第二十六話 正義こそ我が誠なり
周囲に漂う焼け焦げた人肉の香りが鼻の奥底まで刺激する。目の前に広がる光景────否、地獄そのものがレイヤの前に姿を晒していた。
「なんだよ、これ………………」
悲鳴をあげながら必死に逃げる人々、その上空には何百もの群れた小悪魔たちが飛び交い下劣極まりない高笑いを響かせていた。頭部には曲がった双角、血の如き染まった皮膚に黒い翼、鳥の様なくちばしが付いており不気味にも鋭い歯がずらりと揃っていた。反しの付いた三叉の矛を持ちその姿はまるで西洋におけるガーゴイルそのものであった。小悪魔たちは矛を振るい次々と鮮血が宙を舞う。─────目の前で、人が、死んで逝く。
「……………………やめろ、やめろ、やめろぉぉぉ!!!」
怒号の叫びと共にレイヤは鞘から剣を抜き小悪魔の元へと飛び出す。全身の痛みに構うより先に小悪魔たちへの憎悪と怒りがレイヤの頭を塗り変える。踏み込み、跳躍、小悪魔目掛けて渾身の一振りを放つ。が、余裕じみた表情で小悪魔は一撃を躱しお返しに矛による刺突がレイヤの左腕を抉る。
「っがぁ……………………?、!!!」
思わぬ激痛と共に受け身すらとれずレイヤは地面と激突する。それを見た小悪魔は嘲笑のようにギャアギャアと不快な笑い声を出してレイヤを見下ろしている。
腕は砕かれ全身の痛みが再び蘇る。立ち上がろうと必死に力を込めるがレイヤの身体は動かない。剣を片手に持っていることだけでも十分にレイヤの身体を苦しめていた。
「ここで倒れたら、駄目、だろうがっ……………」
そう自分に言い聞かせ何度も立ち上がろうと試みる。だがどれだけ力を込めたとしても結果は変わらない。自分の帰りを待つ者がいる。断じて倒れる訳にはいかない。その一心で、レイヤは尚も壊れた身体を起こす。しかしレイヤの身体が起き上がるのを悠長に待つ小悪魔ではなかった。その矛先を胴体に刺し向け高く飛び上がると小悪魔は急降下し突貫してきた。ぐんぐんと近づく脅威にレイヤは思わず目を瞑った。胴体を貫かれる。今度こそレイヤの身体は完全なる破壊を迎える。そう、思っていた。
「────もう大丈夫。後はお姉さんに任せなさい!」
痛みではなく、声がした。溌剌とした、活力のある女性の声音。恐る恐る目を開くとそこには────誠の文字が風と共に靡いていた。
「新撰組局長────近藤勇、御用改めである」




