06 お屋敷で世話になっています。
予定を繰り上げて、本日2話目を投稿します。
誘拐事件から数日が経過した。
いま俺は住み慣れた安宿を引き払い、ライラさんの屋敷で世話になっている。
王都の一等地にある大きな屋敷。
だが時折掃除業者が入るくらいで使用人はおらず、家事は全部ライラさんがひとりでやっていた。
「ただいま戻りました」
「おかえりなさい、ユウくん。
今日のお仕事はどうだった?」
扉を開けて玄関ホールに入ると、変な格好をしたライラさんが出迎えてくれた。
なんでもこの白い服は『割烹着』というらしい。
「どうって別に変わり映えないですよ。
ただの薬草採取依頼ですからね。
これ、今日のクエスト報酬です。
どうぞ」
「もう、何度も言ったでしょう?
お家賃なんていらないの。
だってここは、ユウくんの家なんだから」
「ここはライラさんの屋敷でしょう。
さすがに寝泊まりだけでなく食事まで頂いて、なにも支払わないわけにはいきません。
多くはないですけど、せめてこのお金くらい受け取って下さいよ」
「ユウくんってば真面目さんねぇ。
わかったわ。
じゃあお金は受け取ります。
このお金はユウくんの将来のために、お母さんがしっかりと貯金しておきますからね」
「いや、そうじゃなくてですね……」
「もういいじゃない。
それより晩ごはんにしましょう。
ユウくんお腹空いてるでしょう?
お母さん、腕によりをかけて、美味しいの作っちゃったんだから!」
晩ごはんという言葉を聞いて、俺のお腹がぐぅと鳴った。
「あ。
す、すみません……」
「うふふ。
謝ることなんて、なんにもないのよ。
さぁ、手を洗ってらっしゃい」
すこし垂れ目がちなライラさんが、優しそうに微笑む。
なんだかその笑顔に、少し胸が暖かくなった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「はい。
今日はユウくんの大好きな、ハンバーグですよぉ」
熱されたプレートの上に、熱々の肉の塊が乗っている。
見慣れない料理だ。
「こっちだと豚と牛の合挽肉が手に入らないでしょ。
だから野生猪と大箆鹿のお肉で代用してみたの。
日本のハンバーグよりちょっと野性味が強いけど、結構美味しくできたわよ。
お母さん頑張ったんだから!」
プレートの上でジュウジュウと肉汁が弾けている。
美味そうな肉の匂いが、否が応にも食欲を刺激してくる。
ライラさんの言葉は、意味不明でわからないことも多い。
だけど、きっとこの料理がとんでもなく美味しいだろうことだけは、はっきりとわかった。
「ユウくんったら、そんな物欲しそうな顔しちゃって!」
「し、仕方ないじゃないですか。
すごく美味しそうですから。
ここ何日かライラさんの手料理をご馳走になってますけど、どれも頬が落ちそうなくらい、美味しかったですし」
「まぁ、ユウくんったら!
そんな風に言ってくれたら、お母さん嬉しくてもっと頑張っちゃうわ!
さ、さ!
はやくテーブルについて。
冷めないうちに食べましょう」
促されて席につく。
目の前に差し出された肉の塊にナイフを入れると、中からジュワッと肉汁が溢れ出してきた。
ゴクリと喉がなる。
「そ、それじゃあ、頂きます」
「はぁい。
愛情たぁっぷり込めてるのよ。
たんと召し上がれ」
大きめに切り分けた肉の塊を、ぱくっと口に放り込む。
旨みたっぷりの脂が舌の上に溶け出した。
口いっぱいに野性味に溢れた肉の味が広がった。
食感が柔らかい。
これはひき肉の柔らかさ。
何度も包丁で叩いて、肉を細かくしてくれたのだろうか。
手間ひまを掛けて作られた料理だ。
「……どうかしら?
美味しい?」
「はい……。
すごく美味しいです。
こんな素晴らしい料理、いままで食べたことがありません」
「まぁ、嬉しい!
うふふ。
ユウくん、手ごねハンバーグ大好きだったものねぇ」
ライラさんが、ぱんっと手を合わせて喜ぶ。
花が咲いたみたいな笑顔だ。
食べるのに夢中になった俺は、じぃっと見つめてくるライラさんの視線も気にせずに、料理にがっついた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
食後、ふかふかのソファに横になった俺は、いつの間にか眠っていた。
頭の下に、柔らかいものが敷かれている。
誰かの手のひらが、俺の頭をさわさわと撫でている。
なんだかとても、気持ちがいい。
「ん、んぁ……。
眠ってしまっていたのか」
体を起こそうとすると、そっと押し戻された。
「まだ起きなくていいのよ」
「ライラさん⁉︎
ってこれ、膝枕⁉︎」
「うふふ。
ユウくんの寝顔、たっぷり眺めちゃった。
食べちゃいたいくらい可愛い……」
「も、もう!
なにいってんですか!」
「こぉら。
まだ起きなくていいって言ったでしょ?
ユウくんは、昼間のお仕事で疲れてるんだから。
それより、ユウくん。
すこしお母さんと、お話しましょう?」
たしかに疲労は感じている。
ライラさんには言っていないけど、実は薬草採取だけではなく、土方の仕事もしているのだ。
そうして得たお金の半分をライラさんに渡して、残り半分を貯蓄しているのである。
「ね、ユウくん。
ユウくんって、薬草採取以外にもなにか働いてるでしょう?」
「知ってたんですか?」
「そりゃあ分かるわよ。
お母さんだもの。
ユウくん毎日くたくたになって帰ってくるしね。
薬草採取だけじゃ、そうはならないわよ。
ね、なにをしているの?」
「……実は肉体労働を少し」
「ふぅん。
どうして掛け持ちで仕事をしているの?」
「お金が欲しいんですよ。
実はちょっと事情がありまして」
「そうなんだぁ。
事情というのは話せないの?」
「……すみません」
「ふふ。
少し寂しい気もするけど、いいのよ?
ユウくんにも、話したくないことくらいあるわよね。
あ、そうだ。
ユウくんさえよければ、このお屋敷をユウくんにあげてもいいのよ?
そうすれば、宿代なんかの節約ができるでしょう?
なんならユウくんのことは、お母さんが養ってあげましょうか?」
「なに言ってるんですか。
そこまで甘えるわけにはいきませんよ。
自分のことは自分でできます」
「そう……。
じゃあお金をあげ――」
「施しは受けません」
「もうっ。
ユウくんってば、強情ねぇ」
ライラさんがわずかに膨れてみせた。
その表情に、すこしドキッとする。
「あ、そうだ!
だったらユウくん。
こういうのはどうかしら」
「……なんでしょうか?」
「前に言ってた、パーティーを組む話。
ふたりでパーティーを組んで依頼を受けましょう。
そしたら薬草採取なんかじゃなくて、もう少し効率のいい依頼が受けられるわ!」
「いや、それは結局施されてるんじゃあ……」
「決まりね!
楽しくなってきたわぁ!
ユウくんと一緒にクエストデートぉ」
断ろうとしても、浮かれたライラさんはもう俺の話を聞いていなかった。




