38 雌犬捕獲作戦・成功編
マリエラのシエル捕獲作戦は難航を極めた。
眠らせたユウクスを囮にしてシエルを捕まえようとすると、どうやっても先に当のユウクスを襲ってしまうのである。
作戦に根本的な問題があることは、もはや明確だ。
そう考えたマリエラは、新たなアプローチで作戦を練り直した。
◇
夕食後。
マリエラはライラを自室に呼び出していた。
「お母さん。
聞いて欲しい」
「どうしたのマリちゃん。
あ、今日も作戦実行しちゃう?
昨日はマリちゃんにユウくん取られちゃったけど、お母さん、今度は負けないわよぉ。
でも最近シエルちゃんってば、ユウくんに睡眠薬を盛ってくれないのよねぇ。
どうしたものかしら……。
あ、そうだ。
お母さんが子守唄でユウくんを寝かしつけましょうか?」
「いや、眠らせない。
何度も失敗してわかった。
この方法じゃ、あの狡猾な雌犬は捕まえられない」
「うーん……。
そうねぇ。
シエルちゃんもすっかり警戒しちゃってるみたいだし。
じゃあどうするの?
もう作戦は諦めちゃう?」
「諦めない。
あたしに考えがある。
ちょっと耳を貸して。
ごにょ、ごにょ……」
「ふむふむ。
あらあら?
まぁまぁ!
それはいいアイデア……なのかしら。
うーん。
もしかすると、ユウくん怒っちゃわない?」
「大丈夫。
きっとユウならわかってくれる。
これも全部、雌犬の悪事を暴くため。
つまりはユウを思ってのこと」
「う、うーん。
そうねぇ。
でもぉ……」
渋るライラにマリエラが焦れてきた。
「ならお母さんは参加しなくていい。
全部あたしひとりでやる」
「わ、わかったわよぉ。
お母さんもやるわ。
でもユウくんが怒りそうになったら、お母さんすぐにやめますからね」
「それでいい。
きっとユウも、気持ちよくなっちゃって、怒るどころじゃなくなる」
「オッケーよ。
じゃあ具体的に作戦を詰めましょうか」
「ん。
まず最初はあたしがごにょごにょして……。
その次にお母さんが……」
密室に母と娘のひそひそ声が消えていく。
こうしてマリエラ発案の新しいシエル捕獲作戦が、実行に移される運びとなった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
気付くと身動きが取れなかった。
「な、なんだこれ⁉︎
俺、どうなって……」
どうやら俺は、自室のベッドに大の字にされて括り付けられているようだ。
「くっ……。
全然動けない。
そ、それになんだ、この格好は。
!」
ベッドの四隅に手足を括り付けられた俺は、。
、縛られていては、それも叶わない。
「ん……。
んん……」
誰かのくぐもった声が聞こえた。
首を捻ってそちらを眺める。
すると部屋の隅に、椅子に縛り付けられ、自由を奪われたシエルがいた。
「んん?」
どうやら彼女も、今の今まで気を失っていたらしい。
状況が掴めないとばかりにキョロキョロ室内を見回してから、ベッドで裸にされている俺に目を止めた。
「ん⁉︎
ほんんひゃん⁉︎」
「シ、シエル⁉︎
お前までどうして!」
シエルは俺とは違い、ちゃんと服を着ていた。
だが代わりに猿轡を噛まされている。
、身動ぎするのをやめて、ガン見してきた。
「ちょ、おま!
シエル!
!
」
だが彼女は言うことを聞かない。
。
「だ、だめだって……。
お前……。
……」
。
。
「あ、あ……。
ちょ、ちょっと。
あれ?
ま、待ってくれ……」
。
止めようとしても止まらない。
やがて。
「んんー⁉︎
んんんん……」
。
……死にたい。
恥ずかし過ぎて、死にたい。
「はは……、はははは。
……殺せ。
……いっそ殺してくれ」
情けないやら恥ずかしいやらで、感情はめちゃくちゃだ。
でも俺は気付いていた。
。
。
◇
「あらあら、まぁまぁ。
ユウくんったら、……。
ちょっと妬けちゃうわね。
うふふ。
まぁいいわ。
それで、もうそろそろいいわよね、マリちゃん」
「ん。
準備は万端」
ライラさんとマリエラの声がした。
暗がりに身を潜めていたふたりは、姿をあらわすなり、括られた俺のもとまで寄ってくる。
ベッドは月明かりに照らされている。
ライラさんもマリエラも、
おそわれたユウくん
「やめない。
これはシエルに見せつけている。
そういう作戦。
」
「んはぁ!
だ、だめだマリエラ!
」
◇
作戦が成功した。
その刹那――
「そこまでだ!」
マリエラが止めに入った。
「っ⁉︎
はなして!
いやっ、いやぁ!
はなしてください、マリエラさん。
はっ、はっ、はっ、はっ。
ぅぅぅぅ……!」
「暴れるなシエル!
どうだユウ。
これがこの雌犬の本性だ!」
呆然としてしまう。
あんなに可憐で清楚だったシエルが、暴れている。
「ぅぅぅぅ……。
おにいちゃん。
おにぃちゃぁん!
、しくしく」
「は、ははは……」
女の人は怖い。
俺からはもう、渇いた笑いしか出てこなかった。




