第三十一話 遠く、短な進路
数々の個性溢れた彼女たち────、
ミカエル、ウリエル、ラファエル、ガブリエル。
この神殿に来てからというもの大天使たちに翻弄され続けた挙句、来た目的も分からず困惑を抱いていた。
「………えー、こほん。まずはあなた達を呼んだ理由について説明しなければいけませんね。今回ここに招待したのは直接会話をしたいと思ったからです。此度の悪魔たちによる東国アマノツキ襲撃。突然の奇襲とはいえ、駆けつけることの出来なかった我々をお許しください。あなた達の尽力がなければ被害は拡大していたことでしょう。我々大天使に代わり悪魔たちと戦ってくれたこと、深く感謝を申し上げます」
彼女たちはそれぞれ玉座から起立すると深々と丁寧にお辞儀をした。頭を下げるミカエルたちをレイヤは黙って見つめていた。決して哀れみではないが彼女たちの気持ちはよく分かる。力になれない。これがどんなに辛いことか、何よりレイヤが一番知っていた。どれほど守る力を持っていてもそれが役に立たなければたとえ強い力であろうと意味が無い。彼女らがどんな思いで大天使として今ここに立っているのかは言うまでもないことだろう。
「…………俺に誰かを守る力なんてありません」
唐突な出来事にミカエルとウリエル、ラファエルは顔を上げレイヤの方を見やる。そしてそれに反応するかのようにガブリエルも目を覚まし眠たげな表情を向けた。レイヤは強く拳を握りしめると再び言葉を紡ぐ。
「誰かを守る力もなければ、自分の身すら守れない。死んでいった人たちも俺みたいに力を持つ人じゃなかったんだと思います。力を持たないからこそ、力を持つ人に助けを求めると思うんです。だから、どうかそんな人たちを助けてあげてください。俺にはそんな力を持ってない、あなた達にしか頼めないことなんです」
弱々しく言い放つ。自分では救えない、なれば他の者を頼るしか救える道はない。レイヤ自身が守る力を持つにしても時間がかかり過ぎるのは分かりきっている。これしか人々を救う方法が思いつかなかったのだ。
情けない。ただその感情がレイヤを押し潰す。力が無いからと他の者に頼る自分が本当に愚かしい。だが、この方法でしか人々を助けられない、それは紛れも無く事実であった。
「レイヤさんの思い、しかとお見受けしました。大天使の名にかけて命惜しまずとも救ってみせます。────ですが、あなたは一つ勘違いをしている」
レイヤはふっとミカエルの顔を見る。強く凛々しい眼差しがレイヤを射抜き、刮目させる。ミカエルはレイヤをじっと見離さず内に秘めた思いを口開く。
「襲撃の時、あなたは果敢に悪魔と対峙していたと聞いています。あなたのその勇気ある行動が少なからず人々を救ったのです。あの場にいた通りすがりの剣士もあなたがいなければ救えなかったと仰っています。あなたは決して無力ではありません。自身の弱さを認めるのは悪いことではありません。それをどう強みに変えていくかが大事なんです。あなたにはそれができる、あなたはきっと強くなれる」
そうだ。
その通りだ。
自分を責めるだけでいつも終わってしまっていた。
それが自身の無力という概念を執着させたのだ。
自分の弱さと見つめ合い、それを自分の武器にしてしまえばいい。こんな簡単なことにも気づけなかった自分が本当に泣けてくるくらい馬鹿らしい。
どうあれ、自分を変えるきっかけが見つかったのだ。悲嘆にくれている場合では無い。────前へと進まねば。
「…………できることから、頑張ってみます」
「はい、その意気です。ふふっ、ラクアはいい生徒をお持ちになりましたね」
「ええ、本当に。彼は強く、気高い意志を持っています。これからを通して彼の教養に専念していきたいと思います」
「へー、ラクアってばレイヤのことべた褒めじゃない。ラクアが言うんだから相当いい子なんだねー!」
「わ、わ、私も素敵だとお、思い、ますよ…………?ガブリエルちゃんもそう、思う、よね?」
「ふぁああ、悪くない……ぐぅ」
ガブリエルが再び寝静まり、周りには小さな笑い声たちが響いた。




