第四十六話 継承
「おやおや、盛り上がっていますな」
レイヴたちの神器を見せてもらった後、レイヤ含む四人は談笑を沸かせていたところにふと声がかけられる。そこに歩み寄ってきたのはモーランだった。状況から見るに、レイヤたちの番が回ってきたのだろう。
「お、やっと来てくれたぜ。それじゃ、早速お披露目といくか!驚いて腰抜かすことがねぇようにな、モーランさん!」
「いきなり失礼だぞ、レイヴ」
「はっはっはっ、それは期待が高まりますな。では、皆さんの神器を見せて頂けますかな」
レイヴ、ルベリア、ルウチスの三人が並ぶと、同時に神器召喚の構えをとる。一気に真剣な表情へと変わる三人を見守るように、後ろへと一歩下がる。周囲の魔力の膨張と共に、三人を光が包み込む。その光はやがて兵器の姿へと変わり、この場に顕現する。神槍ローゼンクロイツ、神銃シモ・ヘイヘ、神掌アルゴスが目の前に現れる。
「ほほう、これはまた素晴らしい神器と契約していますね。それにこれほどの魔力量、戦力としては申し分ないでしょう」
並んだ三人の神器を見たモーランは感心の言葉を述べる。興味津々に顎に手を当てるモーランは、そのまま三人へのアドバイスに入った。それを眺めていた見たレイヤは、特に理由もなくぼんやりと上空に広がる青空を見上げる。頭の中にはなにも考えがよぎることもなく、ただそれとなく見上げていた。
「レイヤさんたち、ここにいたんですね。……レイヤさん?」
「わ……フェリシアか」
突然と声をかけられ動揺するが、聞き慣れた美麗の声音にすぐにその声の主の方へと向く。そこには声の主であるフェリシアが穏やかな表情でこちらを見上げていた。
「フェリシアはもうモーランさんに見てもらったのか?」
「いえ、私は契約している神器が無いのでずっとシャルテさんたちと一緒にいました。皆さんたちとお話していると、ついつい楽しくて時間を忘れてしまいそうになっちゃいます」
「そうか。馴染めてるようで安心したよ」
恥ずかしそうに照れ笑うフェリシアに、レイヤは安堵の声をあげる。転生前、初めての高校生活に緊張していたレイヤを、教室の皆が暖かく迎えてくれたのをレイヤはフェリシアと重ねていた。
「おや、ちょうど二人揃っていますな。探す手間が省けましたよ」
すると、向こう側からモーランが笑みを浮かべながらレイヤとフェリシアの元へと歩いてくる。
「さて、ヤヨイ レイヤくんにフェリシアさん、でしたね。随分と待たせてしまい申し訳ありません」
「あの、モーランさん。俺たち、神器と契約は……」
「ええ、知っています。それでも教えることは山ほどありますとも」
言いづらそうにレイヤが申し出るも、モーランは変わらずにこにこと会話を続ける。
先程からモーランの様子を眺めていたが、クラスの皆と接する際に時折見せる、あの優しい瞳からは想像できない鋭い目つきには驚かされた。隙のない観察眼から対象の大まかな情報を
掴み取り、そこから的を射たアドバイスが繰り出されるのだろう。
身近にそういう人物がいたおかげか、レイヤはその辺りの区別や判断がある程度理解できるようになっていた。そして彼、モーランもまた注視すべき者だということだ。彼の瞳は、ドラシルやヘファイストスによく似ていた、というよりも、共通するものを見つけたと言うべきか。
瞳の奥底に、ゆらめく静寂の火が映っていることだ。
「まず、フェリシアさん。率直に申し上げますが……あなたには三つの力が内に秘められています」
「三つの、力…………ですか?」
「信じ難いのですが……天使の力は勿論なのですが、悪魔と堕天使、両方の力も秘めているようなのです」
モーランの発言に、レイヤとフェリシアは衝撃のあまり言葉を失う。彼女は天使であるミラと、悪魔のリュエルとの間に生まれた。よって必然的に天使と悪魔の力は継承されるはずなのだ。だが、驚くのはそこではない。なぜフェリシアは────堕天使の力を秘めているのかである。
「…………それは、本当なんですか?」
「私の眼は少し特殊でしてね、視た者の本質や弱点を見抜くことができるのですよ。ですので、この眼には真実しか映らないのです。……私も最初目にした時は、この眼を疑いました。ですが、確かにこの眼にははっきりと三つの力の奔流が見えます」
フェリシアの震えた声から、動揺していることが察せられる。過去にフェリシアを救った「悪夢」と自らを名乗った、あの男の仕業なのだろうか。
「それと一つ問題が。三つの力の内、堕天使の力に僅かですが邪気を感じます。それほど力が大きくないので、暴発するまでに至ることはないとは思うのですが、念の為に忠告しておきます」
「私は、この力をうまく扱えられるでしょうか。本来の天使であれば、悪魔や堕天使の力なんて持っていないはずでしょうし……正直、不安しかありません」
それもそうだ。彼女はこれから、レイヤと同じくして「戦士」としての道を進まなければならない。突然と明かされた内なる邪悪と、どう向き合っていくべきか。彼女に与えられた最初の試練は、あまりにも大きすぎた。
「確かに、不安と感じるのも無理はありません。ですが、逆に言ってしまえばそれは、あなたにしか秘められていない力なのです。あなたにその力が託されたということは、必ず意味が存在するはずです。フェリシアさんならきっと、その力が扱えるはずですよ」
「私にしか、秘められていない力……」
優しく励ますように言葉を述べるモーラン、その言葉一つ一つに芯の根強さが感じられた。彼女の立場に寄り添って、そして鼓舞するように激励を送る彼の姿に、レイヤは思わず感服する。指導する立場に慣れているのもあるだろうが、一目で相手の情報を見抜き、そこから分析して助言することができるのは彼以外にいないだろう。
「モーランさん……私、頑張ります。必ずこの力で、たくさんの人たちを助けられるように」
「ええ、私も全力で応援いたしますよ」




