第三十二話 いざ、北へ
「レイヤ、少し頼まれてくれないかい?」
放課後、ドラシルの書斎室へと呼ばれレイヤは部屋に置かれているソファに腰掛け出されたコーヒーを啜っていた。
「頼むって、何かあるのか………?」
コーヒーカップを片手にレイヤはドラシルに問う。ドラシルは古い本を手に持ち向かいのソファにへと腰を降ろす。ドラシルは本を開き挟んだしおりを机に置くとその開いたページを興味津々に見せ付けてきた。
「これを見てくれ。これは天霊石と言ってあらゆる邪気を祓うと言われている。多量の神聖な魔力を帯びていて、主に神器の生成に扱われている物だ。その天霊石が北国レグラセイムにある古代遺跡に眠っているという情報を得てね。それも高密度の魔力を帯びた代物だというんだ。そこで、君にレグラセイムの古代遺跡へと向かってもらい、天霊石を持ち帰ってきて欲しいんだ」
「………なんでそんなこと俺に頼んだ。自分で行った方が早いんじゃないのか?」
「まあね、でもそれでは面白味に欠けるだろう?どうせなら君に行ってもらった方が、面白くていいと思ったから君に頼んだんだ。言わばこれは師匠からの課題とでも思ってくれ!」
「滅茶苦茶だ…………。これが俺の師匠って思うと先が思いやられるなぁ」
「こんな可憐で素敵な師匠を持っているんだ。もっと誇りに思って欲しいな」
「…………そう思えるような心のゆとりが欲しいよ」
ため息をつきコーヒーで喉を潤す。ドラシルの申し出に少し無理を感じたが、レイヤは思うところがあった。
東国アマノツキ襲撃から約一週間。自身の無力さを感じ鍛錬に勤しんできた日々の成果を、ここで発揮したいと思ったのだ。努力の積み重ねが無駄ではなかったと、ヤヨイレイヤにはできるのだと証明したい。
何よりも、かけがえのない師であるドラシルには自分のいいところを見て欲しいのだ。力の可能性が無いに等しかった自分を、見限ることもせず期待してくれている恩師に応えてみせたい、そう思ったのだ。
「…………どうやって行けばいい?」
「うんうん、さすがは我が弟子。受けてくれると思っていたよ」
満足気に頷くと、ドラシルは一度ソファから離れ、書斎から何かを取り出すとまたこちらへと戻ってきた。
「これで行くんだよ」
そう行って手渡されたのは、青く透き通った石だった。カッティングが施されており、綺麗なダイヤのような形をしている。
「こんなので行けるのか………………?」
「これは転移結晶と言ってね、行きたい場所をその転移結晶に念じると念じた者の記憶に干渉し、持ち主をその場所へ転移させるという便利な道具だよ」
「…………」
「────というわけで、君には今から行って貰う」
「今から、か。…………………………は?今から?」
「そ、今から」
眩い光が視界を覆う。最後に見たのは、ドラシルのにっこりとした満面の笑み。
───────訂正しよう。
かけがえのない、ではなく。
こころない師であった。




