第三十五話 悪夢の叫声
「おかーさんおかーさん。私お腹空いちゃった一」
「それじゃあお弁当を作って公園にでも行きましょうか。きっとお花も咲いて素敵だと思うの」
「やったあ!だったら私もお弁当作るの手伝う!」
「ふふ、張り切っちゃって。じゃあ手伝ってもらおうかな」
二人は仲睦まじくお弁当を作り終えると、村の外れにある公園に向かった。しばらくして軽い足取りで進んでいくと色鮮やかな花々が出迎えてくれた。緑が豊かで、色とりどりの花々が咲き誇りピクニックをするには最高の場所であった。
その後、二人は昼食を済ませると花に囲まれながら会話に耽っていた。
「それでね、お父さんったら張り切っちゃった拍子に夕食に使う材料を全部燃やしちゃったのよ?その時は二人揃って夕食抜きでお父さんしょんぼりしてたわ」
「ふふ、お父さんって本当はおっちょこちょいなんだねー!」
フェリシアは父の姿を思い浮かべながら笑う母、ミラを見つめる。同じ銀色の長髪に、同じ蒼色の瞳。フェリシアは母の笑った顔を見るのが好きだった。ふと見る度に母は笑った顔を見せてくれる。見ているだけで心が落ち着いて、そして幸せだった。嫋やかで、お淑やかで、いつも優しく笑いかけてくれる。フェリシアにとってそんな母親が自慢だった。
ミラはフェリシアに気付くと、「なぁに?」と首を傾げた。フェリシアはふと、思いついた事をそのまま母への問いに変える。
「お母さんはどうしてお父さんと結婚したの?」
フェリシアの問いにミラは少し動揺した表情を見せたがすぐに元の笑顔に戻ると、フェリシアの頭を優しく撫でながら語り始めた。
「最初はね、思いもよらなかったの。こんなこと本当にあるのかなーって。でも、本当で嬉しかった。この公園はね、お母さんとお父さんが初めて会った場所なの。最初に会った時は戸惑ってたけど、お互いに慣れてきて次第に仲良くなってね。それで先に好きになったのはお母さんの方なのよ」
頬を赤くして照れ笑いするミラにフェリシアは興味津々に目を輝かせる。ミラは照れ隠すように咳払いすると再び語り始めた。
「でもね、プロポーズしてくれたのはお父さんなの。こういうのは男から言うものだってね。お母さん、きっとお父さんのそういうところに惚れたのかなって」
「なんか今日のお母さん………いつもよりかわいいね」
「な、何言ってるのっ。………それから結婚して、あなたが生まれて。こんなにも幸せな毎日が送れるだなんて思ってもいなかった。あなたが生まれてきてくれた時、本当に嬉しかったわ。お父さんなんか泣いてたもの」
「お父さん、泣いてたの!?」
「ええ、そのくらい嬉しかったのよ。お父さんもお母さんもずっとあなたのことを愛しているわ」
「うん、私も」
それはそれは、本当に幸せだった。
「お父さん!」
夕暮れ時、家の扉から声と共に男が入ってくる。フェリシアはその男の名を口にし駆け寄ると、思いっきり飛びついた。飛びついてきた愛娘を抱きかかえるとフェリシアの父、リュエルは笑いかける。フェリシアやミラと違い、金色の短髪に赤く染まった瞳。二十代半ばといった印象で凛々しい顔つきの青年だ。
「ただいま、フェリシア。いい子で待っててくれたか?」
「うん!今日はね、お母さんと一緒に公園にお出かけしたの!それでね、お父さんのお話いっぱい聞いちゃった!」
「おいおい、何の話をしたんだ?」
「そうねー、話しすぎて忘れちゃった」
「お父さんが泣いた話とか!」
「恥ずかしいな……」
照れたリュエルを見てフェリシアとミラは笑うとそれにつられてリュエルも照れるように笑った。
家中に笑い声が響く。
その光景は誰が見ても幸福に満ち溢れていた。
そう、この時までは。




