第十七話 時の道しるべ
重たい瞼を持ち上げ開眼、そこには知らない天井が映った。億劫の眠りから覚醒しレイヤはベッドに横たわる身体を無理やりにも起こす。視覚、嗅覚、触覚、聴覚が機能していることを確認し、ようやく自身が生きていることに気付く。身体の隅々まで蹂躙していた傷も何事もなかったのように消えている。
「殺されて、でも……………」
生きている、そう認識せざるを得なかった。心臓の脈打つ鼓動が全身に響きわたる様をこの身で感じる。血液と共に魔力の流れ満ちているのも身をもって知ることが出来た。身に起きる様々な異変にレイヤは混乱し途方に暮れている時だった。
「────お目覚めかしら、人間くん?」
────それは天上の音楽にも勝るまさに極上の響きであった。
振り向くとそこには少女の姿があった。愛らしくも凛々しい整った顔立ち、まるで宝石がはめ込まれているかのような煌めく紫紺の瞳。前髪で片目が隠れているものの、隙間から覗かせる瞳がなんとも映える。肩まで伸ばした、透き通るような白髪を揺らし、少女はこちらを見据えていた。
「君は……?」
レイヤの問いに、少女はよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに、ふふんと鼻で笑い少し恥じらいの混じった表情を浮かべ、その口を開いた。
「私はクオン。クオン・ディスティエル。この世界の時間を司る神よ!」
「…………はぁ」
「え、ええっ!?なんで驚かないの!?どうしてそんなに反応薄いの!?普通、人間ならもう少し驚きなさいよ!」
「いや、そんなこと言われても…………」
時間をも司る神、クオンは床にがくりと座り込むと、顔を真っ赤に火照らせその顔を見られまいと必死に両手で覆い隠していた。目の前で起きていることに少し戸惑いを抱きつつも、レイヤは冷静になると単刀直入に聞き出す。
「聞きたいことばっかりなんだけど、まず一つ目。どうして俺は生きてる」
レイヤはあの時突如として暗黒空間へと転移しそこで歪みきった狂愛に殺された。────アスモデウス、大罪の悪魔と名乗りその狂おしいほどの愛でレイヤを殺した殺戮者である。レイヤは確かに彼女に殺された。しかし、その事実は跡形もなく消えている。
────それはまるで、その出来事がなかったかのように。
「君の時を戻したのよ。私の力を使ってね」




