第十二話 天翼は空駆ける
「───────」
朝日の恵をいっぱいに詰めた野菜を慣れた手つきで食べやすい大きさに包丁で切っていく。次にレイヤは冷蔵庫、否、冷却魔茶釜から次々と食材を取り出していく。冷却魔茶釜はネルアに家具共々に貰い受けた物の一つだ。特別な素材で出来ているらしく、普通の茶釜と比べて一際大きくおおよそ中華鍋ほどの大きさであった。何よりその茶釜の中は魔力により空間が作られており収納性は抜群、素材には魔法の式がかけられていて自然と冷蔵の機能が発揮されるらしい。レイヤはそれをお湯を沸かすのに使おうとしたところ大惨事に遭っている。
手際良く調理を終えると弁当箱にそれらを詰めていった。今朝採れたばかりの野菜を炒めたものに炎牛のハンバーグ、マーシュポテトのサラダ、鮮血トマトに水の果実、弁当の支度はバッチリだ。この世界に来て不安だったのが食材のことだった。こっちの世界での食べ物は自分の口に合うのかどうかがレイヤの大きな課題だったが、それらは万事解決。地球で食べていた物とはほぼ変わらず今は安心して食を楽しんでいる。こっちの世界でも米は親しまれており、何よりアマノツキは米どころとしても有名らしい。普段落ち着いた様子のレイヤであるが、今日に限っては胸を弾ませいつもとは嬉しそうな雰囲気を出しながら家を出た。
「おー!レイヤー!こっちだこっちーー!!」
学園の入口に着くと先に来ていたレイヴが声を上げクラスの皆と共に手を振っている。レイヤは駆け寄り集合をとる。他にも集ったクラスがいて大勢が賑わっていた。そしてレイヤたちのもとにラクアが歩み寄って来た。
「みんな、おはよう。全員揃っているな。今日から東国アマノツキへの研修だ。あくまでこれは学習の一環として行くんだ、あまりハメを外しすぎないように」
そう言いラクアはレイヤたちを連れると広場に出た。広場に行くとそこには驚きの光景が目に飛び込んで来た。昨日、翼馬車、と聞いていたがその言葉には相反する容姿であった。馬と呼ぶには長すぎる首に純白の翼を悠々と広げている。顔つきはどこか竜を感じさせ長く伸びた髭を生やしている。それらを除けば体の特徴などは馬そのものであるが翼馬というのは竜と馬を合成させたキメラのような姿であった。二階建ての豪奢な客車を引いており洋風な出で立ちであった。
「でか………………」
「レイヤは初めてだったな。翼馬はとても頭の良い生き物でな、自身で魔力を操ることもできる。浮遊魔法を駆使して私たちを運び空を飛ぶことが出来るんだ」
ラクアの解説によりレイヤの疑問は霧散した。その疑問を他所にレイヤたちは翼馬車へと乗り込む。すると翼馬は天高く咆哮し魔力を使い浮遊魔法を客車にかける。それを合図に翼馬は駆け出し天へと昇る。その上昇速度はかなり早く一気に空の上へと着いてしまった。レイヤは窓を開くと、その広がる絶景に心奪われた。蒼く晴れた空に地平線の限りまで続く雲の群れ。
まるで心の穢れが祓われるような絶景であった。
─────そして、レイヤたちを乗せた翼馬車は東国アマノツキへとその白翼を羽ばたかせた。




