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デマイズ・オブ・ワールド  作者: 雨兎
第二章 東奔北走
37/66

幕間 この妖狐、可愛いにつき

書きたくなったので。





これは東国アマノツキの襲撃から数日後の話。









「わぁ………!!おいしそうなものがいっぱいです!」



愛らしい獣の耳をぴんと逆立て、四方八方に目を輝かせているのは東国アマノツキの王女にしてレイヤの妹分、ヨーコだ。アマノツキの襲撃事件後、ヨーコの姉メイド、シスイに一緒にいてあげて欲しいと頼まれレイヤはヨーコと共に住むことになった。

それからというものの、ヨーコとは毎日のように外出を行っており、今日は街にある市場へと来ていた。



「お兄ちゃん、あれは何ですか?」


「あれはピザって言う食べ物で、トマトやチーズとかをのせて焼いたパンみたいなやつだよ。食うか?」


「その、いいんですか?迷惑じゃ………」


「迷惑とかそういうのは無し。俺はヨーコに楽しんで貰いたいだけなんだ。だからヨーコも今この時を楽しむことだけを考えてたらいい。せっかくのお出かけなんだ、楽しまないと損だからな」


「はい………!!」



レイヤとヨーコは店の前に並び立ったテラステーブル席に腰掛けながらピザを口に頬張っていた。


少々辛めのピザソースがぴりっと舌を刺激し、その辛みを口いっぱいに広がるたっぷりのチーズが程よく絡み合う。その後にくるトマトの酸味、歯ごたえ抜群のピザ生地とのベストマッチ。まさに格別なる美味しさであった。


「ヨーコ。ピザは美味しい?」


「はい!お城のごはんも美味しかったですけどこのピザって食べ物もすごく美味しいです!」


「そっか。気に入って貰えてよかったよ」



ピザを食べ終えた二人は足並みを揃えて再び店の並ぶ街道へと進んだ。



しばらくすると、前方からレイヤの名を呼ぶ声がした。呼び声の方へ目を向けると、そこにはレイヴ、ルベリア、ルウチスの三人が手を振っていた。


「奇遇だな、こんなところで会うなんて」


「隣に連れている子は………」


ルベリアがヨーコの方を眼鏡越しに覗き込む。ヨーコはぴょんっと三人の前に立つとにこやかな表情で自己紹介を始めた。



「皆さんはじめまして、コハク・ヨーコと言います。よろしくお願いします!」


「おう!よろしくな!」


「ああ、よろしく」


「………………………………」


と、先程から沈黙を保っているルウチスに異変が生じていることに気付く。俯き、体を震わせながら黙り込んでいて普段のルウチスとは明らかにおかしい。


「ルウチス?」


「ちょっとレイヤくん。こっちに来なさい」


様子を確かめるべく、レイヤはルウチスの肩に手を置こうとした瞬間、ルウチスはレイヤの手を握ると強ばった表情でレイヤと肩を組んだ。ヨーコとレイヴ、ルベリアは突然の出来事にきょとんとしている。




「どうしたんだよ、急に。今日のお前、いつもより変だぞ」



「………そんなことはどうでもいい。お前にはどうしても聞かなくちゃならねぇ」



「……………………?」



「あの美少女は誰だ」



「え?」



「あの超絶キュートで究極美少女のあの子は誰だって聞いてんだよぉぉぉぉぉぉ!!!!」



「はぁ!?」



「なんでお前の周りにはそんな女の子ばっかりいるんだよ!?俺の周りには一人たりとも寄ってこねぇのによぉぉ!!ドラシルちゃんの次はあの子に手ぇ出すのか!?あぁぁぁ?あんなちっさい女の子に手ぇ出しやがるのか?あぁぁぁぁぁ?このクソロリコンがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」



「何言ってんだお前!言ってる意味がさっぱりなんだよ!」



「うるせぇぇぇぇぇ!このロリコンめ、ドラシルちゃんが泣くぞぉ!!!」








──────ヴァルファリア、書斎室。











「へっくち。………………コーヒーでも淹れるか」















「おい、いい加減にしろって!周りにも迷惑だろ!」


ルウチスの暴走の中、ふとヨーコがルウチスの元へと歩み寄る。レイヤは止めようとしたが、ヨーコの思いがけない行動に止める声は出なかった。


ヨーコは叫ぶルウチスの袖を引っ張ると見上げるように。否、上目遣いで尋ねた。





「どうしてそんなにも辛そうな顔をしているの?」





その言葉にルウチスの動きはぴたりと止まった。





「どこか痛むのですか?それなら私がよしよししてあげます。だからそんなに辛そうな顔をしないで」





ルウチスは言われるがままにヨーコに頭を撫でられている。見ればルウチスの目には、涙が今にも溢れそうである。





「よしよし。うん、もうこれで大丈夫!またよしよしが必要な時は言ってくださいね!」






よしよしを終えたヨーコはレイヤの元に行き手を繋ぐと満足そうな笑みをこぼした。





ルウチスはその場に項垂れ、静かに涙を流している。レイヴとルベリアはルウチスの元に駆け寄り様子を伺っている。


「幼女って、素晴らしい……………………………」



「多分、元のルウチスに戻ったんじゃないか?」



「騒がせてしまって申し訳ない。この場は俺たちに任せて二人は行ってくれ。付き合わせてしまうのも妹さんには悪いからな」


「ありがとう、ルベリア。それじゃあまた教室でな」




その後三人と別れたレイヤとヨーコは、充実した市場での休日を過ごした。





それはもう、ゆるりゆるりと穏やかな一時であった。









─────しかし、その一時は突然にして破られる。














「ふぅ……………………」


寝室にひとり、レイヤは夜空を眺めながら今日の出来事を思い返していた。夜空のキャンバスに散らばる星々は、宝石の如く煌めいている。その中心には満月が佇み、柔らかな光を放っていた。


