表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デマイズ・オブ・ワールド  作者: 雨兎
第三章 邂逅
42/66

第四十話 悪逆なる全能



「神…………」



「ぬぅん?なんじゃその物言いたげな顔は。何かあるなら言うてみい」




ヘファイストスはレイヤの顔を覗き込むように屈むと、目を細ばめながら低く問うた。すると、レイヤは何やら真剣な眼差しに変わると、静かに怒気を秘めたような声で問い返す。




「ああ、丁度聞きたいことがある。──どうして神は、神器だけを置いて姿を消したんだ?」




遠い、それはあまりにも遠い昔。天使、悪魔、堕天使の三種族による争いを見かねた神々は、神々の手によって造られた兵器、即ち神器を置いて姿を消した。その後、神器による戦いは熾烈を極め、数え切れないほどの命が奪われた。




「どうして戦いを止めようとはしなかったんだ。罪もない人たちが巻き込まれてしまうのは分かりきっていたことだろ。それだけの力が神器にあることぐらい知ってるはずなのに……それなのに。神様たちは、どうしてなんだ」



レイヤは力無く呟く。神々の行いがなければ、三種族の争いは止んでいたかもしれない。それを思うと、神々に対して疑問しか浮かばなかったのだ。

レイヤを慮るクオンの表情は曇り、ヘファイストスも難しそうに顔の皺を寄せる。が、最初に沈黙を破ったのはヘファイストスだった。



「…………全くその通りじゃ。わしら神々は償うことの出来ない過ちを犯した。それは紛うことなき事実じゃよ。止めるべき戦いを激化させた神々は、ただそれを見ていただけじゃった。愚かしいにも程があるわい」


「何が、言いたいんだ」


「……確かに、わしら神に憤りを感じるのも当然じゃ。じゃが少しだけ、聞いてはくれぬか……?」



少し考えたがレイヤは何か事情があると踏み、怒りを抑えつつ無言で頷いた。すると、それをヘファイストスは気づかれないように微笑むと晴天の空を見上げながら、ぽつぽつと語り始めた。






「天使、悪魔、堕天使の三種族が争う最中、わしたちは争いを止めようとする者、争いを止めさせない者とに分かれ神々同士で対立していたんじゃ」


「……ちなみに、じいさんはどっちだったんだ?」


「わしは無論、止めようとしたに決まっとるわい。不毛な争いなどくだらんからな。罪のない者たちまで巻き込まれるのは見てもいられんかったわい。それに、この争いの余波は人間の住む世界まで及んでおったからな。人間たちを守るためにも、わしは争いを止めたかったんじゃよ」



「…………へぇ」



少なくとも、今目の前にいる神は決して人を見限る様な神ではないと心で悟った。

彼の言葉には人間への情で溢れていたのだ。会って数分も経っていない者の言葉なのに──どうしてこうも心が和むのか。

疑いの目を向けたことが申し訳なくなったレイヤは、目を合わせずらくなっていた。



「なんじゃ、俯いた表情をしおって。女々しいやつじゃのぅ、お前さんそっちなのか?」


「んなわけあるかっ! いいから早く続きを話してくれ!」



なかなか素直にはなれないレイヤに、ヘファイストスは大きく笑い飛ばす。咳払いをし、再び語り部へと舞い戻るヘファイストス。



「…………それでじゃな。対立はしたものの、争いを止めようとする者がほとんどだったんじゃ」


「え、それじゃあどうして……」





「────全能が、それを許さなかったからじゃ」





『全能』という聞き慣れないワードに、レイヤは違和感を覚えた。

ただ、ヘファイストスだけが重々しい表情を浮かべていた。





「意に背いた者は全て消され、止めようとする者はいなくなった。それに加え、全能は神以外の全種族を滅ぼすとまで言い出してな。わしに神器を造らせたんじゃよ」



「…………その神は何を考えているんだ」



「…………終焉帝を呼び覚ますためじゃ」




過去にこの世界を終わりへと導いたとされる存在。呼び覚ます、とはどういうことなのか。今のレイヤには見当もつかなかったが、それはすぐに驚愕へと変わる。


「終焉帝は、争いと共に姿を現しあらゆる全てを終わらせると言われておる。終始を司ると言われ世界の破壊と創造を担う存在。つまり全能は、全種族を滅ぼすために終焉帝を利用したのじゃ」


言葉が出てこない。あらゆる思考が交錯するも、理解することが出来なかった。

神というものがどのような存在なのか、レイヤは少なからず人々を見守り、時には手を差し伸べてくれるような、善良な神々を想像していた。


しかし、理想と現実は比べるまでもない程にかけ離れていた。



「そうして、神を除く全ての種族、世界は滅びた。あらゆる文明、あらゆる生命は途絶え、文字通り終焉を迎えたわけじゃ」


「…………でも、今こうして絶滅せずに存在しているのはなんで─────」


「うぅむ、ずっと話していると喉が渇いてきたのー。クオン、わしとこやつの分の紅茶を淹れてきてくれんかの。あと、一緒につまむ茶菓子も欲しいのー」


「え、ああ。うん、いいよ。ちょっと待っててね。すぐに用意してくるわね」



ヘファイストスの突然のオーダーに、クオンはすぐに家の中にへと入っていった。

言葉を遮るように感じたレイヤは、ヘファイストスの方を見やると、どこか寂寥感を思わせるような表情をしていた。



「…………この話は、クオンの前では喋れぬのでな。滅び去った世界、存在が絶たれた生命、それを元通りにした者がおった。全ての時間を司る時空神にして、全能の生みの親。名を──クロノス」


「……え、時間を司るってまさか……」


「……クロノスはな、クオンの父親なんじゃ。つまり、全能とクオンは兄妹でもあるんじゃよ」




あまりの衝撃の事実に、思わず一歩足が下がる。しかし、それをクオンには話せないというには少し違和感を覚えることもあった。



「クロノスの力により、世界は調和を取り戻しあらゆる生命は芽吹き返した。しかし、それに全能は激昂した。滅ぼしたはずの世界を、生命を元通りにしたからじゃ。その後、全能はクロノスを討つために、他の神々を率いて大戦を引き起こしたんじゃ。そして、その戦いで全能は、自らの手で父親であるクロノスを殺した」



「────────」



「クロノスは死ぬ間際に、赤ん坊のクオンをわしに預けてこの世を去ってしまった……クオンは自分の父親がいることも、兄がいることも何も知らないんじゃよ」



世には知らない方が幸福なこともある、と唱える者がいる。目に見えない世界からの情報を認識せず、見えている世界だけにしか目を向けない。その見えないを害や悪と見なし、一切の干渉を受けない。


レイヤは、クオンが自分の家族のことに対して無知であることがとても心苦しかった。


自分の家族を知ることがない事と、ありのままの事実を知り得る事。



クオンにとって、どちらが幸福なのか。

レイヤには分からなかった。













評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