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空手のお誘い2

「叶太!」

 ようやくインフルエンザでの出校停止が解けた月曜日の昼休み。

 食堂にて、真四角の四人掛けのテーブルでハルと隣り合わせに座って弁当を食べていると、真顔の淳がやってきた。

「おう、どした?」

「いや、……今、ちょっといい?」

 前の授業が少し早く終わり、今は昼休みも始まったばかり。ダメと断る理由もない。

「座る?」

 と席を勧めると、淳はオレの隣、ハルの向かい側の椅子を引いた。

「ハルちゃん、ごめんね。お邪魔します」

「いいえ、ごゆっくり」

 にこりと微笑むハルに、淳も表情を崩す。

「ありがとう。けど、ハルちゃん、相変わらず、なんか言葉遣いが硬い?」

「あ、ごめんなさい」

 淳の指摘に、ハルは四月のやり取りを思い出したのか、大きな目を見開いた。

 そう言えば、オレは道場で会うけど、ハルが淳に会うのはあの日以来かも知れない。

「うーん。……まあいっか。ハルちゃんの言葉遣いは丁寧語って言っても、距離を感じると言うよりは、育ちの良さがにじみ出てる感じだし」

「……えっと、そんな事ないと思うんだけど。まだ慣れないだけで。本当にごめんね?」

 ハルが困ったように再度淳に謝るのを見て、オレは話題を変えた。

「で、何の用?」

 用事がなかったら来ちゃダメって事はないけど、オレに声をかけた様子からして、何か話があると見た。

「あ、そうそう。なあ、叶太」

「うん」

「空手部、入って?」

 また突然何を言い出すんだ、こいつは。

「それは四月に断ったよな?」

「それを承知で、お願い!」

 淳は突然、テーブルに手を突くと、ガバッと頭を下げた。

 その急な動きとテーブルを叩くようなドンッという音に、ハルがビクッと身体をふるわせた。

 やめてくれよ、ハルを脅かすなよ。

 さすがに、これくらいでどうかはならないけど、そう言うの、心臓には良くないんだぞ。

「入らないって、言ってるだろ」

 思わず声のトーンがグッと下がる。

「……カナ?」

 オレの冷たい声に、それを向けた淳ではなく、ハルが驚いたようにオレを見た。

 いかんいかん。ハルを怖がらせてどうする。

 大丈夫だよと手を伸ばし、お箸を持ったままに固まっているハルの手を取った。

 今日もハルの手は抜けるように白くてすべすべで、ひんやりしていて気持ちいい。ああ、この感触も久しぶりだ。(布団にくるまってる起き抜けは、もう少しあったかくて、その感触はもちろん朝、楽しんだ)

 深夜0時過ぎに家に戻って、久しぶりにハルの顔を見た。寝顔だけど、本当に感慨深くて、ぽっかりと穴の開いていた心が暖かいもので……ハルで満たされた。

 それから、まだたった半日しか経っていない。

 そうだよ。オレは淳の顔より、ハルの顔を見てご飯を食べたい。

 それに、こんなところでハルの時間を取ってしまったら、後が大変だ。ハルは食べるのがゆっくりだし、消化に悪いから慌てさせたくもない。

「悪いけど、オレたち3限もあるから、その話、またでもいい?」

 またと言いつつ、聞く耳を持ってる訳じゃないけど。

「あ、いや、俺も3限あるから長話するつもりはないんだけど」

 と淳は食堂の壁に掛かった時計に目をやって首を傾げた。まだ昼休み終了まで五十分近くある。

「あの、ね……カナ、話してて大丈夫だよ? えっと、わたし、先にお弁当食べてるし」

 と言うと、ハルはオレの返事を待たずに、淳に声をかけた。

「わたし、食べるのがとっても遅いから、カナ、心配してるんだと思うの。でも、カナだけなら、まだ時間いっぱいあるし、しゃべってて大丈夫だと思う」

「ハールー」

 ハルの気遣いは嬉しいけど、それに関しては、オレ、話す必要を感じてないからね?

