第八話 誓い、再び
「お前それ本当かよ…………」
夕暮れの空、二人は教室の席にへと座り対談していた。レイヤが別の世界から来た人間ということ、レイヤの世界で過ごした時間のこと、そして、レイヤが神器との契約を交わすことが叶わなかったこと。
「とまぁ、オレが話せることはこれぐらいかな……」
「うーん、なんかあれだな。すごい罪悪感が残るな」
「いやいや、オレの方こそ悪かった。こんな話に付き合わせることになって」
人に話を聞いてもらっていると次から次へと話題が出てきてしまう。そのペースにレイヤももまれ勢い止まらず話してしまっていた。悪いと感じているがどこか心が楽になったのをレイヤは微かに感じていた。
「そっか…神器、契約出来なかったんだな……。悔しいよな……………」
「ごめんな。皆の力になれなくて…………」
不甲斐ない。抑えきれない悔しさが再びレイヤの中にこみ上がる。皆と共に同じ道を進めぬことが何より自身の非力さを自負させた。守りたい、そう願ったはずなのに。誰かを守るどころか自分すらも守ることは出来なくて。レイヤの心は今にも押し潰れ、砕かれそうであった。と、レイヴはなにやら不服そうな表情を見せた。不思議そうに見つめているとレイヴは声を荒げた。
「本当だ!神器たちも全く見る目のねぇヤツらばっかで腹が立つぜ!こんないい契約者を見落とすとかマジ間抜けにも程があるだろ!」
レイヴは怒りを顕にし、罵声を上げた。勢いを増し止まる様子はない。慌てたレイヤはレイヴの怒りを鎮めようとレイヴを宥めた。
「お、おい急にどうしたんだよ!?とりあえず落ち着けって!」
「……ふぅ、これぐらいに済ましておくか」
レイヤの声にレイヴは直ぐに罵声を止め落ち着いた表情を見せた。唐突なレイヴの反応に困惑を隠せずにはいられなかった。
「急にどうしたんだ?いきなり大きな声だして………」
「ちょっと腹が立ったもんでついな!」
レイヴは悪戯っぽく笑いかけた。レイヤも直ぐに怒りが収まったてくれたので安堵の表情を見せ胸を撫で下ろした。するとレイヴはレイヤの瞳をまっすぐに見つめ笑いかけるように言った。
「さっき、皆の力になれなくてごめんって言っただろ?でもな、それはちょっと違うんだぜ。オレたちはお前と一緒に同じ道を進みたいんだ。力だのなんだの関係ない。同じ仲間なんだから一緒に助け合っていけばいいだろ?」
───ようやく、理解出来た。ここまで分からずにいた自分が情けない。そして、本当に申し訳ない。レイヴはレイヤを励まそうと彼なりにしてくれていたのだ。そんなことも分からない自分が本当に嫌になる。
そんな自分にレイヴはいつも笑顔で居てくれている。
レイヴは「それに」と続け、
「───きっとレイヤにしか出来ないことだってたくさんある。ゆっくり時間をかけてもいい、今の自分が出来ることを見つけだしていけばいいさ」
何を諦めていたのだろうか。
戦えずとも、仲間と共に歩むことは出来るではないか。
共に支え合う、仲間がいるのだから。
最高の友がいるのだから。
「─────ちょっと、オレ行ってくる」
レイヤは教室を後に廊下へと出た。レイヴの呼び声が聞こえるも今はそうではない。レイヴには後で謝らなければなるまい、そう友人を脳裏に浮かべレイヤは駆ける。
この思いを、伝えねばならない人がいる。
後ではない、今すぐに伝えねばならないのだ。
抑えきれぬ思いを胸に駆ける、駆ける、駆ける、駆ける。──────そして、衝突する。
ただひたすらに走っていたせいか、周りがよく見えず前方から来ていた者に気づかずぶつかってしまった。
謝ろうと言葉をかけようとするも、息が詰まり言葉をかけることはできなかった。
倒れ込み、床に座る少女の姿が視界へと映し出された。その少女は息を切らし、目に涙を浮かべていて───、
「─────ドラ、シル」
少女の名を、口にする。それに反応を示すかのように口を開き震えた声で言葉を発す。
「私は君に酷い仕打ちを行った。絶望に沈む君を追い討ちのように私は貶めてしまった。私は君を教え導く者だというのに………私は……………………」
自身を咎める言葉を並べ、ドラシルはその場に泣き崩れた。顔を掌で覆い隠し、ひたすらにレイヤを見ないようにしている。合わせる顔がない、そう訴えかけるような悲痛な叫びを聞いているような光景だった。
しかし、そうであっても言わねばなるまい。心に決めたのだ。もう諦めたりなどしないと。
「ドラシル、聞いてくれ」
今ここで言わねば絶対に後悔する。今この気持ちを、この思いを伝えねば絶対に。伏せていたドラシルの虚ろな紅の瞳がこちらを見つめる。息を吸い、胸に秘めた思いを今、伝える。
「────オレを、強くしてくれ」
ドラシルの瞳に光が宿ると共に、レイヤの姿がはっきりと映し出された。許されるはずがない、そう確信していたはずなのに。その確信はあっさりと裏切られて。
「オレはもう諦めない。これからは自分が出来ることを探していく。そして自分自身も強くなりたい。だから俺に、力を貸してくれないか」
手を、差し伸べる。男の手とは思えないぐらい綺麗で、それでいてどこか頼もしさを感じるようで。迷いなんてない。もう二度と、この手を放してなるものか。絶対に、絶対に─────。
「───ああ、ならば私が君の歩む道をこの手で導こう」
涙はない。満面の笑みをみせてくれた。
天界。北国ラグルヘムス、北の外れにて。
吹雪が身体を強く殴りつける。視界は銀雪の世界にへと染まっている。一歩、また一歩と足を進めるごとに体力が奪われいくのを感じる。ここが何処なのか、知るよしもなかった。
────その生まれ持った金髪が、氷雪と共に靡く。
「主よ、貴方様は何処に居られるのですか……………」
─────少女は途方もなく、彷徨い続ける。