「ん…………?」


と、後ろの方で扉を叩く音がした。ヨーコが何か自分に用でもあるのだろうか。不思議に思いながら扉を開けると寝間着姿のヨーコが立っていた。何故か俯いており、普段と様子もどこかおかしい。



「どうしたんだ?何かあったのか?」



俯いたヨーコに声をかけると、ヨーコはその下がった顔を上げるとレイヤを上目遣いで見上げ小さな声で囁くように言った。



「何だか、変なんです。急に体が熱くなって、胸がきゅっと苦しくなって。…………そばに、居てもいいですか?」



ヨーコは切なそうな顔でこちらを見つめていた。顔は紅潮し、火照っているのがすぐに理解できた。生えている尻尾はぶんぶんと揺れており、ヨーコは恥じらうように口元を袖で隠す。


レイヤは思い出したかのように部屋の窓を見る。そこには夜空が広がり、満月が覗いていた。






そう、今宵は満月。

そして、それは二日前のこと。












王都へと戻る際、ヨーコとの同居の提案をシスイと話していた時だった。シスイは帰り際にレイヤに耳打ちをして別れを告げた。その時にシスイが発した言葉、その意味は全く理解できなかったが、自身の置かれている今の状況下を見てやっと理解した。



その言葉こそ──────、











『満月の夜に、ご期待くださいませ』












妖狐一族は高い魔力を身に宿しているとされている。

特に満月の夜にはその魔力も莫大化し、圧倒的な力を見せると言われている。


だが、その反面。魔力の上昇と共に────気の昂りも凄まじいと言う。制御が効きづらく、暴走することも珍しくないとのこと。



つまり、今のヨーコの状態は気の昂り(主にレイヤに対する)が強く表れているのである。






「え、えっと。……………とりあえず座ろうか」



してやられたと、深々にため息をついた。







「あの、ヨーコ?」



「…………………………はい」




「そのー、言いづらいんだけど…………」



レイヤは申し訳なさそうに尋ねる。レイヤは慣れない状況に混乱しつつも調子を保とうと必死だった。



今、レイヤの腕にみっちりと身を寄せるようにヨーコが抱きついているのだ。



身動きもあまり取れず、今のレイヤはただ座っていることしか出来なかった。鼻を擽るようにヨーコの髪の匂いが漂い、当たっている小さな胸からは心臓の鼓動が響いてくる。


この状況を打破する算段も思いつくことは無く、途方に暮れていた。





「…………………お兄ちゃん」



「…………………なに?」



「頭を撫でて貰っても、いいですか…………?」



「撫でれば、いいの、か………?」



戸惑いつつも、レイヤは優しくヨーコの頭を撫でた。

嬉しいのか獣耳をぴこぴこと揺らしている。


「……………お兄ちゃん」



「…………………はい」



「手を、貸してくれませんか……………?」



「手…………………?」



疑問に思いつつもレイヤはおずおずと手をヨーコに差し出した。ヨーコはレイヤの手を掴むと頬ずりして放さない。ヨーコの火照った柔らかい頬がふにふにと手に当たる。




「………………はみゅ」




「はみゅ?」




ヨーコはレイヤの指を口に咥え、甘噛みしている。あまりの出来事にレイヤも途方に暮れていた。


すると、突然ヨーコは顔を吐息がかかる距離まで寄せてきた。熱く溢れた吐息がヨーコの気の昂りを物語っている。治まるどころか、ますます勢いを増しておりもはや止まる兆しすら見えずにいた。




「お兄ちゃんは私のこと、好きですか…………?」




「…………………………………………え」




「……………………私のこと、好き?」




「………………………………………………………も、勿論」



無難な答えを言えたと、確信したその時。安堵は早かったと後悔した。




「それはただの好きですか?それとも……………大好き、ですか?」



ヨーコは恥じらいながらもレイヤを見つめる。この返答で、二人の仲を断ってしまう可能性もある。それにヨーコに嘘をつくことはしたくない。レイヤは素直な気持ちをそのままに告げた。






「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………大好き、です」



慣れない言葉に、さすがのレイヤも恥ずかしいあまり目線を逸らした。ヨーコは恥じらうように微笑むと、ヨーコもまたそのままの気持ちを告白する。






「──────────私も、大好きです」







ヨーコはレイヤに抱きつくとそのまますぐに眠りについた。レイヤはほっと一息をつくと自分のベッドに寝かせつけた。ヨーコはとても穏やかな顔つきで寝息をたてていた。









────────何気なく頭を撫でると、嬉しそうに微笑んだ気がした。








早朝。レイヤは手馴れた様子で朝ごはんを作っていた。すると、二階からどたどたと慌ただしい足音が天上から聴こえてきた。その後、階段からヨーコが顔を真っ赤に染め上げながらレイヤの元へ駆け寄ってきた。




「あ、あのっ!私、お兄ちゃんのベッドに寝てたんですけど!私、何も覚えてなくて!その………変なことやってませんよね?」



「え、ああ、うん。やってない、よ」




「よ、よかったぁ……。今日何だか変な夢を見ちゃって」



「夢…………………?」



「はい。何だかふわふわした夢で、その、私と……お兄ちゃんが………………はうぅ、や、やっぱり忘れてください!何でも!ないでーす!!」




ヨーコはあたふたと顔を赤くする。こうして無事に落ち着いたヨーコだったが次の満月の夜にはどうなるのか。もう二度と来て欲しくないと、レイヤは弱々しく願ったのだった。






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