 だけど、淳はハルの言葉を真に受けて、ハルに満面の笑顔を返す。

「ハルちゃん、ありがとうね? 本当にいい?」

「うん」

 そう言って淳に微笑みかけた後、ハルはオレの方をじっと見つめる。

 その目が、ちゃんと聞かなきゃダメじゃないと言っているようで、オレは言葉に詰まる。

 それでもオレが何も言わずにいると、

「きっと、何か事情があるんじゃないかな?」

 と言って、ハルは小首を傾げて悲し気にオレを見た。

 友だちだったり、人間関係だったりをとても大切にするハル。オレの十年来の友人である淳への気配りも万全だ。

 本当に、久しぶりのハルとのランチタイムにとんだ乱入者だよ。

 いや、ただ一緒に食べるだけなら別に良い。ハルとは朝食も一緒に取ったし、夕飯だって一緒だ。

 だけど、ハルを放置して、既に一ヶ月以上前に終わった話を再度するとか、あり得ないし。オレが聞く耳持たなくったって、仕方なくない?

 だけど、ハルの悲しそうな顔を見て、オレがハルの望まない言動を取れるはずはない。だから結局、淳の話は聞くことになってしまう訳で……。

「ああもう、……食べながら聞くだけだぞ?」

「ありがとう!」

 淳は嬉しそうに笑って言いながら、

「俺も食べていい?」

 とリュックから、でかい弁当箱を取り出した。



 て訳で、弁当を食べながらの淳の話が一段落。

「……で、なにか? 一言でいうと、指導できる人間がいないから、手伝いに来い、と」

「そうそう」

 今まで教えてくれてた先輩がみんな就活とか資格試験とか実習とかで来られなくなるとか、今年は初心者ばっかりたくさん入って手に余るとか、そんなん、オレに関係ある?

 いやそもそも、淳だって入部したばかりだろ? そんな運営部分なんて、来れなくなった上級生が考えることなんじゃないの?

「むーりー」

「週一でいいから! お願い! 叶太、道場じゃ教えてるじゃん」

 昔からお世話になってる道場の方でなら、有段者が子どもとか初心者・中級者に教えるのは当然だと思ってる。

 だけど、まるで縁のない大学の部活で教えるなんて、とてもやる気になれない。

 そもそも大学の部活って、流派とかどうなってんの?

 試合だったら、色んなところのが来ると思うけど、道場によって、型とか少しずつ違うだろ? まったくの初心者ならともかく、よそで少し習ってるとか言われたら、教えようがない。

