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デマイズ・オブ・ワールド  作者: 雨兎
第一章 戦士学園ヴァルファリア
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第三話 安息は訪れず


「ふむ、よく似合っているじゃないか」


「まあ、ざっとこんなもんか……」


新調された着慣れない制服を身にまとい、自分の姿を鏡に映し出す。

黒を基調とした、軍服を彷彿とさせるデザインだった。襟や袖にも細かな装飾が施されており、不思議と背筋が伸びるような気がした。


「着替え終わったことだし、今から私について来て。ここの最高責任者の学園長に挨拶しに行かないとね」


そういうと、ドラシルは扉を開き部屋の外へと出た。レイヤも慌ててドラシルを追うように部屋を出る。と、そこには長い廊下が続いており、天井には美しい細工が施された照明が下がっており、壁には画が飾られている。レイヤの想像する学園とは思えない、豪邸のような美しい道を物珍しそうに眺めながらも、レイヤはドラシルの隣に並び立った。



「さ、入って入って。学園長さんがお待ちだ」



ドラシルは急かすように、レイヤの背中を軽く押した。レイヤは戸惑いつつも、その大きな扉のドアノブを握る。開く音が鳴り、扉が開かれる。



「……おやおや、随分と早いお目覚めだったのですね。ようこそ天界へ、そしてこのヴァルファリアへ。──私はネルア・クレシィマ。この学園の学園長を務めています。お見知りおきを」



レイヤを出迎えたのは、優しい目付きでこちらを見つながら佇む老婆──というにはあまりにも若々しい印象の女性であった。レイヤの身にまとっている制服を模したようなドレスの上から、白いローブを肩にかけ、銀色のフレームをした眼鏡をかけていた。


「必要最低限のことは説明済みだよ。想定していたよりも事情の飲み込みも良いようだし、今のところ大きな問題は見られなかったよ」


「最初はどうなるかと思いましたが、貴女に任せて良かったみたいですね。彼を保護してきたあの時の貴女の表情、下心丸出しでしたからね」


「ふっ、そんなことある訳ないだろう?私は善良な美少女だよ?はしたない真似はしないのさ」


「そうですか。ではこれに映っているのは貴女ではないんですね?」


そう言ってネルアは手の平を上に向けると、モニターのような光が浮かび上がり、そこにはレイヤを背に抱えながら怪しい笑みを浮かべたドラシルの姿が映っていた。

ネルアが見せている光景にも驚きだが、自分を背に乗せたドラシルの、何とも形容しがたい不審者のような表情には軽く引いてしまった。


「わーーーーっ!?こ、これは違うんだレイヤ!そのぉ、えーっとぉ……ぅぅ、ネルア!!誰も見せてとは頼んでないだろう!?何を勝手に記録までしてるのさ!」


「ほほほ、私を甘く見すぎでしてよ?」


頬を赤らめ涙目で荒声を出すドラシル、それを横目にネルアは上品に口元を隠しながらからかうように笑っている。



ふと、ドラシルはよそにネルアはしばらく考え込むように深く目を瞑った。そして、目を開けるとレイヤに視界を移し、先程とは違う真剣な眼差しを送る。


「さて。レイヤさん、と言いましたか。確認をとるような言い方のようで申し訳ありませんが、これは私から直接あなたにお聴きし、直接貴方の返事をお聞かせ願いたいのです。ですので、ドラシルに変わりもう一度お尋ねします。──本当に、戦場へと出る覚悟はありますか」


ネルアの言葉に妙に心臓が締まるような感覚を覚えた。もう一度、自身の肉体を灼いた火炎が迸る戦場へと出向くのかと思うと、あの火を肉体が覚えていたのか恐怖が再びレイヤを襲う。


その恐怖が支配する暗黒の中、一筋の光が射し込む。レイヤを覆い尽くしていた恐怖が払われ、あの時の誓いを思い出し、拳を握る。



「俺は誰も死なせたくはないです。これから一緒に戦う天使の人たちも、敵の悪魔や堕天使だって命まで取りたくはないです。だから、どんな命でも救えるような、そんな戦士に俺はなります……!」



胸を張り、自分の意思を明瞭に告げた。悲劇を繰り返させない、そう誓いを立てたのだ。後悔など断じてない。ネルアは顔に皺を作り笑顔を浮かべると喜んだ表情で口を開いた。



「……聞くまでもありませんでしたね。あなたの覚悟、確かに受け取りました。これからのご活躍を楽しみにしていますよ」







「いやー、よかったよかった。これで挨拶も無事済んだし、君も晴れて戦士として第一歩を踏み出せたね!学園長も最初は気難しそうにしてたけど、なんか大丈夫そうだったし一件落着だ!」


「すごく若々しくて優しそうな人、って印象だったな」


「……ちなみに、学園長の前で年齢の話はしない方が見のためだよ。一度怒ったら、笑顔で致死量のとんでもない魔術を撃ってくるからなー。まあ、怒らせなければいいんだけど」


「ええ……」


あの優しそうな見た目で、容赦なく襲ってくるとはとても信じたくはなかった。あまりにも恐ろしかったので、レイヤは考えるのをやめた。とてもじゃないがトラウマになりかねない、そんな気がしたのだ。




「さ、お次は君のことについてじっくりみっちりと調べさせて貰おうかな……」



足を止め、くるりとレイヤの方を振り返ると頬を赤らめ妖しげに紅の瞳を爛々と輝かせていた。レイヤは嫌な予感しかしないと頭を抱え深くため息をついた。




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