第三十八話 時を、再び
「やぁ、ご苦労さま。天霊石は無事に手に入れ………」
レイヤとフェリシアはラグルヘムスからの帰還を遂げドラシルの書斎室へと転移で着いたところだった。背の高い本棚の陰からドラシルが本を抱えながらこちらの方に歩いてくる。
ドラシルの抱えていた本が床に落下する。ドラシルの瞳に潤いが生まれ顔がみるみると紅潮していく。
「いや、待て。落ち着け、これには理由があってだな………」
「こ、この……………浮気者ぉぉ──────!!!!」
─────ドラシルによる怒号は、学校中に響き渡った。
「……いい加減機嫌直してくれないか?でないとまともに報告出来ないだろ」
「ふん、私なんてほっといたらいいだろ。君にはその子がいるじゃないか」
「だから説明させてくれって言ってるだろ。お前が聞く耳を持たないから説明出来ないんだろうが」
ドラシルはクッションに顔をすっぽりと隠し、まるで機嫌を損ねた子供のように不機嫌だった。その様子にフェリシアも不安そうな顔をこちらに向ける。これ以上不安な思いをさせない為にも、レイヤは弁解を始めた。
「まず、この子はフェリシア。古代遺跡の石室で独りだったフェリシアを、俺が連れてきた」
「………………連れてきた理由は」
「フェリシアに、外の世界を見せたかったからだ」
「……………………君の気持ちは分かる。その子に何があったのかは分からないけど、そういうことだろう。けどね、もしその子が悪魔や堕天使だったとしたら─────」
「───っ、そんなわけないだろ!!!」
ドラシルの言葉に思わずソファから立ち上がり激昂する。
彼女が、フェリシアが自分の敵であるはずがない。あれほどまでに悲しい思いをした彼女が、悪人であるはずがない。自分が慕う師匠であることは分かっている、それでもレイヤは我慢することが出来なかった。
「うん、この子からは敵意も悪意も感じない。善意に溢れたいい子だ。でも今の世情、此処を危険に晒す訳にはいかないんだ。たった一人の侵入で、僅かな危険だったとしても私たち天使を破滅させるかもしれない、それを何としてでも避けなければならない。それを君に、理解して欲しかったんだ」
「……………………ごめん。少し、頭に血が上ってた」
「ううん、理解してくれて私は嬉しいよ。それで、だ」
ドラシルはフェリシアの方を向いて真剣な眼差しを送る。フェリシアにもそれが伝わったのか、手をぎゅっと握りしめる。と、ドラシルの表情はゆるみ優しい口調で言葉をかける。
「フェリシア、と言ったかな。君のことを深く知りたい。お茶をしながらでも聞かせて欲しいな」
「は、はい。よ、よろしくお願いします」
「そう畏まらなくていいよ。女の子同士お茶を楽しもうじゃないか。というわけで、君には外れてもらう。覗いてもバレるからね?」
「覗かねーよ。じゃあ、フェリシアを頼むぞ。フェリシアもあまり不安にならなくていいから。きっと力になってくれるはずだ」
不安もあるがドラシルに任せるのがここは適任であると判断する。そう言うとレイヤはそそくさと部屋を出た。
「………………変なこと、吹き込まないといいけど」
そう独り言を小さく呟いた時、胸が疼くのと同時に頭に麗美なる声音が響く。
『少し、時間を借りるわね』
目を開けると、照りつけるような陽射しに目が眩む。目の前には青く、きらきらと照り輝く海が広がっている。そして、砂浜には白いテラスチェア、白いテーブル、日除けのパラソル。何より、その椅子に腰掛ける少女の方に視線がいった。その美貌の持ち主はこちらに目を合わせると小さく手を振りながら微笑んだ。レイヤは少女の方へと足を進め、空いている椅子に腰を降ろした。
「丁度、また紅茶が飲みたいって思ってたところだよ」
「ふふ、思ってたより元気そうでよかったわ。─────久しぶり、レイヤ」
そう言って少女は、クオンは照れ隠すようにレイヤの名を告げた。




