第十四話 生い茂る苦難
レイヤたちはアヅモと名乗った男に案内され停泊する旅館の中へと入った。
扉はどこも障子や襖になっており、床は畳が敷かれていたりと、どこも和風を感じさせる造りになっていた。
「皆様お集まり頂けましたでしょうか。早速ではありますが、これより私アヅモが皆様をアマノツキの案内役を務めさせて頂きます。それでは、あちらに見えます風馬車へとお乗りください」
レイヤたちは一度荷物を宿へ置いて再び外へ出ると、そこにはまたもや見慣れない光景が視界に入る。
銀色に輝く甲冑を全身に身につけ、堂々とした雰囲気でこちらを見つめる生き物の姿があった。
風馬車──アヅモがそう呼んだそれは、これまた奇抜な風貌であった。
車体の見た目に関しては多少造りが違う程度だが、それを牽引している生物が一変しているのである。
レイヤたちがアマノツキへ訪れるために搭乗した翼馬車を引いていた翼馬は、大きな翼と穏やかでしなやかな美しさ、気品に溢れていた印象だった。
それに対して風馬車を引く風馬は、引き締まった筋肉質な体型に勇ましい顔立ちをしている。何より、レイヤの知っている馬とは明らかに違う点があった。通常の馬は四本の脚で四足歩行に対し、風馬は脚が八本も付いているのである。
顔つきは翼馬と酷似しているものの、欠伸をした際に見えた鋭い牙や、龍の尾を生やしていたりと見た目は程遠いほど似てつかない。そんな風馬を物珍しそうに観察していると、それに気付いたかのようにアヅモが歩み寄る。
「風馬を見るのは初めてでしたか?」
「翼馬もそれなりに驚いたんですけど……こっちも負けず劣らずの見た目してますね」
「風馬は頭の賢さや魔力の扱いに関しては翼馬に劣りますが、筋力や走行能力に関しては群を抜いて勝ります。見た目は少し強面ですが、気は穏やかで弱った生き物や人々を庇い守り抜くなど勇敢な一面もあるんですよ」
「へぇ……お前、見た目以上にすごいんだな」
意外な一面を知ったレイヤは、風馬の横顔を撫でるように手を伸ばすと、風馬はそれを嬉しそうに受け入れる。ご機嫌に喉を鳴らす風馬と少しの間戯れたあと、レイヤたちはアヅモに車内へと誘導された後、旅館を離れると共に都心内部へと向かった。
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「皆様ご注目ください。あちらに見えますのがこの東国アマノツキの王女で在らせられるヨーコ様がお住いになられているこの国のシンボル、狐楽城にございます」
アヅモが窓の向こうを指すとそこには巨大な城塞が聳えていた。その造りはもはや日本の天守閣そのものであった。隅から隅まで黄金が施されておりとても煌びやかで神々しい出で立ちであった。
その後、レイヤたちは都心へと到着しそれぞれの目的地へと皆は一時解散となった。レイヤとレイヴは仲間達と別れると先に昼食をとるためにどこか良い場所がないか探し歩いていた。
「うーん、どっか開けた場所ないのか?どこも建物ばっかだしよー、これじゃオレら迷子になるのも時間の問題だぜ?」
「と言ってもなぁ…………………」
見渡す限り人と建物ばかりで開けた場所など見つけるにはとても厳しかった。それに見知らぬ地で迂闊に動いて迷子など何としても回避したい。そんな途方に暮れる二人の前に一人の男がやってきた。
「おや、お二人共どうやらお困りのようだ。何か私に出来ることがあればお手伝いしますよ」
そう優しく声をかけてきたのはアヅモであった。確かに今は困り果てているところだ、彼の力を借りるしかこの状況を打破する方法はない。
「今、昼食をとろうと思っていたんですけどなかなか良い場所が見つからなくて…………」
「でしたら私がとっておきの場所を知っています。良ければ私がご一緒し案内しましょう」
「やったなレイヤ!それじゃあアヅモさんお願いします!」
アヅモは優しく微笑むと二人を案内した。そして連れてこられたのは都心の少し外れで都心を一望出来る芝生広場であった。都心とは一変、木々が生い茂り自然豊かな広場になっていた。
「ここであればゆっくり落ち着いて食事をとることができるでしょう。アマノツキの風景とご一緒に楽しまれていって下さると幸いです」
「こんな自然が広がる場所もあったんですね……」
「ここは私のお気に入りの場所でしてね。よく悩み事があると此処へ来て心を落ち着かせているんです」
「アヅモさんにも悩み事とかあるんですね。てっきりそういう事とは無縁かと…………」
「恥ずかしい話です。まだ私も未熟ということですし精進あるのみですからね。それに私は覚えておいて欲しいのです」
そう言うとアヅモが普段放っている雰囲気とは変わり、どこか切なさを感じる儚さがアヅモを覆っていた。
「時代は進み、進化し続ける。進み続ける技術も素晴らしいことだ。けれど進み続ければやがて前の記憶を忘れる者もいる。だから私はこうして場所として残したい。自然とふれ合い、慈しみの心を忘れないようにと」
「……………………アヅモさん」
「柄でも無いことをしてしまいましたね。どうか今の話は忘れてください。知らぬ骨の妄言ですから。では私はこれで。どうぞごゆっくりなさってください」
そう言うとアヅモは立ち去って行った。先程のアヅモの横顔には寂寥感が垣間見えていた。あの笑顔の裏には一体何があるのだろうか。しかし、レイヤは詮索するのはしなかった。その理由は言わずともしれている。過去を暴くということが如何に本人の心に刺さるのか、それはレイヤ自身が一番知っている。昼食を終えたレイヤとレイヴは都心へと歩いた。




