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デマイズ・オブ・ワールド  作者: 雨兎
第二章 東奔北走
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第二十二話 姉妹


あまりにも純粋で、無垢な少女の微笑みにレイヤは涙を流していた。何かから解放されたかのような安堵が全身を包み込む。



「…………なんで、止まらない。俺、なん、で、泣いてるんだよ……、なんで、なんで、なん、で…………っ」



どれだけ拭っても、涙が止まらない。誰かの前で泣くなんてしてこなかったのに。絶対に泣く姿を見せないと決めたのに。────泣かないと、約束したのに。




「………………っづ、な、んでっ、おれ、泣いてんだよ……。泣く理由なんて、ないのに…………っ」


「理由なんて要りません。泣きたいから泣く、それでいいじゃないですか」



泣き続けるレイヤの顔がふいに暖かい感触に包まれる。その小さな身体で自分よりも大きいレイヤをヨーコが優しく抱きしめている。その熱が────心の氷結を溶かしていく。








「だから安心して泣いてください。どんな時でも───私が慰めてあげますから」

















「………本当ごめん」


「いいんです。私が望んでやったことですし別に気にすることではありません」


「いやでも、なんというか、その……………」


「あんなに泣いたあとでお兄ちゃん呼ばわりされるのはあまりにもキツい……って感じですか?」


「あの、心を読むのやめてくれません?精神的にもうきてるので」


シスイが心を読むのにレイヤは力なく悲鳴をあげる。悪びれた様子もなく悪戯っぽく微笑みを浮かべるシスイは思い出したかのように声を漏らすとレイヤに向かってスカートの端を摘んで丁寧に頭を垂れた。



「今更ながらご無礼を。私は狐楽城のメイドを務めております、コハク・シスイと申します。以後、よしなに」


「は、はい。…………ん?コハクって……」


「……はい、私とヨーコお嬢様は────姉妹です」




「……でもどうしてヨーコが国王なんだ?同じ王家の血を引く者だったらシスイが────」


「──────私が、力を持たずして生まれたからです」


レイヤの言葉を遮りシスイが単調に告げる。今までの雰囲気とは違い自身を忌むような気が漂っていた。それに対しヨーコはそっと俯き、どこか悲しげな表情をしている。



「…………私たち一族は妖狐の力を以て長きにわたり繁栄を重ねこの国を築いてきました。その力は代々ご先祖さまたちが受け継いできたものなのです。王族に生まれた者はその力を親から授かりそれをまた子へと授ける、これを繰り返し行い妖狐の力は受け継がれてきました。でも───────私は違ったのです」



シスイはそれを明瞭に告げ、自分の掌を曇った瞳で見つめていた。それはまるで愚かな自分の存在を呪うかのように、自己嫌悪の念に満ち溢れていた。



「私は妖狐の力を受け継ぐ事無く生まれ落ちたのです。力を持っていないと分かるとすぐに両親から忌み嫌われ、私は殺されることになりました」


「なんでそんなこと…………っ!」


「………………私という存在をなかったことにしたかったのでしょう。火にかけられ私はそこで本来死んでいました。でも、そんな私を庇い助けてくれたのが───妹でした」


静かに語るシスイは妹であるヨーコの方へと目を向けた。それも悲しげでその曇った瞳からは自身の過ちを嘆くような、そんな感情が映し出されていた。


「ヨーコは歴代でも強い力を持って生まれた子だったのですぐに王の座へと即位しました。助けられた私はこの子の言いつけでメイドとして辛うじて城に残りました。そうして私は城に仕える従者として今に至ります」


「………………俺が野暮だった。本当にごめん」


「いいんですよ。貴方に話しておくべきだと私が判断しただけですので」


自分が失言であったことに無性に罪悪感が襲う。辛い思いは誰よりも自分自身が知っているはずなのに。笑顔が絶えないシスイも、過去の自分を思い出さないためにそう振る舞っているのではないかと思う度に全身が刃物で突き刺されたような罪悪感に襲われる。



「…………シスイ、やっぱり私───」


「─────大丈夫ですよ」



ヨーコがシスイに何かを言おうとしたがそれをシスイが自身の言葉で塞ぐ。今にも泣き出しそうな顔でヨーコがシスイを見上げる。シスイはヨーコの視線に合わせるように身を屈み、頭を優しく撫でる。そして愛でるように笑いかけるとシスイは最も優しい声で自身の妹に言葉を贈る。



「私はあなたにいつでも笑って過ごして欲しい。あなたに楽しく生きて欲しい。あなたに幸せになって欲しい。これが私の、─────あなたの姉としての心からの願いなの。私はあなたが幸せになってくれるならそれ以上は要らない。ただそれだけが私の願いよ」


「────お姉、ちゃん、っ、お姉ちゃん………!!」



姉の胸に抱きより声を上げ、泣きじゃくる。そんな妹の身体をそっと抱きしめ瞳から涙を零す。どんなに時を浪費したとしてもこの一時が、壊れる事無く続けばいいなと心からそう願った。





「────姉妹揃って仲がいいね。素敵、素敵ね。だからね、二人で逝けばずっと仲良しのままでもっと素敵だと思わない?」






──────その願いも独りの影によって霧散する。






「──────会いに来たよ、レイヤくん」











狂気なる刃が、レイヤ達に迫っていた。







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