第二話 戒めるは覚悟か恐れか
「……弟子って、どういうことですか」
最初に浮かんだ言葉はそれそのままであった。今、レイヤの頭の中では猛烈に混乱が起こっていた。
確実に死んだと悟った後すぐに、自身がまだ生きていることに驚愕し、自分が異世界──はたまた天界へと迷い込んでしまったことに驚異を隠せず唖然とし、その次にはこれである。全く物事の整理が追いつかず、今や悩乱一歩手前まできているところである。
「なぁに、そんなに不安な顔をすることなんてないさ。ちゃんと私が面倒をみてあげるとも。これでも私は面倒見の良さで評判がいいんだよ?」
「いや、そういうことではなく。なんで俺なんかを弟子にするんですか……」
「……三種族の争いの果て。未だ蟠りと因縁は残り続け、今も尚争いは続いている。種の安寧に、戦いは避けられない。即ち君を、戦士として育てあげるためさ」
「……戦、士」
不安気な顔で見つめるレイヤへ、ドラシルは続けた。両腕を高々に広げ、形のよい整った鼻で笑うと高らかに続ける。
「私たち天使は、度々悪魔と堕天使の襲撃に受けるたびに恐れることしか出来なかった。それに対抗すべく、戦士として天使たちを育てあげる施設こそがこの戦士学園ヴァルファリア。この天界を守る勇敢な戦士として育てあげる、それがこの施設の目的だ。君もその戦士になるために、この学園での生活を送ることになる」
その言葉に、レイヤは更なる不安を覚えると共に、心臓に杭が刺さるような痛みと、鎖で締め付けられるような苦しみがレイヤを襲った。
「戦士として戦場に出れば、命の保証はない。自分の命は自分で守るしかない、そういう世界だ。その戦士達がいなければ天界は破滅する………それを防ぐには自分達が命を差し出してでも戦わなければいけないんだよ」
「俺は……」
戦うことに恐怖はあった。再び、この身が灼かれ死ぬかもしれない。脳裏に焼き付いた記憶が、この身を呪縛へと追い込む。あの死が、再びこの身体を蝕むのであれば、とても絶えることは出来ないであろう。
──しかし、ふと蘇る記憶があった。
あの時のことをはっきりとは覚えていない。だがしかし、ひとつだけ鮮明に覚えていることがあった。
────あの子の人生が、自分のような悲劇に見舞われないようにと願ったから。小さな命を、目の前に救える命があるなら守りたいと思ったから。
もしこの世界でも、同じようなことが起きているのであれば、それは絶対に嫌だ。救いたい、そう心が叫んでいた。
「──俺、やります。人の身でうまくいくかわかんないけど。手が届くのなら、その手が掴めるのなら、俺は何度だって手を差し伸べたい。目の前に救える命があるのに、何もしないで見捨てることはしたくない」
「……うむ。やはり君を弟子に選んだ甲斐があったな。これからビシバシ鍛えていくから、覚悟しておくんだよ?」
「はいっ。……えーっと、ドラシル師匠?」
「そこまで畏まらなくてもいいよ、硬っ苦しいのは苦手でね。呼び捨ててもらって構わないさ。なんなら、ちゃん付けでもいいよ?」
「じゃあドラシルで」
「……やっぱり師匠を付けなさい」
何かが気に食わなかったのか、ドラシルはジト目でこちらに指をさしながら、ぼそりとレイヤに呟く。
しかし、レイヤから『師匠』と呼ばれる日が来ることはなかった。