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デマイズ・オブ・ワールド  作者: 雨兎
第三章 邂逅
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第五十話 合同戦闘訓練 前編


「いいか、みんな。作戦はさっき話した通りだ。くれぐれも無茶だけはしないでくれよ」


戦いの火蓋は切られ、両戦士隊が戦場へと走る。森林エリアが開始地点となる第一戦士隊は、密生する木々を掻き分けながら移動していた。


「そういうルベリアこそ無茶ばっかりなんだからよ、頼むぜ隊長!」


「……ああ、分かってるさ」


レイヴの言葉に、ルベリアは一瞬見透かされたような顔をした。どうやらレイヴには、隠しきれてはいなかったようで。少し固くなっていた表情にも笑みが生まれ、場の雰囲気も柔らかくなるのを感じた。


「よぉーしっ!それじゃあ私は、一足お先に行くね!みんなも頑張ってねー!」


ひとり先んじて前へ出ると、契約した神器である神銃を構え、黄金の翼を羽ばたかせ宙へと浮かび、こちらに激励を送る彼女の名はララン・ユスピース。眩い黄色をした髪をふんわりとしたお下げ髪に纏め、明るい桃色の瞳をもつ溌剌とした第一戦士隊のひとり。

彼女の契約した神器、神銃ハルピュイアは空中戦に特化された性能をしており、自身の機動性はもちろんのこと、風を自在に操ることを可能とし攻撃手段や風に自らの言葉をのせて伝達することもできる。此度の戦闘訓練において、彼女は相手の動向や各エリアの人数把握を視察し、仲間に伝える役割が与えられているのである。


「それじゃあ各自、それぞれの配置に向かってくれ。皆、頼んだぞ」


ルベリアの言葉を最後に、第一戦士隊は各編成された区画へと分かれる。レイヤたち森林エリア組はラランの報告を受け次第、作戦へと出る方針のため待機していた。


ラランの通達を今か今かと待ち望む最中、()()は訪れた。








『────みんなぁ!!!!今すぐそこから離れてぇーー!!!!』








風と共に大音量で流れてくる切羽詰まったラランの声。第一戦士隊の皆全てが数秒足らずでその言葉の意味を理解した。────だが、それでも迫り来る危機から逃れるにはあまりにも遅すぎた。




試合開始から僅かにして数分。突如、廃墟街区画から放たれた高出力魔力による広範囲殲滅攻撃により、城下街区画全壊、森林区画半壊。


──グウィン・アルマイル。


──ゼルバルト・レオフォーン。


第一戦士隊二名の気絶による退場が確認された。






数分前、第二戦士隊開始地点、廃墟街区画。






「ロジェフ、それ本当にやるの?そのぉ、ちょっと危なかっし過ぎない?」


「何を言ってるんだマーヴェ、僕らは戦士なんだ。こんなことで臆していてはいざ戦場に立った時に誤った判断をする。相手は共に戦う戦士だろうとも、戦う相手として立ちはだかったのなら非情にならなくてはならないんだ」


「要するに相手を完膚なきまでぶっ倒せりゃあいいってことだろうがよぉ。ハッ!簡単なことじゃねぇかよ、ビビってんじゃねぇぞ」


「セローナ、それは違います。これは共に高みを目指すために行われる戦いであり、相手を負かすためだけのものではありませんよ」


「ああん?ダズリス、てめぇみたいなのがいるから平和ボケする奴らが増えるんだろうが」


「あ、わわわ……ど、どうしよう。本番前なのにぃ、喧嘩始めちゃったよぉ……」


「ほらぁ、テトナちゃんが怖がってるじゃない。二人とも喧嘩はめっ、よ?」


やがて他愛のない言い争いまで始めた者たちがいる中、この男だけは顔色ひとつ変えることもなく、感情も一切揺れることなく、ただひたすらに門の向こう側にいる相手を見据えていた。


