第二十八話 最弱と最強による凱旋
────退魔の輝きが悪の者をこと如く滅する。
ラクアの刀は未だにアスモデウスの内を焼き焦がしている。痛みに悶え小声ながら苦しそうな声を漏らす。腕は脆いガラス細工のように砕け散っていき、ヒビは徐々に身体を覆い尽くしていく。ラクアはとどめを刺すように柄に力を入れ魔力を込める。輝きは増しムシュルの身体に激しく亀裂が入る。
「お前たち悪魔にやるような慈悲はない。自らの過ちを地の獄で悔いるといい」
ラクアが冷淡に告げる。アスモデウスは亀裂の入った体を無理やり行使しラクアの顔を見やる。愛らしい顔つきも流血により酷く荒れ果てていた。しかし、驚いたのはもっと別の理由で何故か小気味悪い悪寒が背筋を凍らせた。
頬を紅潮させ、嫣然の笑みを浮かべている。
不意に力が拡散し瞬間的に緩む。その刹那をアスモデウスは見逃さず咄嗟に神剣を呼び出し片方の腕で刀を斬り弾いた。ラクアは逃さんと一閃を放つがアスモデウスの神剣によって受け止められる。血と共に興奮した熱い吐息が溢れ出る。アスモデウスは喜々とした表情で愛でるような甘い声をかける。
「あなたみたいな素敵な人がいるなんて知らなかった。レイヤくん程ではないけど、とってもかっこよかったよ。あぁ、これほどの愛を感じたのは久しぶりだったなぁ…………………」
「戯言は済んだか。なら早々に逝ったらどうだ」
「ううん、あなたとはまた会いたいもの。また必ず会いましょう」
そう言い残した瞬間、手品のように一瞬にして消え去った。暗がりの部屋の闇に光が射し込む。ラクアは刀の血を振って飛ばし鞘に収める。キン、と心地よい音を立てた後神剣は光の粒子となり空を舞った。壁は崩れ大きな穴が空いている。そこから見えるアマノツキの風景を目の当たりにし、ラクアは空いた大穴と同じくらい大きなため息をついた。
「──────まだ、未熟だな」
「おーい!レイヤー!おーい!!!」
あの後レイヤとヨーコ、シスイは避難所を後にし停泊する宿に向かった。そして今、レイヴとそのクラスメイト達に出迎えられている真っ最中だ。レイヤたちを囲むように駆け寄って来ると皆は揃って安堵の笑顔を見せた。
「急に居なくなったから心配したぞお前!でも、無事に戻ってきて安心したぜ」
「あぁ、レイヴの言う通りだ。クラスの誰一人として欠けることは委員として見過ごせないからな。とにかく無事で良かったよ」
「はぁー、ほんとびびったぜ。居なくなった時、めちゃくちゃ焦ったもんな。けどルウチスが心配してソワソワしてたのは以外だったけどな!」
「お、おれはただその………だぁっー!恥ずいからやめろばーか!心配して何が悪いんだよ!」
レイヴにルベリア、ルウチス。クラスの皆の笑い声が辺りに響く。レイヤもレイヴ達に釣られて堪えきれずに笑った。
今、この一時の幸せを噛み締める。皆が笑い共に楽しい時間を共有する。もちろんそれが楽しいことだけではない。悲しいことも、辛いことも、それぞれ皆で共有していく。共に手を取り合い、支え合う。それが仲間として当然の行いだ。──────だからレイヤは戦う。この幸せな時を、大切な者たちを守るために。




