第二十九話 平穏は壁の向こう側に
「……………………はぁ、ちょっと休憩」
額の汗を拭い、その場に寝転ぶ。目を開くと高い天井が映る。と、その視界にもう二つの景色が映り出される。
「鍛錬お疲れ様です、お兄ちゃん。これ汗ふき用のタオルです。ひんやり冷たくしておきました」
「ありがとう、ヨーコ。あー、ちべたい」
「うんうん。レイヤもようやく動きが様になってきてるんじゃないかい?魔力の使い方も慣れてきたようだし私としては嬉しい成長だね」
東国アマノツキで起こった悪魔による襲撃事件。そこでレイヤは悪魔と対峙し自身の無力さを再確認した。帰ってきてからはリハビリも兼ねて日々ドラシルと共に戦闘を模した訓練を重ねている。これまでに神剣、神槍、神弓、神掌、神銃の五つの神器を手に取り実際に戦闘に近い訓練を行った。今日は六つの神器の中の一つ、神斧を用いての戦闘訓練だった。
「この神斧………だっけ?魔力である程度馴染んではいるけどやっぱ重いな」
「神斧は一撃が重い分、体への負担はそれ相応にかかる。使いこなすことが出来れば申し分ないがやはり適正がないと厳しいかな………」
「とりあえず全部試したけどあんまり実感無いんだよな」
「誰でも最初はそんなものだよ。神器に選ばれた者であってもその神器と馴染まなければ互いに反発し合い力を引き出せないからね。神器との魔力を同調し一心同体となることでその力を最大限に引き出すことができる。レイヤも神器と契約する日もそう遠くはないはずだよ。君は着実に成長している。これは私が断言しよう」
ドラシルの思わぬ高い評価にレイヤは堪らず顔を逸らす。謙遜するレイヤであるが確かに実感は湧いていた。数々の神器を扱う中で魔力の調整や管理など自らの意思で大分扱えるようにはなっていた。クオンからの恩恵もあるおかげで多少の魔力酷使はできるようになっている。レイヤは一度タオルをヨーコに預けると再び神斧を手に取り戦闘態勢をとる。ドラシルも神器を手に構えレイヤの出方を見ている。互いに見つめ合い空気が張り詰める。しびれを切らしたレイヤが踏み込もうとした瞬間、ふと声がかかる。三人は声のした方に顔を向けるとそこには黒を基調とした男性が立っていた。後ろに纏めた長髪を揺らしこちらに歩み寄る。そして、ラクアはレイヤの顔を真っ直ぐに見つめると思いもよらないことを口にした。
「レイヤ、──────大天使様がお呼びだ」




