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彼の友人は彼女の敵  作者: 石月 ひさか
最初の友達
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2

「そっか。今から高卒認定試験を受けて──。なんなら、そのまま大卒認定試験も受けちゃえば良いんだわ」


高校も大学も、何も10代で通わなければならない場所ではない。


今からでも高卒認定試験を受けて、後々は通学制か通信制の大学を卒業すれば良いのだ。


時間も金もかかるが、幸い深雪には余裕がある。


それに学業ならば、無闇に反対しないだろう。


高校くらいは卒業しておけと言っていたのは、公一なのだから。


「え?高卒認定試験を受けたいって?」


その晩、帰ってきた公一に早速その話をした。


よく調べると、高卒認定に関しては、通信教育で取れるらしく、自宅にいながら取得する事ができるらしい。


「そう。公一、言ってたわよね?高校くらいは行っとけって。あの時はできなかったけど、今なら大丈夫だと思うのよ」


「まぁ、確かに最低でも高校くらいはとは思っていたけど……。どうして今更」


その反応は少し予想外だった。


てっきり、2つ返事でOKしてくれると思っていたのに。


「公一の会社で仕事をしてみて気づいたのよ。やっぱり社会に出るのは大切なんだなって。今の学歴じゃ、どこも雇ってくれないでしょう?だから、高卒認定くらいは取得しておきたいって思って」


仕事のフレーズが出たとたん、公一は僅かに表情を曇らせた。


「また、仕事の話?昨日言っただろ。諦めるって」


「しばらくはよ。認定取れるなんて何年も先じゃない。私はね、生活に張り合いがほしいのよ」


この話は前に何度もしているが、公一が折れたのは一度きりだ。


そのお陰で、公一の会社に入社する事ができた。


だがそれ以降は、何を言っても学歴を理由に駄目だと却下され続けている。


「張り合いなら、習い事をすれば良いだろう。どうしてそう、仕事に拘るんだよ?」


「だからそれは、誰かの役にたちたいからよ」


「それなら仕事じゃなくてボランティアでもすれば良いだろ?」


「ボランティアじゃなくて仕事をしたいの!」


結局また、いつもの押し問答になってしまう。


もしもここで公一が「俺の飯はどうするんだ」とか「誰の金で食わせてやってるんだ」なんてことを言い出せば、全面戦争に突入だ。


しかし彼もそれはわかっているのか、そもそもそんな思考がないのかは不明だが、言われたことは一度もない。


「ねぇ、どうしてそんなに私が働くのを嫌がるの?」


「…………」


公一は一番聞かれたくない事を聞かれた、と言わんばかりの表情を浮かべ、目を反らした。


「俺の知らない所で、万が一何かあったら心配だから」


「万が一って何?まさか、前みたいな事を言っているの?あんなのは稀よ。あちこちに、あんな男達がウロウロしているわけないじゃない」


あの事件は確かに大きかったが、そうそうあるものではない。


あれは色々と悪いタイミングが重なった、例外中の例外だ。


だが公一が心配しているのは、別の所だったらしい。


「事件もそうだけど……。不倫とか」


「不倫?何を馬鹿なこと言ってるのよ。──もう良いわ」


席を立って寝室に行く。


まさか、不倫の事を心配していたなんて思ってもみなかった。


あまりに下らなさすぎる理由に、怒る気にもならない。


「私が不倫?男になんか、1ミリも興味ないわよ。──馬鹿らしい」


今までそんな事を考えていたのかと思うと、逆に笑いが込み上げてくる。


もういい大人なのに、そんな中学生の様な事を考えていたなんて。


今更、公一以外の男をそんな目で見る事なんてできない。


そう言えばきっと安心はしてくれるのだろうが、そうするのはなんとなく癪だった。


追ってこない所を見ると、かなり怒らせたと思っているのだろう。


暫くそのまま居心地の悪さを味わっているといい。そんな事を考えながら寝室にこもっていると、不意にメッセージの着信音が鳴った。


サイドボードに置いていたスマホを取り、画面を見る。


「瑞穂さん!」


そこには、秘書課にいた時の名残で『瑞穂さん(陽子さん)』という名前が表示されている。


久しぶりのメッセージに喜びを感じながら、ベッドに腰掛けて本文を開く。


彼女らしく、絵文字をふんだんに使った明るい文章だった。


『久しぶり!元気だった?最近深雪ちゃんに会ってないなぁと思って連絡しちゃった。秘書課に中途採用の子が入って来たの。苗字は相変わらず近藤さん!どうして社長は近藤ばかり雇うのかな?今度お休みの日に、またみんなで遊びに行こうね』


何気ない世間話に続き、仕事はなかなか忙しい事や、最近の趣味は、もっぱら休みの日に美術館や画廊巡りである事が書かれている。


ちょうど人恋しく思っていた深雪は、すぐさま返信した。


同じく当たり障りない女同士の世間話だが、それでも、友達のいない深雪にとって、唯一連絡をくれる同性と言っても過言ではない、瑞穂からの連絡が嬉しかった。


気付けばリビングに閉め出した公一はそっちのけで、即レスをくれる瑞穂とのメッセージに没頭していた。

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