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デマイズ・オブ・ワールド  作者: 雨兎
第二章 東奔北走
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第十五話 愛毒


「いやー、今日はよく遊んだなー!」


「疲れた…………」


レイヤたちは都心にある城下町で観光した後、旅館へと戻り疲れを癒している真っ最中であった。レイヤも旅行を楽しんだのは久しく、とても満足していた。転生する前、姉と妹と三人で暮らしていた頃。三人で温泉旅館にへと旅行へ行ったことがあった。家は姉のカグヤ一人で家計を支えていたため、決して裕福な家庭とはお世辞にも言うことは出来なかった。それでも姉は絶対に笑顔を絶やすことなく、弱味を見せることなく、レイヤたちと振舞っていた。そんな二人に思い出を残してあげたいと姉は無理をしてでも記憶に残る最高の思い出を作ってくれた。そのことを思い出しながらレイヤは今日という一日を噛み締めて楽しんだのであった。



「そろそろ風呂に入りに行きたいな……」


レイヤはそう呟くと待ち望んでいたかのようにルウチスが方を組んで来た。ルウチスは深刻な表情を浮かべレイヤの顔を見つめた。


「レイヤ、俺はお前を見込んで話がある」


レイヤは何事かと息を飲んだ。するとルウチスも深く息を吸うと真剣な眼差しをこちらに向け凛々しい表情で言い放った。



「────お前は、女子風呂に興味はないか」



「は?」



聞き間違えたのだろう、そうレイヤは思った。思いたかった。とても嫌な予感がする。ルウチスは深く目を瞑り静かに鼻で笑うと熱烈に、しかし穏やかに語り始めた。この人は一体誰だろう。



「女子風呂ってのはな、男のロマンが詰まりに詰まった楽園なんだ。あの触れられそうで触れられない、そのお預け感を装いながら見るアレはたまらなく素晴らしいものだと俺は思うぜ」


ルウチスと思われる少年はまるで演説のように熱く語っている。レイヤはそれを無視して男子浴場へと向かった。浴場に向かうためレイヤは廊下を渡っていた。足を踏み込む度に床がぎし、ぎし、と音を立てる。縁側に出ると庭園の宵闇に照り輝く満月が池に映し出されていた。夜風がざわつくように吹いた。





──────そして、黒い影は立っていた。







「────あ、目が覚めたね。ぐっすり眠ってたね。ふふ、レイヤくんの寝顔とっても可愛かったよ」



覚めると、暗がりの中から囁くような声が聞こえた。

そして直ぐにここが旅館でないことに気付く。辺りを見回すもどこも暗黒に満ちており自信が何処に居るかは確認することが出来なかった。



「ねぇ、私のこと覚えてる?」



唐突に背後から囁かれレイヤは咄嗟に背後を振り向き警戒態勢をとった。しかし、その容姿が映し出された瞬間直ぐに崩れ去った。黒髪に猫の耳を生やし、髪と同じ黒い尾を揺らし青の瞳を揺らめかせ少女はこちらを上目遣いで見つめていた。学園の廊下で出会ったあの時の少女が今ここに、目の前に立っている。


「き、君は……………、あの時の………………」


「覚えててくれたんだね。私、嬉しい。あなたの記憶に残されているだけで嬉しい。私、レイヤくんとお友達になりたいの。お友達になってたくさんレイヤくんといたいの。ねえレイヤくん、私とお友達になって?私と一緒に行きましょう?私はあなたのことが好きすぎて死にそうなの。今にも私、死にそうなの。ねえ、私と一緒にいて?」



それは理解の出来ない愛の呪いであった。何故に彼女はレイヤに執着するのか。おぞましいまでの呪言に狂いそうになる。レイヤは頭を落ち着かせこの状況を打破すべく猛烈に考えを巡らせた。しかし考えが浮かぶ間もないまま、少女は暗黒より凶刃を取り出した。禍々しく、邪悪な刃がレイヤを映し出す。狂気に充ちた神剣を手に持つと少女は頬を紅に染め熱く、とろけるような吐息をこぼすと矢の如き速さで斬りつけて来た。レイヤは間一髪直撃を避けたものの、腕に切り傷を負ってしまった。