 そんな面倒を考えたら、とても気軽に引き受けるなんて無理。

 何より、ハルとの時間を減らす気は、オレにはない。土日に行くことが多い道場だって、ハルの事を想うと若干後ろ髪を引かれるのに。

「淳がいれば十分だろ?」

「いや、足りないから声かけてるんだし」

 淳もオレと同じで黒帯。それに、試合にも出て結構いい成績取ってるし、わざわざオレが行く必要を感じない。

 そんな会話をしながらも、オレも淳も弁当を食べる手は動いている。

 ハルはオレたちの話に口をはさむこともなく、ゆっくりと、いつものように丁寧にお弁当を口に運ぶ。

 オレと目が合うと、ハルはにこりと笑ってくれた。

 可愛い。今すぐ抱きしめたい。……けど、今ここでやったら怒られるのは間違いないから、諦めた。

 ハルはそのまま、またお弁当に意識を戻した。オレも目の前の弁当に手を付ける。オレはほぼ食べ終わり。ハルはまだ半分くらい。

 沙代さんの弁当は相変わらず美味い。

 昨日の夜までいなかったオレが今朝になって突然顔を出したのに、沙代さんは笑いながら朝食も弁当も準備してくれた。

「もしかして、と思ってたんです」

 どうやら、最初からオレの分も用意してあったらしい。

 そうだよね? 月曜日解禁と言われて、オレが大学行く時間まで我慢できるはずないよね? 何しろ、日が昇る時間すら待てなかったんだから。

 つまり、オレが牧村の家に戻ったのは、深夜0時ピッタリ。月曜日に日付が変わった瞬間だった。

 だからオレは、

「さすが沙代さん!」

 と笑った。

 だけど、ハルは沙代さんの言葉に本気で驚いたみたいで、目を丸くしていた。

「……って、叶太、聞いてる?」

「……ん? もう話、終わったよな?」

 オレ、今、ハルのこと考えるのに忙しいんだけど。

「終わってないし」

 と淳がため息を吐く。

「型だってさ、みんなで同じの練習する訳にはいかないし」

「別に同じの打ってりゃいいんじゃない?」

 そんな初心者や初級者ばっかりだったら、試合に出るとか考えなくてもいいよな?

 大体、部活で空手ってのがイメージ湧かない。

「頼むよ、叶太~」

「嫌だって言ってるだろ」

 オレは基本的に社交的な方だと思ってる。

 誰とでも仲良く話せた方が色々楽だし、何より、オレが誰かから恨みを買ってハルに危害を加えられるようなことは絶対避けたいし。

 だからって、こういう無理強いは嫌いだ。

 オレからハルとの時間を奪うとか、あり得ないだろ?

「他を当たれよ。探せば黒帯の一人や二人いるだろ」

 思わず冷たい声で突き放すように言うと、またしてもハルが固まった。

 デザートのイチゴをつまんだハルの手が空中で止まっている。

 ごめん。ハルに怒ったんじゃないよ?

 そう伝えたくて、オレは慌ててイチゴを持っていない方のハルの手を握る。

「……えっと、カナ?」

「ん? どうした?」

 淳と話している時の十倍くらい甘い声になってる自覚はある。

 それを聞いて、ハルが数度瞬きした。

「あのね、……一度、行って来たら?」

 ハル、それってどういう意味?

 話の流れから、分からなくもない。だけど、一応聞いてみた。

「……どこに?」

 忌々しい事に、淳の嬉しそうな顔が目の端に見えた。

「えっと、空手部の……練習?」

 小首を傾げてオレの目をじっと見つめるハル。

 ダメだよ、ハル、そんな顔で見られたら、オレ、どんな我がまま言われても聞いてしまう自信があるんだから!

 だけど、オレの心の声など知らないハルは、オレの目を見てふわぁっと蕾が花開くように優しく笑った。

「わたし、見てみたいな」

「……え?」

「カナが空手するところ」

「……ハル?」

 ハルが言っている事が何なのか、頭のどこかでは理解していた。だけど、久々の満面笑顔のハルを間近に見て、オレは一瞬、我を忘れた。

「見学しに行っても良いって、谷村くん、前に言ってた……よね?」

 ハルはオレの手をきゅっと握り返し、そのまま淳の方に目を向けた。

 淳がこのチャンスを逃すはずはない。ハルというオレの弱点を淳は見事に突いてきた。

「もちろん! いつでも来て? ハルちゃん用の椅子も準備するし!」

「淳!」

 オレは瞬時に表情を硬くして淳を睨みつける。

 だけど、その瞬間、またハルがビクッと震えた。

「ハル、ごめん、大きな声出して」

 慌ててハルに向き直って謝ると、ハルはとても困った顔をしていた。

「……あの、ごめんね、カナ。そんなに嫌なら、わたし……」

 困った顔と言うより、泣きそうな顔と言うか、とにかくハルはすごく悲しそうに、小さな声で先を続けようとしたのだけど……。

「ああ、ごめん、ハル! 全然、大丈夫だから! ハルが見たいなら、練習見るくらい、いつでも大丈夫だから!」

 気が付くと、オレはハルの指先のイチゴごと、ハルの両手を包み込み、ハルの好きなようにすればいいと口にしていた。

 隣の淳はしばらくの間、オレがハルを慰めるのを見守った後、徐に言った。

「練習さ、月・水・金なんだけど、いつ来る?」



 結局、今日は道着を持ってないからって、顔を出すのは水曜日になった。

 淳には、一回行くだけだとしっかり釘を刺した。それでも、万が一を期待してか、淳はものすごく嬉しそうに礼を言ってきた。

 いや、だから、入部はしないからね?

