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デマイズ・オブ・ワールド  作者: 雨兎
第三章 邂逅
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第四十三話 覚悟


ヘファイストスとの修行を終え、ヴァルファリアへと帰還したレイヤ。今はフェリシアの事情聴取が行われており、再度書斎室から追い出されて廊下にて立ち尽くしているところだった。ドラシルに任せてはいるものの、石室での出来事を思い返すとやはりフェリシアのことが気になって仕方がなかった。

あれほどまでに残酷で、悲惨なフェリシアの過去。これ以上、彼女には辛い目に遭わせたくはない。彼女にはどうか、笑っていて欲しい。そうどこかで願っている自分の姿があったのだ。余計なお世話かもしれない、それでもレイヤは彼女の手助けになりたかったのだ。




「待たせて悪かったね。さぁ、入ってくれたまえ」



と、書斎室の扉が開きドラシルの入室許可の声だけが聴こえた。いつもならば冗談混じりの明るい声音が飛んでくるのに対し、その声は短調かつ冷ややかであった。書斎室に入るとすぐにフェリシアのソファに腰掛けている姿が目に映った。フェリシアはこちらの表情をちらりと窺い、少しだけ安堵の表情を見せると照れた様子で目を逸らした。その向かい側にはドラシルが座っており、部屋に入った事を確認するとすたすたと扉を閉めにいく。すれ違いざまに、ドラシルから漂う静かな怒りを素肌で感じ取ることが出来た。感情には出していないものの、静寂に燃ゆる鬼気の如き怒りは凄まじいものであることが察せられる。固唾を呑み一息深呼吸を入れた後、レイヤは空いたフェリシアの隣に腰掛けた。




「……フェリシアには全て観させて貰ったよ、何もかもね」


「ドラシル、俺は───」


「ああ、私も同じ気持ちだとも。だがね、感情で動いてはいけない。三種族は今、いつ戦争が起きてもおかしくない程の緊迫状態。それが成しえたとしても我々天使を危険へと晒すのには間違いない。故に今はお互い感情を押し殺すんだ、いいね?」


「………………わかった」


「それで、だ。これからの彼女の方針についてなんだが……明日からレイヤと同じクラスに転入させ、同じ戦士として学んでもらうことにした」


「それ、って………」



ドラシルの思わぬ発言に言葉が詰まる。聞き間違いだと、そう願いたくても叶わない。何故ならレイヤは、彼女が明瞭に告げた「戦士」という言葉が既に耳から離れないでいたからだ。同じ戦場に立つということが、レイヤにとってはあまり好ましくなかった。

それもそのはず、レイヤは彼女に笑っていて欲しいと願ったのだ。もう二度と泣かせないと心に誓ったのだ。屍山血河の地へと立つことが、何より彼女の悲しみを生んでしまう。それを何としてでも避けたいレイヤはあまりにも理解出来なかった。



「はっきり言わせて貰うけど、俺は反対だ。……理由は言わなくても分かるだろ」


「分かるとも。何故なら私も君と同じ意見だからね」


「…………どういう意味?」



予想の的を外れた言葉にレイヤは思わず眉をひそめる。その反応を見たドラシルはちょいちょいと指を指す。その指先はフェリシアを向いており、隣に座るフェリシアを見ると何やら話したげにそわそわしていた。



「実はその……私が、ドラシルさんにお願いしたんです」



そして、彼女の口からその言葉が出たことに対してレイヤは驚愕する。



「なっ………!?」



「レイヤさんとドラシルさんの考えは分かりますし私を案じてくれているのもすごく嬉しいです。………でも、守られるだけじゃ嫌なんです。私はレイヤさんやドラシルさんの隣に居たいんです!」




思いがけないフェリシアの胸に秘めた想いが打ち明けられる。明瞭に告げられたそれはレイヤの考えを縛り付けていた鎖を粉砕した。彼女には幸福であって欲しいし、いつまでも笑っていて欲しい。涙を流させないと心に決めた。だから何としても彼女は守ってみせると誓ったのだ。

だが、彼女はレイヤが守ってやらねばならないほど弱くなかったのだ。強い覚悟が、誇り高き意思が彼女には確かに秘められていたのだ。思わずレイヤはフェリシアの力強い言葉に気圧され押し黙ってしまう。



「予想通り一番に反対したレイヤを黙らせたんだ。フェリシア、君の覚悟はしっかりと彼に届いたと思うよ。そうだろう?レイヤ」



「…………わかった。でも無茶だけは絶対にしないでほしい。これだけは約束してくれ」


「はい、約束です。………だからレイヤさん。そんな不安そうな顔をしないでください。いつも私に向けてくれる不器用だけど優しさがたくさん詰まったあの笑顔の方が私は好きだから」



不覚だ。笑っていてほしいと願ったのは自分だというのに。当の本人が笑えていないではないか。何度自分に失望すれば気が済むのだろうか。呆れ、落胆し、自らを咎める。そう、さっきまでの自分であれば。



「───ああ、そうだった。どんな時も笑ってないとな」



落胆する暇があれば笑おう。悲しむ暇があれば笑おう。自分を責める暇があれば笑おう。どんな時だって、笑ってさえいれば幸福なのだから。



「話はまとまったみたいだね。それじゃあ次の議題に移ろうか」


「次…………?」


ドラシルの発言に首を傾げる二人。しばしの沈黙の後、ドラシルはフェリシアの方へと目を向ける。



「フェリシア、君が見せてくれた過去の記憶……その映像の中で最後君を助けた男のことだ」


フェリシアが見せてくれた過去の映像の最後。白髪の男が突如としてフェリシアの危機を救い自らを「悪夢」と語っていた。そこで映像は終わっていたので不思議には思っていたが。


「あの男、紛れもなく悪魔の類だろう。フェリシアと接触があったということが何よりの気がかりだ。フェリシアに悪魔の気が混ざっているのも何か関係している可能性が高い。これからこの男の調査も兼ねて我々天使も行動に出る」



ドラシルが強く言い切る。普段の軽快さはない、重みのある覚悟に満ちた言葉だった。それを聴いたレイヤはますます全身が引き締まるような感覚を覚えた。


新たにフェリシアを迎え、各々は覚悟を胸中に秘める。ここから始まるのだ。救いを志す者たちの戦いが。自らの存在意義の証明が。天使たちの反撃が始まるのだ。



だがそれは、天使だけではないことを彼らは知る由もない。






「………久しいわね、⬛︎⬛︎⬛︎」


「相変わらず君は遅刻してくるんだな。時間を守る気はあるのか、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」


「居場所をくらましてここにも集まらないあの子より幾分かマシでしょ。自分ばっかり、本当に妬ましいわ」


「あれは放っておけ。もはや謀反と変わらぬ。いずれ直々に始末されるだろう」


「そうなのぉ?そっかぁ、あれが最後のお喋りだったのね。………残念」


「あなたも相変わらず呑気ね、アスモデウス。そういえば天界襲撃で酷い目に遭ったそうじゃない?」


「…………そうね。でもレイヤくんと彼にはもう一度会いたいな。今度は⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎も一緒に行かない?」


「うぇー、よりにもよってアスモデウスちゃんと行くんスかぁ?面倒ごとに巻き込まれること確定なんで嫌なんスけど」


「しくしく、私嫌われちゃった」


「これは私の意見だが、単独行動は避けるべきだ。彼女をあそこまで追い込むほどまで天使共は力をつけている。であれば今は、相手の出を伺うべきだろう」


「……一理あるわね」


「…………あ、これ私同行するパターン」





「待たせたなお前たち。では、始めるとしよう」




悪魔もまた、企みを練るのである。





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