「……相変わらずだな、お前は。戦いの前だってのに、表情ひとつ変えやしねぇ」


「……アルトゥスか。戦いに不要なものは持ち込まない主義なのは君も知っているだろ。ただ、それだけさ」


「そうかよ。まあ、お前には相手が誰であろうと関係ないだろうけどな」


灰がかった青色の髪が風に揺れる。翡翠色の瞳を閉じ、暫し考え込むように沈黙する。そして、翡翠の瞳は開眼され、ベルティナ・シルバリーは穏やかに笑みを浮かべた。


「そうかもしれない。でも此度のこの戦い、そうではないかもしれないんだ」





総合監視待機室にて。



「君の生徒は一体全体何を考えている!頭おかしいんじゃないのか!?」


「……これは教えが行き届いていなかった私の過ちだ。……だが、これはいくらなんでもやりすぎだろう」


ドラシルが映し出されている画面に対して怒りの声を上げる。それにはミルファも頭を抱えていた。


「早速、医療室からうちの生徒が二名搬送されたと連絡が届きました。命に別条はないそうです」


「そうか……。私の教え子が迷惑をかけてしまったな。本当に申し訳ない、ラクア先生」


「いえ、彼も試合形式を理解した上での判断だと思いますので。私も、彼の立場なら同じ手段を選んだでしょうし」


「ちょっと、ラクアっ!!君は何をそんな冷静でいられるんだっ!?私のレイヤに何かあっていたらどう責任取ってくれるんだ!!!」


「悪いが私はお前と違って一人に執着して指導などしない。分け隔てなく皆を導くのが私の仕事だ。私の生徒なのは変わらんが、お前の弟子と言えど特別扱いするつもりはない」


ラクアの言葉に、その場の空気は一気に凍りついたかのように張り詰めた。ドラシルが怒りを顕にした証拠だ。


「やめないか、ドラシル。彼は教師として当然のことを口にしただけだ。君のその怒りは間違っていると思うぞ」


「……はぁ、わかったよ。悪かったね、ラクア」


「ありがとうございます、ミルファ先生。庇って頂くような真似を」


「気にしないでくれ。そもそも事の発端は私にあるのだからな。……まあ、お前も少しは大人気ない気がするがな、ドラシル」


「ふん……。愛弟子を案じて何が悪いのさ」


ふてぶてしく呟いたドラシルの小言を機に、再び三人は中継された映像へと目を向けるのだった。












「………………っ痛ぁ、み、みんなは、っ!?」


「レイヤは無事、みたいだな。……何が起こった?」


「けほっ、あんなことができるのは、あの()()くらいだろ」


土埃にまみれ視界が悪い中で、互いに生存確認を行うレイヤたち森林区画チーム。鬱蒼と茂っていた木々は焼き払われ、地面に尻餅をつくレイヤの真横には、とてつもなく大きな何かが地面を抉るようにして通り過ぎたかのような跡が残っていた。何が起こったのかは理解出来ない。それでも、自分たちが追い込まれていることだけは痛むように感じてしまった。


『みんなーーっ!!生きてるーーっ!?というか大変なのーーっ!!今、物凄い勢いで第二戦士隊が移動してるの!!早くしないと先越されちゃうよーーっ!!だから、みんな急いで向かってーーっ!!!』


と、再び吹き抜けるような風が流れ、ラランの危険を知らせる懸命な叫び声が耳をつく。情報が少ない状況下の中、第二戦士隊の反応速度に、レイヤは軽く青ざめてしまっていた。


「ま、そりゃそうなるわな……。相手にしたら好機も好機、叩くんだったら弱ってる今だよなぁ」


「分かりきってることほざいてる場合じゃないっての!まずはどうにかして天霊結晶珠を探さないと……」


「けどさ、見通しはある程度マシになったとはいえ結構広そうだぞ。それに目当ての探し物は名称しかわからねぇしさ」


そんな時、ふと何かがレイヤの感覚に触れた。一時は違和感しかなかったが、すぐにそれが何かを記憶内で探り当てる。これと一致するものは、あれしかないとレイヤは確信する。

あの時、あの場所で。彼女から譲り受けた神聖な魔力を帯びた大結晶。これに触れた時に感じた魔力と、今も微かに感じる魔力の波が完全に一致していたのである。


「……俺に、心当たりがあるんだ。二人ともついてきてくれないか」


レイヤの思わぬ提案に、二人は顔を揃えて息を呑む。目をまん丸にして驚きの表情をしていたが、すぐにそれは期待と信頼の熱い眼差しへと変わった。


「もちろんだ。後ろは任せとけ」


「期待、するからな」


レイヤの偶然により思い出すことのできた感覚を頼りに、魔力の感じる方角へと三人は疾走した。



レイヤの感覚が導くままに走り続けること数分。試合開始直後の特大魔力放火の直撃を避け、本来の在るべき森林の姿を保っている場所に入っていき、レイヤたちの目の前に現れたのは青く透き通った湖であった。


「……こんな場所があったなんて」


「んー!戦闘訓練じゃなきゃ泳いでたのになー!」


「おい、すぐ裸になろうとするな」


「履いてるわ!言わせんな!」


ミュースが声を荒らげるが、しんと静まり返るほどに湖一帯は静寂に満ちていた。レイヤは感覚を今一度研ぎ澄まし、入念に探し物の在処を探る。すると、反応はよもや目と鼻の先。感覚の指した場所は、湖の底だった。

突き止めたと、報告の言葉を投げかけようとした直後。その場の三人が、同じ方角へと視線の矢先を向けた。



「……へぇ、先を越されてた、なんて。こんなこともあるのね」


「……でも、相手が悪かったね。私と姉さん、あいつもこっちにくるから」


顔を見比べても全くの瓜二つ、相違点があるとすればせいぜい髪色と瞳の色くらいだ。白髪の方は紫紺の鋭い瞳。黒髪の方は赤く染まった冷血な瞳をしている。そして、大きな特徴がもうひとつ。それは、装着している神器である。互いに神掌を装備しているようだが、他の神器とは明らかに違う違和感がある。


そう、──神器同士の波長が全く同じなのである。


まず、この世界には同一の神器は存在しない。神器の出自など、詳しくは解明されていないものの、同じ名称、同じ能力をもつ神器が発見されたという報告は未だかつて上がっていない。また、ひとつの神器を複数において契約することは叶わないとされている。神器が選び抜いた者のみしか契約は出来ないのだ。


だが、あれは同じにしか見えないほど似てついている。


「あら、もう来ちゃった」


「長話し過ぎたかしら」


と、何やら瓜二つの少女がぼそりと呟くと、背後の方へと振り向く。そこには神剣を片手に携えた男が一人、こちらにゆっくりと足を運んでいた。燻ったような青色の髪、静かに目の前の敵を見据える翡翠色の瞳。鬼気迫るような迫力に気圧されそうになるが、何とか正常を保つ。ふと、後ろの二人が気になって振り返ると、思わぬ姿に驚きと不安が一気に襲いかかった。


顔を強張らせ、冷や汗までかいているのだ。普段から冷静であり、焦った行動など見せたことのないあの二人が、ここまで萎縮して見えてしまうことに絶望すら感じていた。


これらが意味すること。


どうして。よりにもよって。なぜここに。


否定したくても、目の前にそれは立っている。


「君たちであれば容易く天霊結晶珠を回収していると読んでいたが……何かあったのか」


「いいえ、別に」


「特には」


「そうか。では、作戦に移ろうか」



怪物、────ベルティナ・シルバリーは低く呟いた。





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