 淳と別れてから、ハルには、どうしても見たければ道場の方に見に来ればいいんだよと言ったけど、大学の部活動と違って行きにくいと言う。確かに、子どもの付き添いの親はいなくはないけど、試合ならともかく稽古に家族を引き連れてくるような人はいない。(もちろん、空手をやってみたい家族の見学なんかはあるけど)

 ためらうハルの気持ちも分からないでもなかったし、ハルがとても嬉しそうにしていたし、ハルが喜ぶならまあいっか、と淳へのいら立ちはスーッと引いていった。



    ☆    ☆    ☆



 その日、家に帰ってから、ハルに聞いてみた。

「ところで、ハルは、なんで空手の練習なんて見たかったの?」

「だって……」

 とハルは少し困ったようにオレを見て、それから少しばかり頬を染めて、そっと目を伏せた。

「だって、大切な旦那さまが、ずっと続けてきたもの……でしょう?」

 え? ハル、今、何て言った!?

 大切な旦那さま!! って言ったよね!?

 その言葉に思わず、ハルを凝視する。

 口下手なハルからもらった思いがけない言葉に、オレの気持ちは一気に浮上。

 ハルは恥ずかしそうに、そんな受かれたオレの顔を見る。

「なのにね、わたし、カナが空手をするところ、一度も見たことないなって思ったら、ちゃんと見たくなって……」

 気が付くと、オレはハルをギュッと抱きしめていた。

 ハルの髪に顔をうずめて、片手で髪をもてあそび、もう片方の手でハルの薄い背をゆっくりとさする。ハルの髪からはラベンダーの香りがふわりと漂う。

 ああ、久しぶり。この感じ。

 ……幸せだ。

「そうだね。道場の方は結構、激しい組み手とかもあるけど、大学の方だったら、ハルが驚くような事はなさそうかな」

 有段者が淳しかいないところに教えに行くくらいなら、ハルの心臓がどうこうするような事はきっとないだろう。

 うん。そう思うと、淳が持ってきた話もそう悪くないのかも知れない。

 ……一回限りで済むのなら。

 ああ、でも、やっぱり心配だ。

 何があるか分からないし、同じ場所にいたとしても練習中はオレ、ハルの側にいられないし。

 ……水曜日の夕方は兄貴を頼もう。

 うん。そうしよう。

 淳に怒ってたことなんてもうすっかり忘れて、オレの頭は水曜日の段取りに向けて回転し始めていた。

「ごめんね、無理言って」

 オレが何を考えていると思ったのか、オレの腕の中でハルは心底申し訳なさそうに謝る。

「気にしないで。見たいって言ってくれて、嬉しいよ、ハル」

 別に誰かに見せるために続けてきたわけではないし、小学生の時、ハルが具合を悪くしたシーズン以降、試合には出なくなった。

 オレが通う道場では、淳も他の人も、全員じゃないとはいえ、割と多くの人が試合に出ていた。そんな訳で、小学生のオレも誘われるままに何となく試合にも出るようになり、じきに勝てるようになってきた。

 やっぱり勝てると面白くて、一時期はけっこう空手にのめり込んだ。今もしている朝のトレーニングを始めたのもあの頃だ。

 そうして気が付くと、県の強化選手に選ばれていて、全国大会行きも決まっていた。

 そんな頃に、軽い気持ちで、近場で行われた大会にハルを呼んだ。

 ただ、ハルにも見て欲しいなって思って。

 だけど、試合が終わった後、ハルはオレの試合を見るどころか、試合が始まってすぐに具合が悪くなって帰ったのだと聞いて驚いた。

 強くなければハルを守れないからと始めた空手だった。なのに、その空手のせいでハルが倒れたなんて!!

