第六話 序曲は響かない
レイヴ、と名乗った少年はレイヤに気さくに笑いかけていた。それにレイヤは慌てた様子で返す言葉を懸命に探し出す。
「あ、えーと、オレはレイヤでいいよ。……こちらこそ、よろしく」
選んだ言葉を並べレイヤは言葉を返す。するとレイヴはニカッと笑うと口元に人差し指を立て小声で囁いた。
「後で、お前のこと色々聞かせてくれよな」
そう言うとレイヴは姿勢を前にへと戻した。それに習うようにレイヤも顔を前にへと向ける。その後ラクアの話が終わり朝のホームルームが終わった。
「この後すぐに訓練所へと集合。時間は有限、直ちに移動するように」
そう告げると教室を後にラクアは去っていった。ラクアが教室を出た瞬間、クラスの生徒たちが一斉にレイヤの元へと駆け込んできた。
「ねぇ君!もしかして人間か?すげぇ!本物の人間だぜ!」
「すごい!本物の人間さんよ!私初めて見たかも!」
「これが人間か………オレたちと見た目はすごい似てるな!」
一斉に飛び交う質問の嵐。何が起きているのか頭の回転が追いつかず目が回りそうだった。飛び交う言葉は止むどころか勢いを増していた。だが、それを見たレイヴが止めるように食って入ってくる。
「お、おいおい!いきなりこんなんじゃこいつも混乱するだろうが!それに早くしないと訓練所に遅れちまうぞ」
「そ、そうだな。ごめん、いきなりこんな問い詰めたりしちゃって……」
「私もごめんなさい。つい興奮しちゃって……」
「オレも謝るよ…………」
皆が同時に謝罪の言葉を並べ、揃って頭を下げる。その様子にレイヤは慌てた様子で言葉を返す。
「オレも少し緊張してて、うまく答えられなかったんだ。次は絶対に答えてみせるから、みんなもよかったらまた声をかけて欲しい」
レイヤも頭を下げ、囲んでいる生徒たちに謝りかける。その言葉に皆は目を見開き、唖然と口元を開けていた。レイヴも、それには驚きを隠せずにいた。その皆の沈黙に思わず失言だったかと後悔の念を抱く直後だった。クラスの皆が顔を合わせると一斉に大声で笑い飛ばしたのである。その笑い声の中レイヤは更なる困惑を得た。すると、ひぃひぃと腹を抱えたレイヴがレイヤの背中をばしばしと叩きながら嬉しそうに言った。
「お前めちゃくちゃ良いやつだな!可笑しくて馬鹿笑いしちまったぜ!」
その言葉にレイヤの表情にも自然と笑顔が生まれてくる。叩かれる痛みも今は不思議と心地良い。レイヴはレイヤの肩に手をのせ最高の笑顔で言った。
「──────改めてよろしくな、レイヤ!」
レイヤに新しい友人ができた。
「………で、なんでドラシルが?」
「私が居たら何か問題でも?」
「いや、そういうわけじゃなくて…………」
訓練場へと向かったレイヤたちだったがそこにはドラシルが待ち構えており、現に今レイヤとドラシルはなぜか手を繋いでいる状態である。特に周りからの目線が気になってしょうがない。
出来れば一刻も早く手を解きたいのだが解こうにもドラシルが解こうとしないので解くことが出来ずにいた。
「手を繋ぐ必要はある…………?」
「なに、これは君に魔力を分け与えているのさ。これから大事な儀式があるんだから」
「儀式?というか、他に分け与える方法はないの?」
「んー、互いに唇を重ねあって分ける方法もあるけど……あ!もしかして私とキスし──」
「手を繋ぐ方でお願いします」
確かに手を繋いでいる手から何かが流動的に流れてくるのを感じていた。手から腕、腕から身体へとなにやら力がみなぎってくるのが全身で確認することができた。
「うん、この程度の魔力なら十分だろう。さ、私についてきて」
そう言うとドラシルは歩き始めた。そんなドラシルについて行くと古い倉庫の扉の前へと着いた。その扉には鍵がかかっている様子は見当たらなく代わりに紋章らしきものが扉に大きく描かれていた。ドラシルはその紋章に手をかざすと大きな騒音と共に紋章は強く輝き出し扉は開かれる。そして、そこには異様な光景が広がっていた。
神器を模したであろう石像が六つ、円を描くように並び立っていた。そしてその石像にはそれぞれ六色の宝石がはめ込まれていた。赤、青、黄、緑、紫、桃。その宝石たちは妖しくも煌びやかに輝きを放っていた。
「────さあ、君は選ばれる。六つの神器たちに」




