?」


「そうなんです。どうしよう──と、とにかくこっちへ!」


腕を引き、隣の寝室に隠れる様に言う。


なかなか出ないのを不審に思っているのか、今度は2回続けてチャイムが鳴った。


「はーい!ちょっと待って!」


心配そうな表情の瑞穂に、目で『大丈夫』と言い、急いで玄関に行く。


鍵を開けてドアを開くと、そこにはやはり公一が立っていた。


「お、お帰りなさい。早かったわね」


無理やり笑みを浮かべて言うと、公一は僅かに眉を寄せてつぶやいた。


「出るの遅かったな。なにしてたんだ?」


「え、あの………ちょっとうたた寝してて」


そう言うと、公一は「ふぅん」と呟き、靴を脱いだ。


隣に瑞穂の靴があり、ギクリとした。


しかし公一には、深雪の靴との区別がつかないのか、特に何も言わなかった。


「会食じゃなかったの?晩御飯作ってないけど──」


鞄を持ちながら後を追う。


「先方の都合で延期になったんだ。全く、こっちは休日出勤してるって言うのに」


「そ、そう……」


公一は文句を言いながら上着を脱ぎ、ネクタイを緩め、ソファに座った。


その時ふと、テーブルに広げられているアルバムに目を止めた。


「どうしたんだ?これ」


「え!?あ………あぁ、急にアルバムが見たくなって!懐かしいでしょう?」


深雪は自分でも、異様に慌てふためいている事に気付いていた。


もともと隠し事ができない性分なのだ。が、公一は気づいていないらしく、笑みを浮かべて言う。


「新婚旅行のじゃないか。そういや、長い間旅行も行ってないね。明後日から3連休もあるし、近場でどこか行こうか」


不意に腕を引いて抱き寄せられた。


隣に瑞穂がいる事を意識してしまい、慌てて胸を押す。


「良いわね。是非行きたいわ。でも今から予約とれるかしら?」


スーツの上着を拾うふりをして離れる。


公一は僅かに不満気な表情を浮かべたが、鼻で笑った。


「まぁ、今はシーズンじゃないし、前日予約でもできるんじゃないか?」


言いながら、何やらスマホをいじっている。


深雪は寝室にいる瑞穂を気にしながら、手にしていたスーツをハンガーにかけた。


「どこがいいかなぁ。韓国?それともベタにハワイとか」


「えっ!?海外!?」


てっきり国内だと思っていたため、思わず声を上げてしまう。


「今は下手に国内に行くより海外の方が安いし近いだろう?北海道に行くより韓国の方が近いんだしさ」


「それは、そうだけど」


まさか3連休に海外旅行をするとは思っていなかった。


思わずパスポートの期限が気になり、ポツリと呟く。


「パスポート大丈夫だったかしら。最後に使ったのはずいぶん前よね」


「あぁ、そうか。パスポートがいるのか。俺のは大丈夫だけど──どうだったかな」


そう言いながら、公一は寝室に向かって歩き出した。


「ちょっ………ちょっと待って!」


今寝室に入られたらやばい。


瑞穂がいる事がバレてしまう。


慌てて行く手を遮ると、公一はふと、表情を変えて深雪の肩を掴んだ。


「お前、一体何を隠しているんだ?」


先ほどとは打って変わり、怖い表情で詰め寄られ、思わず身震いをする。


どうやら公一は、最初から深雪の様子に気付いていたらしい。


「何も隠してないわよ。なに言ってるの?」


明らかに戸惑いながら呟く。


うまく隠さなくてはと思うのだが、どうしても挙動不審になってしまう。


公一は鋭い目で寝室のドアを睨むと、深雪を押しのけて手をかけた。


「ま、待ってってば!何にもないわよ!」


「何にもないなら別に良いだろ!」


必死に止める深雪を振り切り、ガチャリとドアを開け放つ。


「誰だ!?出てきやがれ!」


「お、お邪魔しています!!」


寝室に乗り込むと同時に瑞穂は叫び、頭を下げた。


それを見た公一は、一瞬わけがわからなくなったらしく、目を見開く。


が、すぐに悲鳴の様な声を上げた。


「陽子!?」


男を連れ込んでいたとでも思っていたのだろうか。


まさか部下がいるとは思わなかったらしく、公一はピタリと固まる。


深雪と瑞穂はどうすればいいのかわからず、微妙な空気が流れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