 正直、肝が冷えた。

 そして、そのシーズンの最後の試合が終わった後、オレは試合に出るのはきっぱり止めた。

 そもそも、全国大会に出ようと思ったら、幾つもの試合に出て、相応の結果を残す必要がある。すると、ハルに会える時間も減る訳で、それもオレの本意ではないと気が付いたんだ。

 それでも空手は好きだったから、以降は自己鍛錬のためだけに続けてきた。

 ハルが具合を悪くした年に、もう一度試合を見せようなんて話が出る訳もなく、その後はオレが試合に出るのを止めた、そんな事情もあって、これまでハルにオレが空手をするところを見せる機会はなかった。

「あのね、カナ、わたしもう平気よ? 小学生の時みたいな事はならないからね?」

 いや、ハル、言いたいことは分かるけど、やっぱりオレ、すごく心配。

 だから、兄貴の付き添いは絶対だよ? 兄貴の予定、まだ聞いてないけど。

 だって、同じ場所にいたとしても、稽古に入ったら、ハルの事を見てはいられない。

 誰かを教えているような時じゃなくたって、基本稽古の時でも、型を打つ時でも、幾らオレがハルを心底愛していても、それはできないから。

「……きっと大丈夫だと思うよ? だけど、ハル、気分悪くなったら、すぐに教えてね?」

 まずは兄貴に、その後はオレに。

「カナの心配性」

 ハルはオレがまったく信じていないのが分かったみたいで、そう言って笑いながらも、何かあったらすぐに言うと約束してくれた。



    ☆    ☆    ☆



 水曜日の放課後、型の見本を見せて、部員たちの練習を見た後の休憩時間。スポーツドリンク入りの水筒を片手に壁際に置かれたパイプ椅子に座るハルのところに行くと、

「カナ、すごい! すごく素敵だった!」

 ハルは珍しく興奮し、目をキラキラ輝かせて、パイプ椅子から立ち上がってオレを見た。

「あのね、何ていうのかな、ものすごく綺麗だったの! とっても!」

「えっと、ありがとう」

 ハルの隣では、同時に立ち上がった兄貴が興奮気味のハルを笑顔で見守りつつ、ハル同様に

「うん、ホント、すごく良かった」

 と誉め言葉をくれた。

「叶太、お前、本当に空手できたんだな」

 兄貴、それはちょっと失礼だと思う。

 一応、段位持ちなんだけど、これでも。

 でもまあ、空手をやっているオレを見るのは、兄貴も小学生の時以来。あの時は組手だったから、兄貴にも型を見せるのは初めてだ。

「えっと、ハル、この後、組手やるんだけど、……具合悪くなったら、言ってね?」

「え? 大丈夫だよ」

 ハルはまだ目を輝かせたまま、嬉しそうな満面の笑みでオレを見ていた。

 いや、でも、ハル、型と組み手って全然違うから。

 これまでやった基本練習と型では、対戦相手ってものはいない。

 だけど、この後の組手は、言い方は悪いけど、言ってしまうとルールのある殴り合いだから。

「兄貴、頼んだよ?」

「ああ、大丈夫。それは任せて。……けど、そんな激しくやらないだろ?」

 うん、確かに。

 しっかりやれる相手は、今日はいない。

 金曜日には、黒帯の先輩も何人か来るらしいけど。

「と思うけど、……ああ、淳とやると、けっこう激しいかも」

「手抜いたら?」

「……やられるでしょ、そしたら」

 そう言うと、兄貴は

「そりゃそうだ」

 と笑った。



 結局、組み手でもハルは具合を悪くすることはなく、終始嬉しそうににこにこしていた。

 そしてしきりに、オレの事をすごい、素敵、カッコいいと褒めまくる。

 一緒にいた兄貴まで褒めてくれて、そこに調子に乗った淳がやってきて……。

 気が付くと、なぜかオレは空手部に入部する事になっていた。

 ただし、毎回は来ない、多くても週一しか来ない、水曜日にしても毎週は確約できないと釘を刺しまくり、それでも良いと言われての入部。

 早速、歓迎会をという言葉は丁重にお断りをして、その日もハルと一緒に家に直帰した。

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