第二十七話 死闘の果てに得たもの
次々に紫地味た鮮血の花が飾られていく。空に散っていた小悪魔たちは瞬く間に肉片へと変えられる。色艶やかな金髪が揺れると共に刀が振るわれる。周囲一面を覆っていた小悪魔の群れは一人の剣士によって葬られた。
「ふぅ、ざっとこんなもんかしら!あ、あなた怪我は大丈夫?よかったら担いで行くけど?」
「だ、大丈夫です。なんとか歩けますので。それよりも他に怪我をしてる人を助けてあげてください」
「……………あなたがそう言うならそうするわ。ここからまっすぐ行くと噴水広場があるの。そこが避難所になってるからあなたもそこに向かうといいわ。それじゃあなたも気をつけて!」
「ま、待ってください!」
駆け出そうとした背中に待てと声をあげる。驚きの表情で彼女はこちらに顔を向けた。レイヤは腹に力を入れその思いを言葉にへと変える。
「─────助けてくれてありがとうございました」
──────どんな些細なことでも、感謝の心と礼は忘れてはいけない。
よく姉の輝夜が口うるさく言っていた言葉だ。最初の頃はあまり言葉の意味を理解することが出来なかった。それも人に対する感謝を感じたことがなかったからだ。人への思いやりが、感情が、心が。その頃のレイヤには消えかかっていた。遠く望んだ平穏が、灼熱と共に消えていくその様をその目に焼き付けたあの日からレイヤの感情は無へと朽ち果てていった。それでもそんなレイヤに輝夜は絶えず笑顔で振舞っていた。レイヤにとって輝夜はあまりにも眩しい存在だったのだ。その柔らかな光はレイヤの鎖された心を徐々に溶かしていき、人生を明るく導いてくれた。そしてその言葉の意味を理解した時には泣き出してしまいそうなぐらいに姉へに対する感謝の思いでいっぱいになった。どんな理由であれ自分を救ってくれた恩人への感謝は絶対に忘れまいと心に決めたのであった。
剣士はパッとにこやかな表情に変わりくるりとターンを描くように後ろを振り返る。
「当たり前のことをしたまでよ。助け合っていくのが人間ってもんでしょ?」
人差し指を立て可愛くウインクを残すとそれではと手を振りながら駆けて行った。と、思ったが再びレイヤのところに舞い戻って来る。予想外の行動にレイヤも思わず困惑の表情を見せる。「忘れてた!」と可愛く舌を出すとレイヤの目を真っ直ぐに見つめ彼女の翡翠色の瞳と合い重なる。
「私の名前は近藤勇。さすらいの放浪剣士ってところかしら?ともかくよろしくね!」
「近藤勇…………………」
彼女の名に何処か違和感を感じたが深く考えはしなかった。霧がかった謎の違和感に少し疑問を感じるが今はヨーコ達との再会を果たすべく二人は噴水広場に向かった。
近藤とレイヤの二人は噴水広場に到着した。そこにはたくさんの逃げ延びた人々が身を寄せ合いながら集まっていた。苦痛に悶え自らの手で傷を抑え込む人。身体の不自由な老体もいればどこからか子供の啜り泣く声もする。惨状を目にレイヤは悪魔達の所業に静かな怒りを燃やす。と、こちらに駆け寄る音がした。確認のため音の方へと体を向ける、と同時にレイヤはその場に押し倒される。
「っいたぁ、!?な、なんだ…………!?」
見るとレイヤに抱きついていたのはヨーコだった。ヨーコは顔をレイヤの胸に埋め無言のままレイヤを抱いている。
「ヨーコ………………?」
ヨーコの沈黙にレイヤは名を呼びかける。すると弱々しい泣き声と同時に制服越しに温かい熱が伝わってきた。
「生きてて、くれた。帰ってきてくれた。っぐ、お兄ちゃん、お兄ぃちゃん、お兄ぃ、ちゃん……………!!」
それは本当に弱々しかった。かすり泣くか細い声は、小鳥の囀りよりも弱く、小さかった。それでもレイヤにとってこれが最優の安堵であった。
────そして、かける言葉はもう決まっている。
「───────ただいま、ヨーコ」
「はい。おかえりなさい──────お兄ちゃん」




