第三十三話 密室少女
顔全体にひんやりと冷たい感触がする。息を吸おうとするが空気の気配を感じることは出来ない。息苦しくなり慌てて体をばたつかせてやっとそこから起き上がる。目を見開き、己の視界に入る光景にレイヤは唖然とした。
見渡す限り一面を飾る雪景色。人影はなくただ白の世界が続いている。目の前には遺跡が聳え立ち大きな口を開けていた。レイヤは立ち上がり遺跡を見上げるように見定めると深く、ふてぶてしくため息をつく。
「…………本当にやりやがったな、あいつ」
何の支度もなく飛ばされ、ほとんど軽装に近い状態で来てしまったレイヤ。もちろん神器の装備はなくあるとすれば寸前に手渡されたこの転移結晶のみだ。遺跡とはいえ何が潜んでいるか分からない以上、そう易々と足を踏み入れる訳にはいかなかった。
『もしもーし、うまくそちらには着いたかなー?』
「ドラシル………!?というかこの状況についていろいろ問い詰めたいんだが」
『ま、まあ、ほら無事に着いたわけだし、ね?うん、全くもって問題ない!』
「いきなり俺を飛ばしてる時点で問題だろ!」
『…………………………』
「おい、なんか言えよ」
『………それじゃあ今から物資の方を送るから待っててねー』
「無視かよ!!」
しばらくすると宙に魔法陣が描かれ、何やらたくさんの物資が輸送された。
『食料に防寒具、魔道具とそれから護身用の剣ね。ざっとこんな感じかな。他にいるものはあるかな』
「いや大丈夫。それじゃあ、行ってくる」
『うん、気をつけて。もし何かあればその転移結晶に私を念じてくれ。無事を祈っているよ』
ドラシルとの連絡を終えレイヤは天霊石探索へと向かった。
「………………思ったよりも暗くないな」
明かりを灯した魔道具を片手にレイヤは遺跡の中を順調に進んでいた。中は白い石が敷き詰まれたような造りで明かりを灯せば足元が明瞭な程でそう暗くはなかった。外よりかは暖かく不思議と落ち着く感覚さえ覚えていた。罠が張られている様子もなく緊張感は段々と消えていく中、着々と探索は進んだ。
探索を始めてどれほどの時間が経っただろうか。レイヤは見事なまでに迷宮へと迷い込んでいた。来た道を戻ってみたが入口には辿り着くことなく、幾度となく同じ道をさまよっていた。
「魔道具も急に使えなくなるし、参ったな………」
途方に暮れ、レイヤは壁を背もたれに腰掛けていた。どれだけ頭を捻らせてもこの状況を打破するような考えや技術は浮かばない、完全なる詰み状態に陥っていた。
と、唸り声をあげていたその時。寄りかかっていた背もたれが無くなりレイヤは壁の方を見る。そこにはぽっかりと穴が空き、暗黒が立ち込んでいる。何の抵抗も出来ないままレイヤは穴へと吸い込まれていった。
視界が黒に染まる中ひたすら落ちていく感覚だけが自身に見えない恐怖を与える。延々と落ちていく途中、唐突に地面に尻もちをつく。激しい痛みに悶えながら周りを見渡す。そこは白い壁に囲まれた石室で扉や窓は無く密室のようだった。松明には火が灯っておらず薄暗い雰囲気が漂っている。
そして、何よりも目を疑ったのが──────、
「あ、あなたは、誰…………………?」
密室に独り、少女が佇んでいた。