「どうして避けちゃうの、私はレイヤくんと一緒にいたいだけなのに」


「………………っ、それで斬りつけて来るっておかしいだろ。お前はどうして俺を拐った。何が目的なんだ」


「私はレイヤくんと一緒にいたいだけ。ただそれだけだよ」


「……………埒が明かない。ともかく帰してくれるなら仲間たちには何も言わない。だから早く帰─────」








─────どくりと、蝕む音がした。






刹那、身体は崩れ倒れてしまった。身体を巡る魔力が一瞬にして皆無となり、循環する血液が凍結するような感覚を得た。ありとあらゆる生きる術を奪われたようだった。



「私を置いて行かないで。どこにも行かないで。私にはレイヤくんが居ないと死んじゃうの。レイヤくんを愛していないと死んじゃうの。だからずっと私のそばに居て。ずっと、ずっと、ずっと、ずっとね」




少女はレイヤの顔を見つめ、愛でるように告白した。彼女の愛は到底理解することが出来なかった。歪みきった狂愛、それはレイヤの心と身体を蝕むように取り憑いた。




「…………っ、お、前は、悪魔か、それと、も、堕、天使か」





レイヤは毒に侵されながらも、力を振り絞り声を喘ぐように出した。悪魔か堕天使か、いずれにせよ敵であることは変わらない。聞き出し、ドラシル達に伝えねばとレイヤは決心していた。ここで終わってしまってはいけない。こんなにも呆気なく終わってしまってはいけない。心に誓った約束を果たすまでは決して終わってしまってはいけない。そう自身に言い聞かせながらレイヤは必死に生き足掻いていた。レイヤの質問に興奮を覚えたかのように頬を染めると彼女は細く白い指を艶やかな唇に押し当てその名を口にした。




「────アスモデウス。艶然たる『色欲』の大罪を司りし大悪魔」




その名を聞いたと同時に、腹部に熱い痛みが走った。




「────っがはぁ…………………!?」




叫ばずにはいられない。だが、声は出てくれない。アスモデウスの神剣がレイヤの腹を裂いている。焼けつくような痛みがレイヤを襲う。逃げなければ、ここで死んでしまう。レイヤは必死の形相で逃げようとした。だが思うように身体が言うことを聞かない、身体は動く度に死んでいく。すると、いつの間にかアスモデウスはレイヤの傍に寄り添い熱く吐息をこぼしている。アスモデウスはレイヤの頭を優しく抱きかかえると顔を自身のふくよかな胸に踞せた。



「聞こえる…………?私の胸の高鳴り。レイヤくんのことを考えてるだけでこんなにもどきどきしちゃうの。こうやってレイヤくんと触れ合ってるだけでも私は幸せだよ。だからね、もっと私にレイヤくんの素敵なところを見せて欲しいの」


胸部に凶刃が抉るように入り込んでくる。吐血し、呼吸が疎かになる。全身に痛みが牙をむき、蝕まれていく体は更なる崩壊へと進んで行く。



「レイヤくんの血、温かいね。いいよ、私をレイヤくんの血で紅く染め上げて」















──────どれほどの時が過ぎただろうか。





腕は千切れ、皮膚は剥がれ骨が顕となっている。全身は裂傷、刺傷に蹂躙され、鮮血人形と化していた。



もう、何も感じない。痛みも苦しみも、肌の温もりさえも感じない。ただ、彼女の愛しい顔が映るだけ。



死にたい。今すぐにでも楽になりたい。だが、どう足掻こうとも生かされ続ける。────では、心を許してしまえばいい。そうすれば幾分楽であろう。









──────レイヤの中で何かが砕ける音がした。








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