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デマイズ・オブ・ワールド  作者: 雨兎
第三章 邂逅
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第四十一話 無力にさよならヲ



「二人とも、ご所望のお茶入ったわよ」



不意に声が聞こえてその方向へと振り向くと、向こう側からクオンが細かい装飾が施されたトレイにティーポットとクッキーをのせ運び歩いてきた。テーブルにカシャンと軽い音を立てながら置くとせっせとティーカップにお茶を注ぎ始めた。


「おお、これはまた美味しそうじゃの」


「──────」


「どうしたの?……そ、そんなに見つめられても困るんだけど」


「……………………ん、ああ、いやなんでもない。紅茶ありがとう。クッキーも焼いてくれたんだな」



テラスチェアに腰を下ろしレイヤはクオンの焼いた一口ほどの大きさのクッキーを手に取ると、ぱくりと口の中に放り込んだ。ふんだんに使われたバターと砂糖が口の中いっぱいに甘みを広げ、その広がりきった甘さを紅茶の程よい渋みが緩和させる。



「どうかな、変な味とかしない?」


「うん。すごく、美味しい」


「そ、そう?なら良かったわ」


レイヤの満足気な笑みにクオンも恥じらうように笑う。しかし、クオンは気づかなかった。レイヤの歪にまでに至った笑み、あらゆる思いと感情が交錯した後にレイヤの心には亀裂が走った。




クオンは自分の親が兄に殺された事を知らない。



知らない事で今までの日常が崩れることなく送れていたのかもしれない。だがそれは悲しいことでもあった。

これをクオンが知った時、彼女は()()でいられるのだろうかと思ってしまったのだ。



これはお節介なのだろうか。



人を案ずることは決して悪いことではないと思っていた。無視することが出来なくて、放っておけなくて、助けになりたくて。それが今ではむず痒い程に心に蟠りを生んでいた。




「──────っあだぁ!?あ、あんたいきなり何すんだ!!」



「わー!!?ちょっとおじいちゃん!なんでいきなりレイヤにゲンコツしてるのよ!!」




突然とレイヤの頭に拳が降り注ぎその殴った本人にへと声を荒げる。



「虫じゃよ虫」


「いや、俺ごと殺す気かよ」


「もう、また新しく紅茶淹れてくるから大人しくしててよね」



そう言ってクオンはティーポットを持って家の中に入っていった。それを見届けたレイヤは再びクッキーへと手を伸ばそうとした時、ヘファイストスがふと声をかけてきた。



「……………お前さん、表面に出すぎなんじゃよ」



「───────」



「お前さんの気持ちも分かる。でも、あの子を不安な思いにさせたくないのはお前さんも一緒じゃろ?あまりそう気に病むことはない」



「………………でも、思っちまったんだ。親が兄の手で殺されたことも知らないまま育てられて、親がこの世にはもう存在しないことも知らなくて。これじゃあまるで、クオンが騙されてるみたいだって思ったんだ」



「全くその通りじゃよ。わしはクオンを騙し続けた、その事実に変わりはない。クオンにとってこれが幸せだとわしが独断で決めたことじゃ。残酷だとは理解しておる、それでもあの子には笑っていて欲しかったんじゃ」




後悔に後悔を重ね、幾多の罪悪感に推し潰れた。

そんな表情をしていた。それがどんなに辛い決断だったのか、レイヤには計り知れない。笑っていて欲しい、その願いの代償に彼女の過去は閉ざされた。悲しい運命を目の当たりにし、胸が締め付けられるような痛みを感じた。




「あの子の笑顔が、わしにとって唯一の救いなんじゃよ」




ヘファイストス自身が己を咎めることはやむを得ないだろう。それでもレイヤは彼が許されるべきだと思った。こんなにもクオンの事を第一に考えて幸せであれと願う彼の罪を背負う姿はもう見たくないと思ったのだ。






「……………確かに辛かったと思うよ。俺だってそんなの耐えられない。それでもクオンの笑顔があるのは爺さんがクオンの事を大切に思ってたからじゃないかな。俺も悩んでる暇があったらクオンと笑いあってた方がいいって思った。だから爺さんもそんなに自分を責めるなよ、クオンだってそんな事望んでないんじゃないか」



「お前さん………………」



「…………あー、柄でもないこと言うんじゃなかった。なんか気色悪い」



「ガッハッハッハッハッハ!!何を言うのかと思えば慰めてくれるとはのぉ!全く変なやつじゃな!」



「うるせー!今絶賛後悔中なんだよ!」



「………………でも、ありがとうな。これからもクオンと仲良くしてやってくれ」



「……………………………………当たり前だ」
























「もう行くの?」


空間に生まれた光の道を背後にレイヤはクオンとヘファイストスに見送られていた。


「うん。随分と長居させてもらったからな、そろそろ戻らないと」



「そっか。それじゃあまたね、レイヤ。また紅茶とクッキーを用意して待ってるから」



「ありがとう。……それじゃ」



「…………少し待ってくれんか」




道へと足を運ぼうと踏み込んだその時、不意にヘファイストスから呼び止められる。まだ何かあるのかと振り向いた先には真剣な表情のヘファイストスがレイヤを見つめていた。それに対しレイヤも気持ちを切り替えヘファイストスの言葉を待つ。





「レイヤと言ったな、お前さん。これは提案なんじゃが……………お主、わしの元で修行せんか?」



「修行…………!?」



「忘れとるかもしれんがわしは鍛冶神、見たところお主には神器の才能がないらしいからのぉ。神器の性質、魔力の扱い方、工夫や鍛錬なんかは教えられると思っての。それにお前さんもいつまでも扱えないままじゃ嫌じゃろう?これはお主にとって悪くない話じゃろうと思うてな」




どうやらヘファイストスにはレイヤの神器適正がないことはお見通しだったようだ。しかしながらこれはレイヤにとって願ってもない提案だった。誰かを守るためにも、まずは自分が強くなければ意味がないのだ。レイヤの返答は勿論──────、






「──────その修行、俺にやらせてくれ」





「うむ、決まりじゃな」















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