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「あのね、深雪ちゃん。ちょっと気になってたことがあるんだけど……」
「何ですか?」
そんな退屈の中、瑞穂はやっと招く事ができた初めての友人だ。
今なら、何を聞かれても、なんでも話せる気がした。
瑞穂が口にした疑問は、深雪の過去についてだった。
「嫌だったらかまわないんだけど──深雪ちゃんって昔はどんな感じだったの?旦那さんとはお見合い?」
「え?あぁ、そうですよね。気になりますよね」
会社であれだけ大暴れをしたのだ。
気にするのは当たり前かもしれない。
だが公一の立場上、さすがに全てを語るわけにもいかず、濁した。
「うちの両親は離婚して、私も孤児みたいなものだったんです。それで、ちょっとだけグレていた時期があって。旦那とはお見合いじゃなくて、なんて言うか、学校の先輩だったんです」
瑞穂は関心しているような、何かを後悔しているような表情を浮かべた。
「へぇ。そうだったんだ。──私も高校の時の彼氏、大事にしておけばよかったかな」
「瑞穂さんは今、好きな人とか、恋人はいないんですか?」
公一に『陽子』とあだ名をつけられるくらいだ。
人間性は明るくて、華やかさがある。
しかし瑞穂は、浮かない表情で首を振った。
「最近は全然。友達はたくさんいるけど、みんな既婚者だったり子持ちだったり恋人がいたり。いない人もそんな感じじゃないしね」
「そうなんですか」
世の中は不思議だ。
こう言ってはアレだが、去年のクリスマスに街を歩いていて思ったが、おかしなカップルがたくさんいる。
逆に綺麗な人程、1人でイルミネーションを見ていたりするのだ。
「瑞穂さんはきっと、高嶺の花って言うか………仕事もできる綺麗な人って、不思議となかなか恋人が出来にくいんですよ。でもきっと、その分幸せは大きいと思いますよ」
そう言うと、瑞穂は目を丸くし、がばりと深雪に抱き付いてきた。
「ありがとう!私深雪ちゃんが男だったら、絶対に惚れてるわ!」
「えっ」
女友達がいない深雪には、同性に抱き締められた経験がなかった。
そのため、どうすればいいのか分からずに戸惑う。
「前に会社に乗り込んできたチンピラをやっつけた時の深雪ちゃん、すごく強かったもんね!深雪ちゃんが男だったらなぁ。絶対にイケメンだよ」
「そうでしょうか?」
男だったら、という点については、否定も肯定もできない。
そこまで話す勇気がなく、曖昧な笑みを浮かべるしかなかった。