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彼の友人は彼女の敵  作者: 石月 ひさか
最初の友達
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5

「おじゃましまーす!うわっ!玄関もひろーい!」


玄関に入るなり、瑞穂は黄色い声を上げて騒いでいる。


初めて友人を招き入れる嬉しさに笑みを浮かべながら、リビングへと続くドアを開けた。


「どうぞ。今、何か飲み物を出しますね」


「あ、これお土産ね。ここのケーキ、美味しいって有名なんだ」


「ありがとうございます。寛いでいてください」


箱を受け取ると、食器棚からカップを取り出し、紅茶の準備をする。


瑞穂はベランダから外を眺めたり、テレビの大きさに感激したりと、とにかく大はしゃぎしていた。


「このソファ、すごく座り心地良いね。それに高そう」


「値段はわからないんですが、イタリア製です」


「へぇ。部屋の配色もなんかシックで良いね」


「ありがとうございます」


深雪はお茶の準備をしながら、カウンターキッチン越しに返す。


この家の中で、こんな風に賑やかな会話をするのは初めてだ。


公一が酔って帰って来た時はそれなりに騒ぐ事はあるが、基本的にはゆったりとした穏やかな雰囲気か、1人きりでつまらない雰囲気しかない。


こんな風に部屋にあるものや配置の感想を聞き、答えるなどという会話が楽しくて仕方ない。


「何か面白いものがあったら言ってくださいね。あちこち見て回っても、全然大丈夫ですから」


紅茶とケーキをテーブルに置くと、瑞穂はキョロキョロと辺りを見回しながら椅子に座る。


「広いリビングにキッチンね。何畳くらいあるの?」


「元々は4LDKだったのを、壁をぶち抜いて3LDKにしてるんで……多分、リビングダイニングは20畳くらいあると思います」


「そっかぁ。だから窓も多いのね。後の部屋は何に使ってるの?」


「あっちが寝室で13畳くらいです。右側はお風呂場で、トイレがあそこにあります。奥と廊下にある部屋は物置とか」


「本当に綺麗で羨ましいなぁ。後でお風呂場も見ていい?」


「勿論。大きな窓があって、夜は夜景が見れるんですよ」


こんな話は公一は勿論だが、たまに顔を見せる新道だってしない。


やっぱり女の子の友達は違う。


ケーキを食べながら、しみじみと感じた。


「すごく優雅な毎日を過ごしてるんだね。家は素敵だし、お金持ちだし。羨ましいなぁ」


そう言われ、深雪は複雑そうな表情を浮かべ、紅茶を飲む。


「確かに優雅かもしれませんが、有意義ではないですよ。毎日毎日、旦那が帰るのを待つだけですから。やっぱり、仕事をしていた方が楽しかったかもしれません」


勿論、結婚生活に不満はないが、何もなく、ただ過ぎていくだけの毎日が、たまに無性に虚しく感じるのだ。


そう呟くと、瑞穂は不思議そうな表情を浮かべた。


「お金持ちの奥様でも、専業主婦ってそんな感じなの?私はてっきり、毎日楽しいのかなって思っていたんだけど」


「楽しい事なんてあまりないですよ。だって話し相手は基本的に旦那だけですから。その旦那も昼間は仕事でいないですし。1日の殆どは1人きりですから」


どうにかして、この退屈から逃れようとしているが、結局いつも昨日の様な流れになってしまう。


何もない毎日は、数年前の自分からは想像ができなかった。


ふと、瑞穂はどこか伺う様に、深雪を見つめた。

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