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デマイズ・オブ・ワールド  作者: 雨兎
第三章 邂逅
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第四十二話 鍛冶神の試練




「っっづぁ!!?……………ぃって、容赦ねぇな」



低空を舞い地面へと叩きつけられ、レイヤは恨めしそうに呟く。その睨んだ先には怜夜を豪腕で吹き飛ばした巨躯の老体が欠伸をしながら呆れたような口調でこちらに向かって話しかける。



「なんじゃあ、最初の勢いはどうした!もっとかかってこんかい!」


「………絶対あんたを負かしてやるからな」


「ほーっほっほ、それを聞くのは何度目じゃ?毎回わしに吹っ飛ばされては言うてる気がするのー」


「……………よし、次に吹っ飛ぶのは爺さんの方だからな。ぎっくり腰になっても知らねーからな」


「ふむ、その意気や良し。さあ、来い!!」






と、このくだりをあれこれ続けることはや二時間。レイヤとヘファイストスによる修行は長きにわたり行われていた。それを遠くからぼんやりと見つめる銀髪の少女、クオンはテラスチェアに腰掛けながら淹れたばかりの紅茶を吐息で冷ましながら喉へと流し込んでいる。ティーカップを置き、クオンはクスッと笑うと懐かしむように独り言を呟いた。





「あんなに楽しそうなおじいちゃん、初めて見たかも」




あまりにも無邪気で、生き生きとしていて。見ているこちらの方まで頬が緩んでしまうほどに。二人のはしゃぐその姿はクオンにとっても新鮮で、とても喜ばしい一時であった。




「っっっだぁっ!?こん、のぉ…………!」


「ほっほっほ、今日はこのくらいかの」


「いや俺は、まだ……………!」


「何を強がっとるんじゃ。お前さん、その体力と魔力でまだやろうって思っとるのか」


「ぐぬ………………」


「まあ少し休め。それにお前さんのことも少し解ったことがある」




ヘファイストスにはただ全力でかかってこいと指示され、レイヤは手渡された剣を手にとり攻撃を仕掛けた。考えつくあらゆる攻撃手段を試してみたが全ていなされ、豪腕で吹き飛ばされていた。あの時は変に対抗心を燃やし負けじと闇雲に挑み続けていた。何か意味があっての行動とは微塵も思わなかった。



「まずお前さんの全てにおける攻撃が力みすぎておる。力を込めることは大事じゃが、それが仇となって自分の動きを鈍くしておるんじゃよ。それに魔力を剣に集中させすぎじゃ。それじゃと確かに一撃の威力は申し分ないじゃろうが、その分俊敏性が犠牲となってしまうんじゃ」


「………確かに。魔力は剣に集中させてとにかく思い一撃をって無意識に想像してたかも」


「神器に魔力を注ぐことも重要じゃが、今のお前さんに必要なのは速さじゃ。まずは全身に魔力を行き渡らせる鍛錬が必要じゃな。それを可能にすれば全身に魔力を込めることで身体能力を強化させ、お前さん自身の戦い方も今よりずっと俊敏さが増すと思うぞ」


「なるほど………」




予想以上の、的確なアドバイスに驚いた。軽い挑発は混ざってはいたもののレイヤの攻撃を直接見極めることでヘファイストスは改善点を探り当てていたのだ。

変に憎たらしい面はあるものの、その技量といい鍛冶神の名に相応しいものだった。彼が『神』であるのだと再認識させられたのだった。




「と言っても、今日は終いじゃ。また明日にでも来るんじゃな」


「魔力が回復すれば俺はまだやれる。だから───」


「だめよ。まだ時空印との同調にも慣れてないんだから。それにそう焦らなくても大丈夫よ」



と、いつの間にかクオンが二人の傍まで近付いてきていた。


「お疲れ様、レイヤ。それにおじいちゃんもね」


「クオン、大丈夫ってのは何か理由でもあるのか?」


「ええ、実はこの空間での時間の流れが特殊でね。ここで一日過ごしたとしてもレイヤたちのいる世界では一分にも満たない時間しか経ったことにならないのよ」



「そ、そうなのか………」



「ただし、外界の者がここに居られるのは一日が限度ね。違う時間の世界からきた者をここで留めておくのは私の力だと一日が精一杯で。それに続けて呼ぶことも無理みたいで違う時間の流れの者とこっちの時間との接続を一度切ると再接続に時間がかかるみたいなの」



「今日のところは体を休めて魔力を回復させておけ。お前さんが全開になった頃にはここにもまた来れるはずじゃ。強くなりたいという気持ちは良く分かる、じゃがそう焦ることはない。少しづつ正確に己の性質を理解することが何より大切なんじゃ。そうすれば着実にお前さんは強くなれる」



思えば確かにそうだ。焦ってしまえばかえって自分の首を締めることになるかもしれない。ドラシルにも早く強くなった自分を見せたいのが一番だが、まずは自分を理解することに専念することが何よりの第一目標だ。



「……じゃあ、そろそろ戻ろうかな」



「うん、また来てね。紅茶を淹れて待ってるから」




そうして二人に見送られレイヤはヴァルハリアへと戻った。









「紅茶、って美味しいんですね。このクッキー……も甘くて好きです」


「うんうん、喜んで貰えて良かったよ。あ、このお菓子は私の大好物でね。マカロンと言ってこれも甘くて美味しいんだよ〜」


「わ、なんだか可愛いくて美味しそうですね。………じゃ、じゃあ、いただきます」



もじもじと照れながらフェリシアはマカロンをぱくりと口に放り込む。そして、無邪気な子供を思わせるように目を輝かせうっとりしている。そんな可愛いフェリシアを見てドラシルはうっとりしていた。



と、そんな二人にこれから起こる突然の出来事など知る由もなかった。



「ドラシルさん、こんなに食べていいんですか……?」


「もちろんだとも!甘いお菓子を食べれることがどんなに素晴らしいことかをフェリシアには理解して欲しいのさ!ほらほら、これはタルトと言ってだね─────」




「───────っだぁ、!?」




突如、何も無い空間から青年が現れそのまま地面へと落下した。背中を打ち付け悶絶している一方、ドラシルとフェリシアはあまりにも突然すぎる出来事に硬直している。その二人に気付いた青年、レイヤは気まずそうに目を逸らした。フェリシアは未だ目をぱちくりと見開いているがドラシルはむっとした表情でレイヤをじとりと見つめていた。それに耐えきることが出来なかったのか、レイヤはぼそりと呟いた。




「お、俺もタルト食べたいなー…………」



「……まだ一分も経っていないんだが?少し礼節が足りていないんじゃないかな、愛弟子?」




その後、ドラシルによる尋問はフェリシアの説得もあり一時間で事なきを得た。



















































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